4.聖人_1

 カヲルはソファーに腰かけ、大きなあくびをした後にバドに言っ
た。
「そう言えばおまえ、ここに到着した頃より元気になってないか?」
 バドは少し前を振りかえるように考えを巡らせると、答えた。
「そうですね。僕の昔が昔でしたから。そもそも、同じヴァンパイ
アとして趣味が似ているのかも知れませんね」
 バドは、昔からメカマニアだったらしく、自室も訳の分からない
機械類でいっぱいであった。どうやらヴァンパイアでも二種類いる
ようだ。昔からの自然の中を好む者と、永き時間を得たために、人
間よりも長く相手をしてくれる機械を好む者と。バドに限っては、
後者ののようだ。
「おまえ、医者なぞやっていないで、趣味を生かして技術者になっ
たらどうだ? その方が儲かる気がするぞ」
 そう言ったカヲルに、バドは目を伏せて首を横に振った。
「いいえ。でも、カヲルさん最近医者いらずですからね、そうしよ
うかな」
 バドはそう言ってカヲルと目線を合わせ、微笑んだ。カヲルは心
なしか顔を赤くして目線を反らせた。
「おまえは――俺の役に立つことしか考えられないのか、小さい男
だな」
 憎まれ口を叩いてるつもりなのだろうが、その表情はなんともか
わいらしい。
「いけないですか? 小さい男でも、僕は全然構わないんです」
 バドはカヲルを見つめながら頬を染める。
 と、その時。二人の背後の窓から閃光が飛びこんできた。同時に
窓ガラスが砕け散った!
 バドはとっさにカヲルを抱きしめて部屋の奥へと飛んだ。ガラス
が光りを放ちながら、矢のように地面に突き刺さる。
 部屋の明かりが落ち、その中でガラスがちらちらと光りを反射し
ていた。
――ウラギリ者ッ! オマエノ大事なモノ モラッテユク
 鋭い刺のような声が、バドの頭の中を突き抜けた。バドは頭を刺
す酷い痛みに動くと言う感覚を失った。
 カヲルは自分の体の上に崩れ落ちるバドを退かし、クロスソード
を握りしめて逆行の中に立つ影を睨んだ。
 影が、一瞬消えた。
 次の瞬間、カヲルの前には金色に光る一対の瞳があった。カヲル
は腹部に鈍い痛みを覚え、膝をついた。思うように力が入らないの
か、クロスソードを半ば取り落としかけている。
 バドは頭の痛みを堪えるためか、頭に指を食い込ませた。そのバ
ドの目に飛びこんできたのは、何者かに抱えられているカヲルの姿
だった。
「待て……」
 バドのその言葉に答えるかのように、頭に声が響いてきた。
――ウルサイ、オマエハ イラナイ、ヨワイ
 金色の瞳が光りを放つ。その光りに頭を射抜かれ、バドは頭を抱
えて床に崩れ落ちた。
 今や痛みは全身に回っていた。心臓をえぐるような痛みに耐えつ
つ、バドは片手を床について、なんとか上半身を起した。
 ギリリ、と歯軋りがした。それはバドが鳴らしたものではなかっ
た。
――混ざった血はイラナイ!
 影はカヲルが握っていたクロスソードをもぎ取った。長時間触れ
ている事ができないのはすぐに分かった。
 クロスソードが影の手から浮き上がり、影が手を掲げると、クロ
スソードも同じように持ちあがった。
 影が、投げる動作をした途端――ヒュッ、と風を切る音がした。
「バドッ!!」
 カヲルは閉じかけていた目を見開いた。
「あ……ぐっ」
 バドの体を衝撃が襲い、血が逆流を起した。
 バドはノドの奥に熱い物を感じ、それを吐き出した。
 真っ赤な鮮血が辺りに飛び散った。
 脇腹をえぐるような痛みに、バドはそこに手をやった。
 手に、ドロリとした感触と、その先に固い金属の感触があった。
その金属に手を触れると、焼けるように熱くなった。
 バドの脇腹には、クロスソードが深々と突き刺さっていた。
 バドに一瞥をくれて去ってゆこうとする影に、バドは手を伸ばし
た。
「待てっ……がはっ」
 だが、体は言うことを聞かず、虚しく空を掠めただけだった。
「バドッ」
 カヲルは影の手から逃れようとするが、体が動かない様子。やっ
とのことでバドに手を伸ばすが、影の手が伸びてきてカヲルの額に
触れた。途端にカヲルは完璧に力を失っていた。影はカヲルを抱え
たまま、窓から消えた。
 バドは後を追おうと四肢を動かそうとした。だが、重く冷たくな
った体は意思をまったく聞いてくれなかった。
 バドは、床に広がる自分の血を見ながら、気が遠のいていった。



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