アキューの冒険 リノンの受難



「アキュー、帰ろう」
「でも……卵がぁ」
 僕はアキューの頭を撫でた。
「連れて帰っていいから。でも、ちゃんと育てなきゃダメだよ」
 僕がそう言うと、アキューの顔が明るくなった。ギュッと卵を抱きしめ、頬を擦り寄せる。
「アキューがママだよー。早く出ておいで……」
 アキューはそう言いながら目をつぶった。そして、卵を抱えたまま羽に埋もれて眠り始める。
 僕はため息をつき、アキューの髪を撫でた。その後、出口を探そうと辺りを見まわす。
 出口は落ちてきた天井の穴のほかに、壁に二つ穴がある。どちらも外に通じていないこともないと思うけど……
 僕は念のため、片方の穴に入ってみた。少しジメジメしていて、嫌な感じの穴。しばらく歩くと、僕は目を丸くした。
 目の前には、地下水が溜まってできたであろう湖が広がっていた。ほんのり湯気が上がっているところを見ると、温泉が沸き出ているのかもしれない。もしくは
「なかなか良い感じのお湯かも? そうするともう片方の穴が出口かな。道を覚えておけば、お風呂入れるかもなぁ」
 僕は安易にぼやいた。安全性とか考えなくてはいけないから、帰り道しだいだけど。
 僕が羽の部屋に戻ると、アキューはすっかり寝入っていた。
 あー、もう一度襲いたいー。でも、今日はあんなことがあったから、無理かな。
 アキューが、じゃなくて、僕が。男の子って意外と繊細だから。

 しばらくボケーッとアキューを見つめた。ふと、僕の鼻にある匂いが流れこんできた。
 夜の匂い。
 正確に言えば夜露が大地や草を濡らす匂い。
 僕は軽くアキューの体を揺すった。少しうめいて、アキューは上半身を起こす。
「アキュー、そろそろ帰ろう。卵なら大丈夫だよ。持って帰るより、ここに置いてまた明日様子を見に来よう。お腹も空いたでしょ?」
 アキューはコックリとうなずくが、やはり卵の存在が気になるようだ。
「お腹空いたけど、なんで連れて帰っちゃダメなの?」
「それはね、ここの方が暖かくて、卵から出てくるのに調度いい温度だから――」
 僕が言いきる前に、卵がコトコトと動いた。さらに、卵のてっぺん辺りからカリカリ音がする。
「もしかして……」
 アキューは卵の殻を割ろうとした。それを僕はすかさず止めた。
「だめだよ。殻を破って出てきて、ようやく生きることを許されるんだ。だから、手を貸してはだめだよ」
 僕はアキューは背後から抱きしめた。アキューは少し不満そうにしていたが、キュッと拳を握りしめて卵を見つめる。
 僕だって、もどかしい。
 中から一生懸命つついて、なんとか生を受けようとしているのだ。それを邪魔しちゃ、生きる辛さを余計に背負わせてしまうのだから。






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