3.一千年の悪夢_8


 ホストやホステスでさえ眠る夜明け。数時間と眠っていないが、
カヲルは誰かがベッドルームのドアを開ける音に気づいた。隣では、
バドが背を向けて寝ている。
「アキラ、か?」
「ご名答」
「顔も見たくない、出て行け」
 カヲルの言葉も無視し、アキラはつぶやいた。
「バドの様子を見ると、やってないな。スーツを着たまま寝るなん
ざ、親のしつけがなってないぞ……って、ヴァンパイアだった」
 アキラは一人笑って頭をかく。その顔面に、カヲルは枕を思いっ
きり叩きつけた。
「貴様はどうしてそう下世話なやつなんだ!」
「ほっといて。でもさ、顔も見たくないって言うけどさ、実際鏡見
たら目の前にあるわけ。鏡叩き割ってみる?」
「なんだと!」
 カヲルはベッドから跳ね起きた。蹴りを入れようと伸ばした足を
アキラにつかまれ、ひっくり返され、カヲルはベッドに転がった。
その上に馬乗りになって、アキラは自分の口元に人差し指を一本立
てた。
「静かにしないと、せっかく眠ったバドくんが起きてしまうよ」
 カヲルはムスッとしてアキラをにらみつけた。
「一応、気になっていると思って、結果を報告しにきたんだよ。そ
の前に……昨日は言い過ぎた。ごめん。でも、俺はカヲルの身を案
じてだな」
「そんな口上はいらない。さっさと報告しろ」
「ん……ホントに今回の相手はカヲルにはダメなんだ。強すぎる。
もしかすると、僕でさえも危ないかもしれない」
「相手がわかったのか?」
 大声を出すカヲルの口を手でふさぎ、アキラは再び「静かにね」
というと、先を続けた。
「そう、昔にね。害のないやつだったから、放置しておいたんだ。
人間を殺すこともなかったし。ところが、どこかで壊れ始めたよう
だ。その結果が肉片しか残らない惨殺だ。こうなるまで放置してお
いた俺にも責任がある……」
 アキラはそう言って、とても情けないような顔でうなった。
「ところでだな、バドはまだ仮眠しかとっていないのか? ちゃん
と寝かせてやれ」
「俺に言うな。バドが勝手に歩き回ってるんだ」
 アキラはカヲルの上からどきながらため息をついた。
「あのなぁ。それはオマエが夜中に歩き回るからだよ。ヴァンパイ
ア・ハンターなんざ、ふと間違うと自分がハントされる側に回る。
それに改心したと見せかけて、復讐を果たしにくるヴァンパイアも
いただろう……」
 アキラは、語尾を濁した。カヲルはうつむき、何も答えなかった。
「ヴァンパイアのくせに、優男だよな、ヤツも。オマエのことが心
配で心配でしょうがないんだろうよ」
「それって、僕のことですか?」
 一瞬、間があった。カヲルとアキラは、同時にバドをベッドに押
し付けた。
「寝てろ!」×2
「はい……」
 二人から同時に言われて、バドは素直に返事をした。ベッドに頭
までもぐりこみ、そのままちょっとしてから顔をのぞかせた。
「あの、眠れないんですけど……」
「一言多いぞ、バド。無理にでも寝ろ」
 冷たく言い放つカヲルに対し、アキラは何か思い浮かんだのか、
ニヤリと笑った。
「カヲルはかわいくないよな〜、冷たいよな〜。よーし、俺がきも
ちいー事してあげよ〜目をつぶってね〜」
 アキラは、子供に対するようにやさしく甘ったるい声を出した。
「い、いいです!」
 バドが慌ててアキラの手から逃れようとした時には、ベッドに崩
れ落ちていた。カヲルは、アキラがバドに触れた手を見つめて言っ
た。
「アキラ、貴様その力を悪用してないか?」
 アキラは、カヲルの言葉に、動きが止まった。カヲルの言葉には、
ハイネが答えた。
「してますわよ、思いっきり。詳しい使用法は、カヲルさまの手前
話さないことにしましょう」
