アキューの冒険 リノンの受難


パタパタパタっと跳ねるように走る音で、頭がさめた。けれど、昨日飲み過ぎたせいか、体が起き上がることができない。
 僕には酔っ払うと裸になって寝てしまうと言う厄介な癖がある。
 ヤバイ。
 このままでは……しかも、昨日は鍵をかけ忘れた気がする。時間稼ぎにならない!
「おはおはおはおっはー!」
 バン、と最後の砦である(今日はもろかったが)ドアが開け放たれ、元気な声と共に、彼女はダイブしてきた。
「ぐへっ」
 情けないうめき声は僕の物だ。
「おはよぉーリノンちゃん!」
 かわいらしい声に、かわいらしい笑顔。だが、今日はそのどちらも悪魔にしか見えない。二日酔いで頭が痛いのだ。しかも裸だし。とりあえず、フトンだけは剥がされないように死守するしかない。
「おはよう、アキュー。今日もかわいいね」
 後半は僕が言いたくて言っているわけではない。彼女に会った時はこう言わないと、すぐすねる。すねたのも可愛いのだが。
「アキュー、今日はどんな用?」
 彼女の気を反らすように、僕は問いたずねた。
「んーとねー、アキュー遺跡見つけちゃったんだ! そこ遊びにいこ!」
「わ、わかったから、耳引っ張んないで……血管切れちゃう」
 僕の耳は、白くて長く、垂れ下がっている。ロップイヤーラビットと言う生き物の耳を思い浮かべてくれれば分かりやすいだろう。アキューはこの耳が好きらしく、いつも指先で引っ張るか、唇ではむはむと甘噛みする。それがちょっぴり僕をスケベな気分にさせる。
 ちなみにアキューの耳は尖がっていて、先っぽがほんのり白い。青紫の髪からのぞくその耳は、キツネのものらしい。腰からは耳と同じ淡い茶色とも、黄色とも言える色のふさふさとした尻尾が生えている。それがまた可愛くも、セクシーで仕方がない。
 ……あはははは、朝からスケベな事ばかり考えていたら、またもやフトンをめくられてはイケナイ事が増えてしまった……どぉしよう。
「リノンちゃん早くー。アキュー待ってらんないよー」
 アキューは僕の上に馬乗りになって顔を近づけている。アキューのお尻に、ちょっぴり当たってるんだけどね、僕のアレ。このまま、してしまおうかなーともよく考えるけど、そんなことしたらアキューに確実に嫌われる――と思う。いつもの僕じゃ、アキューにとってはただのオトモダチだもん。
「うもーっ! どうしてまだベッドの中なのっ!」
「それは、アキューが僕の上に座っているからだよ」
 僕が素早くツッこむと、アキューは頭に手をやって、首を傾げた。
「あ、あれぇ? そかそか、アキューが悪いんだー」
 テヘヘ、と笑いながら僕の上から退く。これでこのまま部屋を出て行ってくれたら、大騒ぎにならずに済むんだろうけど。
 僕はそう思いながら、上半身を起こした。
「んもー!! リノンちゃんトロイ!」
 ほんの少し気を許していた僕は――あっさりとアキューにフトンをかっさらわれた。
「……」
 僕は真っ青になって、体が硬直した。
「うっひゃ〜! リノンちゃんのばかぁ!」
 アキューはそう言って、バタバタと部屋を出てゆく。
「僕が悪いんじゃないもん」
 目に涙が浮かんできてしまった。
 アキューのばかっ。僕がそう言いたいよっ。






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