4.聖人_6

 バドはビルを飛び移りながら徐々に公爵との距離を縮めていった。
時折振り降ろされる肉の鞭を避けつつ、ついには公爵のすぐ横に追
いついた。
「リグロード公、もう諦めてください! あなたは千年以上生きて
いるというでは有りませんか! それも、自然ではなく禁忌に身を
染めながら……あなたには、死の宣告がすでに下されているはずな
のです。僕たちより下等だと言われている人間でさえ、罪をあがな
うために死ぬことがある。だから、お願いです、公爵様の意思で……」
 バドの言葉に、公爵が鋭く睨んだ。
「貴様に何がわかる!」
 公爵の手が、バドの目の前を通りすぎた。避けはしたものの、肉
片が飛び散り、バドの顔半分を焼いた。
「あぅっ」
 バドはうめいて顔に手をやった。すぐに蘇生させ、公爵から遅れ
を取らぬようにする。
「お願いです、公爵様!」
 泣きそうな表情で言うバドの目の前を、閃光が通りすぎた。閃光
の発信源を見極めようと、バドは後ろを振りかえった。そこには、
アキラが立っていた。
「甘いよ、バドリシェル・ワイザー伯爵殿。すでにお前が浄化の判
断を下すべきなのだ。ヴァンパイアとて不死身ではない。だが、永
き命のために道を誤る事が多くなる。だからこそ聖人が必要であり、
人間では下すことのできない裁きを下さなくてはいけないんだ。そ
れが、おまえの役目だ」
 金色の髪と瞳。美しさと、神々しささえ兼ね備えている。その瞳
はバドを見据えていた。
「今、彼は迷っている。だから強い力を欲し、死という闇から逃げ
だそうとしている。それを救い出してやれ」
「そんな事は私の知ったことではない!! 私は世界を手に入れル
ノダ……」
 公爵は狂ったように叫ぶと、高エネルギーの塊をアキラに向けて
放った。バドはその威力に愕然とした。
「あんなのに触れたら! アキラさん!」
 全ての者を消し飛ばしてしまうかのような光りに、アキラが包ま
れた。が、アキラの手に吸いこまれるようにしてそれは消え去った。
「あ……あれが聖人としての力? 無力化? 分からない、僕には
そんなのできない……」
 手に握ったクロスソードから力が抜けかける。
――てめぇはバカかっ!
「へっ?」
 不意に飛んできたカヲルの声に、バドは辺りを見まわした。
「え、カヲル、どこ?」
――ハイネに意識を飛ばしてもらった。おまえらの早さにはついて
いけないからな。ところでバド。俺が散々血を与えたって言うのに、
そんなことで引き下がるのか! ふざけるな。俺はおまえをそんな
軟弱者に育てた覚えはない!
「しつけられた覚えはありますが、育てられた覚えは……」
 バドはそう答えて、少し後悔した。カヲルが叱咤が飛んでくるか
と思ったのだが。
――どうしておまえは自分を卑下する。とにかく! おまえは強い
んだ。奴を、野放しにするな。それで心を痛めるのはおまえなんだ
……俺はそんなおまえを見ていたくない
 バドは、自分の胸を押さえた。ほんのりと、そこが暖かい。カヲ
ルがそこにいるような感触があった。クスリと笑うと、答えた。
「わかりました。カヲルさんの言うことは絶対ですから」
 バドがそう言ってクロスソードを構えると、黒い刃が透明な物へ
と変わっていった。
 バドは、透明な刃を通して、対峙しているアキラとリグロード公
を見つめた。
「アキラさん! 退いてください!!」
 バドは叫びながら公爵に突っ込んでいく。アキラは跳躍し、その
場を離れた。公爵は、その一瞬にして姿を変えた。
 公爵は子供の姿ではなく、醜悪な巨大な生き物となっていた。そ
の醜悪な塊は、異常な熱を発して回りの建物を溶かし、炎を産みだ
した。
「こんな……異常なこと、有りえない。いくら、永く生きているか
らと言って」
――私ハ、オトナニナリタイダケダ!
 悲鳴にも似た公爵の叫び声が、バドの頭に響いた。
 バドはそれを聞いて、ふと優しい瞳を公爵に投げかけた。
「大人に、ですか……公爵、今度産まれてくるときは人間に――」
 バドはためらうことなく、醜悪な塊へと突っ込んでいった。クロ
スソードが肉をかき分け、その中心にいた公爵の胸を捕らえていた。
 バドは、クロスソードを公爵の胸に残したまま、飛び退いた。
 断末魔の叫び声が、破壊となって街を襲った。まるで、共に消滅
しろと言わんばかりに。
「いけない! このままでは街がっ」
「バド! おまえの力でなんとかなる!」
 アキラはそう叫ぶが、巨大な力を目に、バドは逃げるだけだった。
――逃げるなバド! おまえなら、できるっ
 カヲルの、叱咤が頭に響いた。
――何より、俺を、殺すな……
 カヲルの言葉に、バドは足を止めた。そしてため息を一つつく。
「分かっていますよ、最後までお守りいたします」
 バドはそう言うと、誓いをする騎士のようにクロスソードを胸の
前で握りしめた。
 クロスソードから光りが放たれ――それは公爵を包み込んだ。
 光りは徐々に光りのリンクを広げていった……

     *     *



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