「ハイネ〜頼むからこれ以上俺が変態扱いされるような言動はよし
てくれないかな〜。ああ、妹の冷たい目線がっ……弟と呼んだほう
がいいかな? しかし、近頃は胸も成長し始めたようだし」
 アキラは、カヲルの胸元をジッと見つめ、あごに手をやって真剣
に悩む様子を見せる。
「つまらない冗談はやめろ」
 カヲルはそう言うのと同時に、拳をアキラの頭の上に落とした。
「うぅ〜ハイネ〜カヲルがいぢめるぅ〜」
「自業自得ですわよ。清純なる乙女に、顔と体、気持ちのことは男
性が口出ししちゃいけませんことよ、アキラ様」
 ハイネは、そう言って自分の豊満な胸元を見た後、カヲルの胸を
ちらりと見やる。
「ハイネ、いやみか、その目線は」
「あら、わかってしまいましたの? 顔が私より美しいのは、許せ
ませんの」
 ハイネは言いながらカヲルのあごをつかんで、少し上を無かした。
「ほんと、女の私が見てもおいしそう。一口よろしいかしら」
「白木の杭を打ち込むぞ」
 カヲルは目を細めてハイネをにらみつけた。ハイネはそれを聞く
と、身震いを数度して言った。
「あら、よく私のアレルギーを知ってますわね。あの木のにおいと
いい、最悪ですわ。アキラ様ですか、もしかして教えたの」
 アキラは、左右に首を激しく振って否定した。カヲルは眉をよせ、
怪訝そうな表情でハイネを見つめた。
「アレルギー、だと?」
「あら、ご存じない? ヴァンパイアのほとんどが太陽アレルギー
を保有していますの。ある時期を境に、その発症はおさまりますが
……生涯を通じてもうひとつダメなアレルギーがあるんですの。そ
れが私は白木。反応を起こす木々はすべて領地から排除させました
のよ。ちなみに、バドは銀製品がだめなようで。だから我が家では
陶器が多かったですわ」
 ハイネはそう言いながらバドの胸元を開けた。そして、その胸元
にある十字の形の火傷の跡をなぞる。
「そう、だったのか……だからあれほどバドは嫌がって……悪いこ
とをしてきたな」
 落ち込む様子を見せるカヲルに、ハイネは高らかに笑って言った。
「それはどうかしら。バドはそれはそれで喜んでいるようですわよ。
なんてったって混ざりもののマゾ野郎、ですから」
 ハイネは言った後で、「野郎だなんてはしたない言葉を使ってしま
いましたわ」などと落ち込む。その横でカヲルは真っ赤になって悩
みこむ。
「俺が、したのか、バドを、変態に……」
「カヲル〜、あんまり悩むなよー。男ってのはそんなもんだから。
しかーし、俺的に問題があるのはオマエのほうだと思うぞ〜」
「なんでだ」
「サドっ気大量放出してるから」
 そう言ったアキラは、もちろんカヲルに殴られる。
「あら、兄弟そろって変態だなんて」
「違う! こんなのと一緒にするな!」
 カヲルは真っ赤になって部屋を飛び出ていった。
「あらら〜俺と一緒にされるの、そんなに嫌だったのね〜。お兄ち
ゃんさびしい〜。それにしてもバド君置きっぱなしだねぇ。変態な
お兄ちゃんとしてはいたずらしてみたいねぇ。いいねぇ、お肌スベ
スベ。お兄ちゃん年くってるから、最近お肌ガサガサ」
 アキラは言いながら、バドの胸にバカとサインペンで書く。
「そうですわね……胸毛でも書いちゃおうかしら」
「金髪に黒い胸毛はちとおかしいんでない?」
「う〜ん、なんだってこんなきれいな金髪なの! 私なんて赤茶な
のよ……田舎娘みたいじゃない」
 ハイネは自分の三つ編みの毛先を見つめる。
「いいじゃないの、とってもかわいいんだから」
 アキラはハイネを抱き寄せ、ハイネは微笑んだ。



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