2 ゴメンなさい、責任持ちます。11


      *     *

 エフローデ領内、軍事基地。
 重厚な作りの部屋のトップの座に、マイザー・エフローデ公が座
っていた。彼は現在エフローデ公領を中心とする強国のトップでは
あった。四十代にして自らの欲望のままに欲する、そんな雰囲気の
男だった。渋く中年の魅力を放ち、表情は穏やかながらも目に鋭さ
がある。
 マイザー・エフローデ公の右隣りには、彼の従兄弟にあたるグラ
ンザ・エフローデが座っていた。軍服を着た腹は大きく膨らみ、彼
が笑うたびに大きく波打つ。
 その反対側には、メイス・トランザ伯が座っていた。彼の眼光は
鋭く、目の奥には狂気を携えていた。それさえなければ、若く凛々
しい青年であることは間違いない。年のころは、フォンシャンやエ
スカイザと同じくらいに見える。
 部屋の中には、三者以外にも、二領の軍服を着た者や、他の領の
軍人と見られる者が着席していた。だが、あまり発言力はないと思
われる。みな黙ったままで、エフローデ公とトランザ伯の話を聞い
ている。
 エフローデ公とトランザ伯は、領境に築いた壁について話してい
た。
 トランザ伯が言う。
「他領との国境も急がせて作らせています。それに関して、もう少
し費用を裂いていただけたらと、私の部下から声が出ているのです
が」
 それに足して、グランザはほっほっほ、と腹を揺らしてから答え
た。
「費用面では僕に任せておきなさいな。領民どもから税金としてか
き集めますからの。トランザ殿は自慢のゴーレム兵を使って高ーく、
タカーク境を築くと良いですわ」
 トランザ伯はそれを聞いて、左の唇を吊り上げて笑みを作った。
「それはありがたい。私のゴーレム兵で、ラスタ、フリューザ領を
壁で固めて見せましょう。楽しみにしておいてください。そこから
一気に二つの領を我らの手中に。この二つの領さえ我々の手に入れ
てしまえば、後は他の領も我らの手に落ちたも同然」
 トランザ伯は自信たっぷりに言った。他の軍関係者らは、トラン
ザ伯の自信に満ちた言葉に、拍手をする。ところが、エフローデ公
はそうは行かなかった。
「だが、先日の反乱軍のリーダーとやらを逃がしたそうではない
か?」
 エフローデ公の言葉に、拍手がぴたりと止んだ。
「それは……」
「救出に来た青年は一人で、しかもトランザ伯が自慢とする国境も
軽々と突破したと聞くが? それだけの人材をラスタでそろえてい
たらどうする。貴殿が築いたと言う国境も意味をなさない気もする
が」
 エフローデ公はそう言ってトランザ伯を軽く睨んだ。
 その時、慌ただしく扉がノックされた。そして、中に兵士が一人
入って来た。
 少し息のあがった兵士は、「緊急を要する報告があります!」と
言って敬礼をする。エフローデ公は、目を細めて兵士の報告を待っ
た。
「フリューザ公、ラスタ伯が正式に軍を設立することを領民に表明
した模様」
「それは共和国軍、として同盟を結んだと言うことかね?」
「はっ、そのようであります。それにラスタ軍に関しては、元反乱
軍も正規軍として参戦する模様であります!」
 兵士はそう言って敬礼をした。
「それはあまりよろしくないな」
 エフローデ公はそう言ってあごを触った。と、伝令兵の懐が震え
た。兵士は慌てて懐に手をつっこみ、携帯卵話しを取り出した。グ
レイの卵ボディに、くすんだシルバーの飾りの卵話。かかってきた
内容を聞いて、兵士は顔をこわばらせた。
 兵士は敬礼をし、言った。
「新しい情報が入りました! フリューザ公、ラスタ伯両軍が国境
間近で散らばり、宿営を張り始めたようです!」
 それを聞いてエフローデ公の表情が険しくなった。
「我々もすぐに打って出るぞ。国境近辺の兵を集め、敵軍が防壁を
築く前に撃ってしまえ」
 さらりと命令を下すと、エフローデ公は席を立った。兵士ら、各
国の軍人らが同じ様に席を立つ。トランザ伯が伝令兵に言う。
「すぐに正確な居場所を私に報告しろ。兵士の数もだ。グランザ殿
は金だけでなく民の中から兵も徴収すること」
 最後にグランザにそう言って、トランザ伯はエフローデ公につい
て部屋を出た。

