プロローグ


 エヴィエンド国の冬は、とても厳しかった。
その、真っ白に染まった深い森に、ひとつの小屋があった。ひっそ りとたたずむその小屋の窓は、中が暖かいためか、白く曇っていた。
 ふと、小屋の扉が開いて小さな、身長130センチほどの子供がひょっこりと顔を出した。
 淡い茶髪の紫色の瞳をした、ちょっと小生意気そうな顔をした子供だった。その身にまとっているのは、大人が着用してもスソが余るような長いローブ。ちょうど、魔法使いが好んで着る、あまり洗濯する必要のない濃い色をしたローブだ。しかし、少年のローブの色は、黒ではなく、青いローブだったが。少年には青のほうがよいだろう。黒だと、白い肌と透き通るような髪が妙に浮いて目立ってしまう。
 もっとも、大人向けのローブなどを羽織っているところからしてすでに浮いているのだが、人里離れたこの森では関係ないのかも知れない。
 その少年は、外の空気に触れて身を数度震わしたかと思うと、一度小屋に引っ込んだ。そして、ローブの上に、さらに黒のマントを着込んだ。いささか着膨れながら、少年は雪の中に足を踏み出した。
 サクサクと音をさせながら、小屋の後ろにある薪置き場に向かった。
が、そこには二本の薪しか存在していなかった。
「もっと、早く取りに行っておけばよかった」
 少年は、一人そうつぶやいたが、もう遅かった。目の前を真っ白に染める勢いで、深々とため息をつくと、残っている二本の薪を手にして小屋の中へと戻っていった。
 しばらくして、少年が再び小屋の外に出てきた。内部に収容してあったであろう小さな木製のソリをいまいましげに外に蹴り出し、ついでそのソリの中に小さな斧が顔をのぞかせている。
 少年とソリはずるずると雪の上にナメクジのような跡を残して森の深くへと入って行った。
 十分ほど汗をかきかき雪道を進むと、少年は真っ白なため息を吐出した。
「まったく、年寄りになんて扱いだ! まったく」
 グチグチと言いながら、少年はソリの上にある袋から、斧を取り出した。
「まったく……」
 誰にも聞き取れないような小さな声でグチり続けると、雪の上に斧を放り投げた。
「あーっと……ものを浮かせる呪文はどんなものだったか?」
 大きなグローブをはめた手で頭をかく。ついで仕方ないな言った様子でソリの上の袋を探り、中から非常に分厚い本を取り出した。
 パラパラとページをめくり、あるページで手を止める。
「精霊使役のほうが良いだろうか……しかし、下級精霊で、この大木が倒せるものか? あーと、“大地に住まう屈強なる者、貴方を賛美するものに力を貸したまえ”」
 少年の足の下の雪が跳ね上がった。その雪の下から小さな、少し太めの褐色の肌にヒゲを豊かにたくわえた老人が姿をあらわした。
「年寄りを使役するのは非常に申し訳ないことだが……魔石一つで頼んでいいかな? この木を一つ倒してほしいんだ」
 小さな名も知れない妖精は、こくりと頷くと、少年が差し出した鈍い黒い光を放つ石を取ると、姿を消した。
 次の瞬間には、巨木が大きな音を立てて倒れた。
「根こそぎ倒したか……」
 少し飽きれたような表情を残して、少年は斧を手にとると、巨木から生え出ている枝を切り落とし始めた。枝を切り落とすところまで先ほどの精霊に頼めばいいだろう、とも思われるが、今の少年のレベルでは魔石を一つ渡さないと精霊も言うことを聞いてくれないのだ。精霊の召喚が、不発に終わらなかっただけでも、ありがたい事だったとも言える。
 ちなみに魔石とは、文字通り魔力が詰った石であり、人間も体内にそれを蓄えていると言われている。一般的にモンスターと呼ばれる類は、死ぬと、死体と一緒にこの魔石を残す。なぜ精霊がその魔石を好むかは判明されていないが、自分の力量より少し力の大きい精霊を召喚してしまった場合は、この魔石で言う事を聞いてくれる……時もある。精霊と言えども性格はいろいろある、と言うことだ。
 ふと、少年が手を止めた。そして、ひとつの木の枝をじっと見つめる。少年の目線の先には、異常に小さな人間がいた。
 薄っぺらい、鳥の羽のようなものが背中についていた。
「妖精。こんな寒空で裸に近い格好でうろつくとは、なんともマヌケなやつめ」
 馬鹿にしたような表情を浮かべ、グローブを外す。素手で妖精をすくいあげると、耳元まで妖精を持って行く。微弱ながらも、トクトクと言う音が聞こえた。
「アホなやつめが」
 妖精を懐にしまいこむと、切り落とした枝を集めてソリに乗せた。
そして、来た時と同じようにソリを引きずって小屋へと足を戻した。

 シャント大陸が邪悪とされた三賢者を闇へと葬ってから早十五年。
 人々は賢者たちを忘れ、何事もなく過ごし始めた。だが、絶えず凶悪なモンスターたちの脅威にさらされている。いくら悪と呼ばれようと、いくら支配下に入れられていようとも、最低限賢者と称せるれるぐらいのことはしてきたのだ。
人々の暮らす場所に結界を張り、モンスターらの襲来を防いできた。
それだけに限らず、国家間の険悪な雰囲気も彼らが入ることにより柔軟になってきた。と言うより、柔軟にならざるを得なかった。賢者に逆らえば最後、結界は消滅させられ、モンスターがエサを求めて押しかけてくるだろう。宮廷おかかえの魔術士程度では城を守るのが精一杯であろう。
 三賢者はそのためにシャント大陸の各国から疎まれ始めた。三賢者は、各々高価なものを要求し、好き放題に生きるようになった。
 そして、三賢者のうちの一人は国をひとつ構えるまでになった。
 それに恐れをなした各国は、ついに三賢者を葬ることと言う意見に達した……



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