3.一千年の悪夢_9


 夕刻。
 バドは、目を覚まし、まず時計を見た。寝た時刻と同じ時間だっ
た。ひそかに夜の空気が流れ始めている。カヲルの姿も、アキラや
ハイネの姿は、部屋の中にはなかった。辺りが静かなところを見る
と、アキラとハイネの二人はいないようだ。仕事に行ったか、カジ
ノにでも行ったか。そのどちらかだ。
 バドはベッドから体を起こし、自分の胸にいたずら書きされたの
をゴシゴシとこすった。
「……油性。絶対アキラさんだ」
 バドはため息をこぼし、ワイシャツのボタンを留めると、上から
スーツのジャケットを着た。
 そうして、ふと気づいた。
「体、軽い……アキラさんのおかげかな」
 バドはアキラのことを考えながら、リビングルームへと向かった。
ソファーにはカヲルが座っており、テーブルの上には大量の酒のビ
ンがおいてある。
 バドはカヲルを横目で見た。
――まだ怒ってるんだろうな、カヲルさん。お酒いっぱい飲んじゃ
って。『オマエの手におえない』だなんて言われちゃって。プライド
の高いカヲルさんには、もっともキツイ言葉だよね……また腹いせ
に十字架あてられちゃうかな……一日中寝てたから汗臭いや。ちょ
っとヒゲ伸びたかな……
 後半、くだらない考えへと移行してしまったバド。あるかないか
ぐらいに伸びたアゴヒゲを触りながら、バドはシャワールームへと
向かった。
 バドはシャワーのコックをひねり、お湯を出してから服を脱ぎ始
めた。白い裸体を、シャワーの中にさらす。気持ちのいい温度の湯
が体を打ち、顔と髪を洗う。
 カチャリと音がして、少し冷たい空気が流れ込んできた。それに
気づいたバドは、シャワーを止めることもせずに、近くにあったバ
スローブをはおって向き直った。
 シャワーの湯気の向こに人影が見える。
「アキラさん? 話があるんなら後にしませんか? 男の裸なんか
見ても面白くないでしょう」
「俺と違うから面白い……」
「って、カヲルさん?!」
 声の違いに気づき、バドはあせったようにバスローブの前をしめ
た。
「え〜っと、あの。のぞきにしては大胆すぎませんか?」
 バドは、酒をあおりながらじっと見つめてくるカヲルにそう言っ
た。
「のぞきっていうのは、相手にばれないようにするもんだからして、
これはのぞきではない。アキラと一緒にするな」
 無茶苦茶な理屈ではあるが、一理ある。カヲルはシャワーのお湯
が服にあたるのも気にせず、バドに近寄る。
「カヲルさん、ぬれちゃいますよ。酔ってらっしゃるんですね」
「おまえも飲むか?」
 カヲルは自分の手に握られている酒をバドに差し出す。
「後でいただきますよ。もう、ぬれちゃってるじゃないですか」
 バドはシャワーを止め、カヲルの手を引いてシャワールームから
連れ出した。
「もうちょうっと、見ていたかった」
「な、ななにをです?」
「裸……飲め」
 カヲルはバドに酒ビンを渡す。しなだれかかってくるカヲルのぬ
れて冷えた衣服がバドの体にも触れる。
「つめたっ。風邪引いちゃいますよ。服着替えないと。僕はあちら
に行ってますから」
「だめだ」
 カヲルは立ち上がったバドをソファーに引き戻し、カヲルはその
すぐ横で「寒い」と一言、自分のワイシャツのボタンをはずし始め
る。
「い、今服とってきますから!」
 バドはベッドルームに置いてあるはずのカヲルの荷物をとりに走
る。カヲルはバドのあとを静かに追った。ソファーの上には、ぬれ
たワイシャツが、しわくちゃに丸められて残されていた。
 バドは、カヲルの新しいワイシャツを取りに、ベッドルームへと
戻った。カヲルの荷物を探り、新しいワイシャツを取り出す。起き
上がろうとしたバドの背に、重いものがのしかかる。そのままバド
は「ぐぇ」、という声とともに潰れた。
「バドぉ……寒い」
「それはわかります! 冷たいですってばカヲルさん!」
 首筋にひんやりとした手が置かれて、バドは身を震わせた。
「あっためれ〜」
 完璧にろれつが回らなくなってきたカヲルの下から這い出ると、
バドはカヲルをベッドの上へと引っ張りあげた。
「まったくもう、風邪ひいちゃいますよ……」
 バドは子供をあやすように言うと、カヲルのワイシャツをゆっく
りと脱がせ始めた。カヲルのくすぐったそうに笑う声がしばらく聞
こえていたが、そのうちにそれも消えてなくなり、代わりに切なそ
うなため息が時折聞こえるようになった……



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