     *     *


 数時間後、国境周辺にいた者達は体に揺れを感じて目を覚ました。
ゴゴゴゴゴ、と大地を揺るがす音が聞こえてきた。それは、シュウ
も感じていたことだった。ソファーの上で目を覚まし、飛び起きた。
扉を乱暴に開ける音がして、シュウの従者が入ってきた。
「シュナイザー様、我が軍が奇襲を受けている様子です。ここから
4〜5キロ程に駐屯している反乱軍と正規軍が混雑している所です」
「それは良くないな。あまり調整ができていない軍だ、だから町か
ら離しておいたんだが――」
 シュウは軍服の上着をつかむと羽織って従者と共に部屋を出た。
 外は相変わらず揺るぎ、攻撃を受けていると思われる場所が騒が
しい。
「馬を」
「お待ちください、シュナイザー様。お一人で行かれるのですか!」
「軍を収集している時間はない。伝令兵に伝えろ、すぐに動ける者
は参戦しろと。他の者は加わらなくいい、ここを守れと。村人にあ
まり迷惑をかけてはいけないからな」
 シュウは従者から手綱をとり、馬を走らせる。従者は卵話で伝令
兵に伝えると、馬に乗りシュウの後を追った。
さらに、十数名の兵士らがシュウの後についてゆく。

 しばらく馬を走らせると、炎が目に入った。
「火を放たれたか……森が焼けてしまう! 誰か水を呼び寄せるこ
とができる者はいないのか!」
 従者が前に進み出て、詠唱を始めた。それに習って、若干名の兵
士らも詠唱を始める。すぐに雨雲が集まり、炎の上に雨が降り注ぐ。
騒がしさが、一瞬だけ静かになった。だが、地響きによって再び騒
がしさが戻ってくる。
「何があった!」
 シュウはよろめく兵士に近づきたずねた。兵士は相手がシュウと
あって無理やり身を正し、言った。
「魔獣がこちらに向かって来たのです」
「この地響きは?」
「分かりません……」
 兵士はそう言って膝をついた。その背には傷を追っている。
「元反乱軍はどうした?」
 シュウは応急手当て程度の魔法を使う。
「魔獣らを倒している模様。我々はその……」
 正規軍と、反乱軍とで寝起きの習慣が違うのだろう。だからこそ、
反乱軍は即座に対応できたのだろう。
 シュウは舌打ちをすると、馬から降りて剣を抜いて走り出した。
 所々で火が燃え残り、焦げくささが鼻をつく。シュウは四足の獣
を見つけて切りかかった。獣の下に軍服を着崩している青年を見た
からだ。獣の頭を跳ね飛ばし、シュウは下にいた青年を起した。
「シュウ様」
 シュナイザーと呼ばないところを見ると、反乱軍の者なのだろう。
「大丈夫か?」
「はい。他の者はもっと奥で戦ってますが――なぜこんなところに
魔獣が」
「向こうが放ったのだろう。あの領境付近では魔術が使えない。そ
んなところに魔獣が来るわけないんだ、トランザ伯の仕業だろう。
魔獣が集まっているところに案内してくれ。反乱軍は急なことに対
処はできるが、魔法を正しく使える者が少ない、そのところはサポ
ートしてやってくれ」
 シュウは背後に控えている正規軍に対してそう言った。
「了解いたしました」
 正規軍らは敬礼をすると、走りだした。



TOP/ NOVELTOP/ NEXT/ HOME/




本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース