アキューの冒険 リノンの受難



 それは、大きな卵だった。
「うわぁーおっきい! リノンちゃん、これってなんの卵っ?」
 尖った部分からお尻の部分まで、80センチから1メートル近くある大きな卵。確かにこんな物が背中に当たっていたら、痛いかもしれない。
「分からないよ。だけど、そっとしておいた方がいい。それとここから出よう。母親が帰ってきたら大変だ」
「リノンちゃん、これ持って帰ろうよ。きっと食べたら美味しいよ」
 人の話しを聞いてないな……もう食べることに決めたようだ。
「だめだよ。母親が来たら大変なんだ。子供の事となると母親は怖いからね。帰ろう、そっとしておいてあげなきゃ」
 ってか、アキューってば、完全に食べる目つきをしている。そして卵を抱きかかえ、上目使いに僕を見る。
 ――そんな目をしてもだめなもんはダメ。
「言っとくけど、大きな目玉焼きは無理だからね」
「えー。じゃあ焼き鳥でいいよ」
 焼き鳥って。出てくるのが鳥とも分からないんだけどなー。
「ダメったらダメ!」
 僕がそう怒鳴った途端。獣らしい唸り声がどこからか聞こえてきた。
 どうやら、ここの主は近くに居たようだ。でも、なんですぐに襲ってこなかった?
 僕はゆっくりと前傾姿勢になった。そうしながら耳に全神経を集中させる。
 微かに、グルルルル……と威嚇する声が聞こえてくる。でも、どこか弱々しい。
「まさか」
 僕は声がする方に、警戒しながら近づいた。
 声の主は、羽が途切れる辺りに倒れていた。
「リノンちゃん、あの子……」
 アキューがいつの間にか僕の服をつかみ、今にも泣き出しそうな表情をしていた。
 倒れていたのは、白い翼の生えた狼の魔獣。とは言っても、翼には羽がほとんどなかった。血にまみれ、肉や骨を見せたその翼は、自ら羽をむしり取ったのかも知れない――自分が産んだ最後の命を守るために。
 アキューはなんのためらいもなく、狼へと駆け寄る。
「しっかりして! 死なないで!!」
 アキューはそう言って、狼の背を撫でる。けれど、その狼が何をしても助からないことは分かっていた。腹は裂けて血まみれであり、おびただしい血が、すでに大地に吸いこまれている。
「アキュー、そっとしておいてあげて」
「でも!」
 アキューは涙をボロボロと落しながら僕を睨む。
「アキューだって分かってるはずだよ。この子はもう死ぬ。今は楽にさせてあげるべきだよ」
「やだぁ! アキューのママみたいに、居なくなっちゃうの? この子、あの卵のママなんでしょ? どうして、どうして置いていっちゃうの?」
 僕は、何も言えなくなった。何も言えずに目を伏せ、拳を握りしめる。
 アキューは、過去の自分を呼び起こしている……魔獣に襲われたアキューのお母さん。僕もその場に居たから知っている。魔獣に襲われ、なんとか村に帰って来た――たぶん、最後にアキューに会うために。
「アキュー……僕だけじゃダメなの?」
「違う! 違うの……アキューにもっと力があれば、助けてあげられるかも知れないのに」
 アキューはそう言って、涙を拭う。
 ふと、母狼はクゥーンと鳴いてアキューの顔を舐めた。その目は穏やかで、それでいて死を恐れていなかった。だが、不安はその瞳から伺い知れた。母狼は、じっとアキューを見つめた後、卵が置いてある方を見つめた。
 僕は黙って卵を持ってきて、母狼の元に座りこんだ。
 母狼は、何度か卵を舐めた。まるで、最後の別れを惜しむように。
 それから、アキューを見つめた。
 貴方に――私の命を預けます……
 そんな声が聞こえたような気がした。
 母狼は最後にアキューの手を舐め、それから卵に頬を寄せると――息を引き取った。






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