2 ゴメンなさい、責任持ちます。10


 フォンシャンは、飛び起きた。
「オーザ!」
「おはよ、フォンシャン」
 オーザはエプロン姿でそう言った。オーザは、フォンシャンに地
図と、かわいらしいイチゴのハンカチに包まれた箱を渡した。
「地図とお弁当。どうせじっとしてられないんでしょ。ここから例
のお嬢様がいる所はそんなに離れていないけど、フォンシャン方向
音痴だからねー。ちゃんと地図を見ながら行くんだよ。ここからい
るところまでの地図で、一応魔術練りこんであるから、迷うことは
ないと思うけど」
 オーザはフォンシャンの背中を軽く撫でると、外まで押して行っ
た。
「行ってらっしゃい。がんばってね、恋」
「うん……て、えぇっ」
「結婚よりも恋愛が先。大事なこと忘れちゃダメよ〜」
「分かってるって。でも、そっちの方が照れる」
 そう良いながら馬にまたがるフォンシャンを、オーザは不可解そ
うな表情をした。
「普通、恋愛より結婚のほうが重し、考えちゃうと思うんだけど
なぁ」
 オーザはひらひらと手を振ると、フォンシャンを見送った。
 外はすでに朝だった。小鳥の鳴き声と、風が葉を揺らす音が聞こ
えてくる。
「ボイスって、以外と優しいのね」
 オーザに貰った朝食代わりの弁当をぱくついた。その後、地図を
しばし見つめ、馬を飛ばす。
「ったく、シュウのばかっ。どこに居るかぐらい教えて置いてくれ
たって良いじゃないかぁ」
 フォンシャンは少し身勝手なことを言う。
 しばらくすると、フォンシャンは馬を止めた。
「この距離なら、転移するかな」
 フォンシャンは言いながら指先から魔法陣を描き始めた。空間に
大きく描き出された魔法陣に、馬ごと突っ込んだ。

 疲れた表情でフォンシャンは馬を止めた。目を少し上げると、小
さな村が見えた。村の周りには、建設中の家が見られる。どうやら
軍隊を駐在させるために急遽家を建てているようだ。
 村のずーっと背後には、森の木々に囲まれて灰色の壁がのぞいて
いる。
 フォンシャンはある姿を見つけて、馬を走らせた。
「シュナイザー!」
 フォンシャンはそう言うなり、馬上から飛び降りてシュウに抱き
ついた。周辺にいた兵士らが一瞬身を引く。それもそのはず、シュ
ナイザーは男として扱われているためだ。そもそも、指揮官にこう
して抱きつく者がいるとは思わなかっただろう。
「フォンシャン……どうしてここが分かった」
 シュウはフォンシャンを抱きつかせたまま、迷惑そうに言った。
「愛、だよぉ」
 周囲の目をまったく気にせず、フォンシャンはシュウを抱きしめ
る。
「取りあえず、他の者の目もあります。部屋で話をしましょう」
 シュウの言葉に、回りの兵士がざわめいた。言いたいことはなん
となく雰囲気から伝わってくる。シュウは鈍いのか、それとも分か
りつつフォンシャンを放置しているのか……
 シュウは村の家の一つにフォンシャンを通した。家の中は、城か
ら持ってきたのであろう物が幾つか置いてあり、それが家の雰囲気
から浮いていた。従者と思われる男性兵が一人いて、シュウが「お
茶を」と言うと、すかさずお湯を沸かし、紅茶をいれてシュウとフ
ォンシャンの前に置く。
「出ててもらえるか?」
 シュウは従者にそう言うと、フォンシャンと部屋に二人っきりに
なった。小さなテーブルをはさんで二人が腰を落ちつかせる。
「それで。なぜここに?」
「会いたかったから」
 フォンシャンはニコニコと笑顔を浮かべる。シュウはため息をつ
いて言う。
「でも、戦闘には加わらない」
「……それについては少し考えさせて。アークから休暇をもらった
けど、俺が出て行っていいものか、と思ってね」
 フォンシャンはそう言って紅茶をすする。シュウはしばらくフォ
ンシャンの顔を見つめていたが、ティーカップを手にため息をまた
ついた。
「貴方と、言い争うつもりはありません。あれは私の思いあがりで
すから。私を助けてくれたのだから、私の国も助けてくれる、と」
 シュウは紅茶を一口飲み、軽く目をつぶった。フォンシャンは無
言になった。
「この話は忘れましょう。私は、貴方に負担をかけたくはないです」
「んーん。俺、シュウのこと好きだから負担じゃないかな。別に大
小かかわらずよろしくない事を無視する気はないから」
 フォンシャンは椅子にだらしなく持たれかかり、あくびをした。
「ちょっと、疲れたかな。この村って、泊まるところある?」
「あることはあるだろうが、軍が大半を埋めてしまっている。そこ
にベッドがあるが、使ってもかまわない」
「一緒に寝る?」
 フォンシャンは勢い良く起き上がって、そうほざいた。シュウは
とっさにフォンシャンの額を手袋でひっぱたいていた。
「冗談を言うな。そんな青い顔をしたら、野宿なんてさせる気には
ならない」
「顔、青い?」
 フォンシャンは自分の頬をさすって気にする。シュウはフォンシ
ャンから少し離れ、言った。
「少し。大丈夫なのか? 私をトランザ伯の城から救い出す時に相
当無理をしたと聞くが」
「そうでもないよ――誰に聞いた?」
 フォンシャンは目を細め、シュウをいぶかしげに見た。
「アークの制服を着ていた。オーザという女の方だ」
「あ、う。会ってるんじゃん、オーザ……」
 フォンシャンはうめいて、テーブルに額を打ちつけた。
「とりあえず、お言葉に甘えてベッド借りるよ……今度出て行く時
はお願いだから声かけて。心配になっちまう」
 フォンシャンは再びあくびをすると、部屋の奥へと入って行った。
シュウはその後ろ姿を複雑な表情で見つめていた。

