3.一千年の悪夢_7


 人ごみを掻き分け、バドはようやくカヲルの背中を見つけた。
「待ってください!」
 バドの声に、カヲルが振り返った。
「なんだ、バド。アキラについていかなかったのか」
 カヲルは苛立ちをそのままバドにぶつけた。
「僕がカヲルさんのそばを離れられるわけないじゃないですか」
 カヲルの足が、路地に入ったところでピタリと止まった。
「キザ野郎」
「え……っと、直します」
 バドは困ったように眉を寄せ、頭を下げた。
「オマエ、むかつく〜」
 カヲルはそう言うと、バドの胸を乱暴に押した。気を抜いていた
バドは、壁に打ち付けられた。
「なっ……そんなに怒らないでくださいよぅ、僕がおかしいところ
があったら直しますから……」
 バドは、後ろに手を持っていかれ、胸元を探られた。少し冷たい
風が、バドの胸をくすぐり、バドは身を震わせた。
 その胸元で、カヲルの声がする。
「また、消えかけている。治癒能力だけは衰えていないのか。喘ぐ
な、男のくせしてみっともない」
「そんな……で、でも、直るよう努力します。でも、でも……無理
かもです」
「なぜ?」
 カヲルの問いに、バドは照れたように答えた。
「カヲルさんに触られてると気持ちいい」
「アホか、貴様は。帰るぞ!」
「カヲルさん、もしかして照れてます?」
 バドはにこにことして、カヲルのあとを歩き出した。
――ウラギリモノ!
 突如、憎悪の塊とも思わしきものが、バドの中を貫いた。その憎
悪の中には、とても小さな痛みと恐怖が入り混じっていた。
 バドはその塊に体を蝕まれていくのを覚えた。どうしようもない
痛みと恐怖に、自分の体さえも支えているのができなくなった。
 足がガクガクと振るえ、ついには重みに耐え切れなくなった……
ドサ、と重たい音を立てて、バドは地面に倒れた。路地から喧騒の
中に出る一歩手前だったカヲルの耳に、その音が響いた。
 地面に倒れているバドを見て、カヲルは慌てて路地へと戻った。
「バド? どうした、また気分が悪いのか?」
 もそりと黒い影が動いた。バドはゆっくりと顔をあげて言った。
「平気、です」
 カヲルは、バドの顔の前に立って言った。
「地面に倒れたままで、どこが平気なんだ?」
 バドは言葉を詰まらせた。
「平気です……転んだだけです。自分で起きれます」
 そういって、しばらく。
「すみません、起こしてもらえませんか……」
 カヲルは黙って手を差し出した。その手を握るバドだが、カヲル
の力が足りなかったのか、それともバドが太ったのか。こともあろ
うか、カヲルもろとも再びすっ転ぶバド。
「おまえなぁ!」
 下敷きにされ、カヲルは不愉快そうな声をあげた。
「ごめんなさい、いただきます」
 バドはカヲルの不満を無視し、その首にかぶりついた。
「なにをする!」
 カヲルは暴れるが、バドはしっかりとカヲルを抑え、ごくりとノ
ドを鳴らした。
 しばらくして、バドは自ら起き上がり、下敷きにしたカヲルを助
け起こした。すぐさま頭を下げ、言う。
「ごめんなさい! どうしても起き上がれなくて……」
「もういい!」
 カヲルは襟首を慌てたように直すと、ホテルへと走り出した。
「また、怒らせてしまいました……」
 バドはそう言ってハンカチで口元をぬぐうと、ゆっくりとした足
取りでその場を離れた。



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