3.一千年の悪夢_6


 D地区、現場。赤と青のランプが異常なまでに瞬く中、アルがこ
ちらに気づいて手を振ってきた。やる気の欠片すらも見せないアル
に、一度ため息をついたカヲル。署長と言うものは、もともとデス
クに座ったままの場合が多いから、その分マシかも知れないが。
 アルは来い来いと手招きをする。その態度にムッとした表情を浮
かべつつ、カヲルはアルの元へと足を進めた。
 アルの足元には、人が一つ転がっている。すでに人ではなく、物
に変わっている、つまりは死体。
「これができたての被害者。暖かいところを見ると、ヴァンパイア
として甦るかな?」
 アルは軽く言ってのけたが、カヲルは死体が身に付けている服を
見て驚きをあらわにした。
「警官じゃないか……」
「その通り。ついに僕の手下くんたちにも手を出してきました。ひ
とつの警告かな?」
 カヲルは、アルをにらみつけ、思い出したように言った。
「目撃者がいると聞いたが?」
「車に乗ってるよ」
 アルはパトカーの一つをアゴで指して答えた。中では、一人の警
察の制服を着た男がカタカタと体を震わせていた。そして、呪文の
ように同じ言葉を繰り返していた。
「ど、もが……こ、ど、がっ……」
 しばらく男の呟きを聞いていたカヲルだったが、ふと体を起こし
て言った。
「精神が破綻をきたしているな。ほかに目撃者はないのか?」
「ないよ。ずっとコドモ、ってつぶやいている」
 アルがそう言うと、アキラが身を乗り出してきた。
「ふーん……カヲル、今回はこの仕事から手を引かないか」
 アキラのふざけた顔が、真面目なものへと変わっていた。
「な、何をいまさら! さっきまでは休業中だとか……」
「手を引けと言っているんだ。今回はカヲルの手にあまる」
 怒りのためか、黙り込むカヲル。カヲルとアキラ間に、ハイネが
割り込んできた。
「アキラ様、そんなにカヲル様に言いますとね……キレますわよ」
 ハイネが言い切った直後、ゴキ、っと鈍い音がした。見ると、カ
ヲルの拳が、アキラの腹部にめり込んでいる。
「勝手にしろ!」
 カヲルは殴った拳が痛かったのか、手の甲をさすりながら大また
で歩き出した。アキラは、腹を抱えたまましゃがみこむ。
「ハイネ〜よくカヲルの性格読めたね〜」
「わかりやすいですからね、カヲル様は。ほら、バド、あとを追い
かけなさいな」
 しゃがみこんだままのアキラと、立ち去るカヲルの背をおろおろ
と見るバドに、ハイネがしびれを切らしたかのように言った。
「でも……アキラさんが」
 アキラは、カヲルの背が見えなくなると、何事もなかったかのよ
うに立ち上がった。
「あれぐらいでやられたフリでもしておかないと、とことん殴られ
るからね。男性恐怖症なのか、ただ単に男嫌いなのか。それはわか
らないけどねぇ。多少は治ったみたいだけど〜で。オマエは絶対カ
ヲルを守れ。以上解散!」
 アキラはそう言うと、カヲルとは逆の方向の人ごみの中へと消え
た。ハイネはバドに指を突きつけた。
「いい、アキラ様の言うことは絶対よ!」
 そう言いながら、ハイネはアキラのあとを追った。残されたバド
は、困ったようにアルを振り返った。
「別に、どっちが解決してもいいんじゃないですか? どうせ顔同
じなんだし、特に問題はないでしょう」
「そう言う問題じゃなくてですね……」
「どうてもいいですけど、置いていかれてますよ」
 アルは、人だらけの周囲をアゴで示す。バドは、「なぁっ!」と変
な声をあげて走り出した。
「具合悪そうな顔して、案外元気じゃないですか。仮病ですかね〜、
ねぇ、ジェシーさん」
 アルは、近くにいた女性制服警官にそう話し掛けた。ジェシーと
言うらしい。彼女はアルに歩み寄ると、横に立って言った。
「具合悪いのは本当じゃないですか? それよりも署長、首筋。跡
残ってますよ。ネクタイもきちんと締めてください」
 アルは自分の首筋に触れ、慌ててネクタイを締めた。
「……すみません、見なかったことにしてください」
 ジェシーは、くすくすと笑うと、アルの曲がったネクタイを直し
た。
「署長、今のことは忘れてあげますから、今夜食事おごってくださ
いね」
「……ハイ」
 アルは素直に返事をすると、「人払い、始めますか」と言って髪を
かきあげた。



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