「なにか、利用してしまっているようで苦しいな」
 そう言って紅茶を一口飲むと、扉がノックされた。
「入れ」
 シュウの言葉に姿を現したのはエスカイザだった。従者が居ない
所を見ると、お忍びで来ているようだ。
「エスカイザ殿、これは失礼した」
 シュウは立ち上がってエスカイザに礼をする。エスカイザは公爵
家の息子で、伯爵家の娘であるシュウは身分は下だ。
「どうぞお座りになってください。少し汚いところですが」
「仕方ないですよ、国境に近い小さな村なんですから――やはり、
決意は堅いのですか?」
 エスカイザの問いかけに、シュウは少し黙っていたが、確実にう
なずいていた。エスカイザは目を細め、シュウに顔を近づけた。エ
スカイザの手は、シュウの顎を捕らえていた。
「どうして、私の物になろうとしない?」
 切れ長の瞳が、憂いに満ちていた。シュウを愛おしそうに見つめ、
身を乗りだし、更に顔を近づける。
「逆にお聞きさせていただきます。なぜ私に力を貸したのです?」
 シュウの問いかけに、エスカイザは彼女の手を握った。
「それは、貴方を愛しているからだ。もちろん、私の領内が危険に
さらされるのは困る。だがそれは民への言い訳だ。貴方が戦場に立
つと言うのなら、私は全てをかけて守る」
「そうか……」
 そう言ったシュウの唇は、エスカイザにふさがれた。シュウはエ
スカイザの腕を掴んで離れた。シュウの頬はいささか上気している。
「エスカイザ様……このような場所でお戯れはやめてください」
 エスカイザは立ちあがり、シュウを無理やり立たせる。その腰を
抱き、エスカイザは耳元でささやいた。
「戯れではない。実際、貴族の娘に戯れも何もないだろう、シュナ」
 エスカイザは再度シュウの唇を奪う。唇を離したかと思うと、手
の甲に口付けをして出て行った。
 シュウは家の鍵を閉め、扉を背にして寄りかかった。気持ちを落
ちつかせるためか、ゆっくりと深呼吸をする。
 シュウは思い立ったように、フォンシャンが寝ている部屋へと入
った。
 フォンシャンは寝る際、どうしても脱がずに入られないのか(そ
れでも全裸は遠慮したのだろう)、上半身裸のままベッドの上に転
がっていた。
「フォンシャン……私と貴方では生きる世界が違うのですか?」
「ん……?」
 フォンシャンはうめいてうっすらと目を開けた。
「寝たふりをしてのでしょう」
 シュウに言われ、フォンシャンはゆっくりと起きた。
「だってね、聞いちゃいけないかと。ライバル、多いや」
 フォンシャンはクスクスと笑ってまたベッドに倒れた。シュウは
困ったような表情を浮かべる。
「そうやって、私のことを面白がっているのですね」
「そんなことで、こんなところまで追いかけてこないって」
 フォンシャンは手を伸ばしてシュウの手をつかんだ。その手に、
子供のように頬をすり寄せていたが、そのうちに眠りについた。
「面白い、人」
 シュウはフォンシャンの寝顔を見ながら呟いた。ふと、コツコツ
と言う窓を叩く音を聞いて、シュウは音の方向を見た。窓の外に聖
鳥シグルがとまっており、くちばしで窓をつついていた。シュウは
窓を開けると、シグルを中に誘いこむ。シグルは中に入ると、部屋
を一度旋回してベッド枠にとまった。
「本当に不思議な人。シグルをなつかせるなんて」
 シュウも、シグルの気性についてい知っているのか、そう呟いた。
 しばらくして、シュウは時計を見ると「会議の時間か」と言って
部屋を出て行った。



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