3.一千年の悪夢_10


* * *
「相変わらず素早いな」
 アキラは群れをなして建つ内のひとつのビルの屋上に立って言っ
た。そのアキラの言葉に対して、姿を見せない声が答えた。
「僕ハ強クナッタ。誰ニモ邪魔ハサセナイ!」
「では、消滅してもらうしかないな」
 アキラは冷たく言い放ち、目を細めたかと思うと、抜き身のクロ
ス・ソードを構えた。その背後に息を荒くしたハイネが降り立ち、
言った。
「アキラ様!」
「ハイネ、くるな」
 アキラの冷たい声色に、ハイネ足を止めた。その間に、給水タン
クの裏から、何か黒く小さな陰が走り出て、ビルの端から身を投げ
た。アキラが慌ててビルの端から身を乗り出したときにはすでに遅
く、その眼下には何もなかった。
「ハイネ、追ってくるなと言ったろう?」
「そ、それはともかくとして! あれはなんなのです!」
 少し取り乱した様子で、ハイネが言った。アキラは眼下の闇に投
げかける視線をそのままに、答えた。
「奴を放置しておいて約千年は経っている。だが、以前は備えてい
る小さな力では誰もかまいはしなかった」
「千年! いくらなんでも長生きしすぎでは? 私だって、あと4
00年も生きればいいかと……」
 ハイネがそう呟いたのも無理はない。普通のヴァンパイアとて、
多少の老いも感じ、八世紀を生き抜けば自ら永遠の眠りにつく。
「……オマエモ裏切リ者カ! 許サナイ。生キテコノ街カラ帰サナ
イ」
 ハイネの言葉に反応したかのように、その脳裏に憎悪が含まれた
声が響く。こめかみを押させてうずくまるハイネに、アキラはモゾ
リと動いた闇の一片をにらみつけた。
「まだいたのか」
 アキラが身を乗り出して飛び降りようとして動きを止めた。
「今度こそ逃げたか……再び探すのが危険だ。気配が小さいから…
…」
「アキラ様! 何をのんきに言っているのです。あやつ、危険です。
同じ種族の私に向かってまでも……」
 ハイネはそう言って立ち上がらない。アキラはクスクスと笑いな
がら言った。
「奴の気持ちがわからないこともないだろ。ハイネ、おまえだって
人間と共存しているバドを見て怒りを覚えただろう?」
「そう言われたらそうですけれど……あれは尋常じゃないですわ。
まったく遊び心がない」
「あっても困るけどね。ところでハイネ、立てるかな?」
 アキラは、カタカタと小刻みに震えているハイネを見てにこにこ
と笑う。
「た、立てませんわ……」
「それが恐怖というものだからね。滅多にできない経験だからね、
よっと」
 アキラはハイネを抱き上げると、にこにこと笑い続ける。とても
うれしくて仕方のないかのように。
「アキラ様、歩けますから下ろしてくださいな!」
 真っ赤になって言うハイネ。
「いいじゃないの。触らせておいて」
 どうやら、アキラ自身も照れているようだ。笑顔が凍りついたよ
うになっているのは、そのせいかも知れない。



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