1.奇妙な妖精と元賢者


 小屋に戻った少年は、くすぶり始めている暖炉の火に乾かしておいた二本の薪をくべると、コートを椅子にかけて暖炉の前に置いた。
早く乾くようにと思ってしたようだ。そして、ゴソゴソと胸元を探ったかと思うと、中から拾った妖精を取り出した。
「マヌケな妖精が」
 半ば口癖になってしまったかのように数度繰り返すと……上半身に着ていたTシャツを(確かに真冬にTシャツ一枚では、馬鹿またはマヌケ呼ばわりされても仕方ないこととも言える)脱がした。下にはいているジーパンを脱がそうと指をかけてみたが……ボタンがあまりにも小さくて断念したようだ。
 少年はため息を一つつくと椅子の上に妖精を置いた。そして、部屋の中央に置かれた、ぶ厚い本やガラス器材の乗った机の前まで行く。その机で食事をとるのもかねていたらしく、底に少しミルクが残った木の器と、同じく木製のスプーンが置いてあった。その器のさらに後ろに置いてある物を手にとろうとして、少年の動きが止まった。
 どうやら、これ以上手が届かないようだった。ため息をつきつき、 机とセットで<ある椅子を机の側まで寄せて椅子の上に立った。
「どうにもこうにも、小さいとは不便極まりない」
 少年はそう言いながら机の上を見渡す。
 そうして、ほとんど机の上に乗っかるようにして、やっと机の中央に置かれた果物が入ったカゴに手を伸ばした。
 カゴの中では、黒くて小さな尻尾の長い獣が三匹、リンゴの欠片を抱えて眠っていた。
「悪いな、リンゴをかじったことに文句は言わない代わりに、そのカゴを返してくれないか?」
 三匹のうち、二匹は少年の声に驚いたようにカゴから逃げ出した。 残りの一匹は、少年と意思の疎通が取れるらしく、チチッと小さく鳴くと、リンゴの欠片を口でつかんでカゴから出た。
 少年は、リンゴの皮が残るカゴを一度逆さにしてカスをゴミ箱に捨てると、辺りをきょろきょろと見回した。
 しばらく本がうず高く積まれている部屋の中をさまよった挙句、少年は暖炉の左の壁の窓際に干されたままのタオルに目をやった。一度鼻元にタオルをやって、匂いを確かめる。冬場の洗濯物は乾きが遅くて変な匂いがすることがあるが、少年の顔を見る限り、異臭がしている様子はなかった。
 少年は暖炉の前でしばらくタオルを温めると、小脇に抱えていたカゴの中にタオルを敷きつめた。ついで、暖炉の火で少し顔を赤くしている妖精をカゴの中に入れた。
 しばらく妖精を見つめたままであった少年だったが、何か思い立ったかのようにカゴの前から立ち去った。
「薬でも、与えてやるとするか」
 一人呟きながら、小屋の床にある本をどかし始めた。本をどかすと、下から収納庫のような入り口があらわになった。少年が、顔を真っ赤にしてその入り口の板を跳ね上げると、真っ暗な闇へと続く木の梯子があった。
 少年は、その梯子を伝って下へと降りて行った。

「LIGHT」
 少年のグローブをはめた指の先が淡く光り、闇の中がぼんやりと明るくなる。
 中には、本棚が設置されていた。本棚には、壜詰めのジャムのようなものもや、同じく壜に詰まった薬草と思わしきものが幾種類も置かれていた。
「解熱剤と、精力増強剤……アンナばあさんにもらったこのジャムも処分せねば……」
 少年は、丸い粒の詰まった壜を二つと、濃いオレンジ色の物体が詰まった壜を左手に無理やり抱えて梯子まで戻った。右手の先に灯っていた明かりが消え、倉庫の中には暗闇が戻った。

 少年は持ってきたジャムの壜を玄関のすぐ隣の粗末な台所に持って行った。洗ってはあると思われる皿の山が置いてあるキッチンテーブルにジャムを置くと、台所のすぐ横の食器戸棚の引き出しをしばらく漁った。
 一本の麺棒を取り出し、解熱剤と書かれた壜から一粒薬出した。麺棒で細かく砕くようだ。作業はすぐ終わり、今度は増強剤も同じようにして砕いた。
 精霊を入れておいたカゴに歩み寄ると、妖精はうっすらと目を開けていた。
「気がついたか? なんともマヌケなやつだな。一応薬を持ってきてやった。最初にこれを二粒飲むといい」
 小さな紙に乗せられた粉末を、精霊の前に差し出す。どうやら粉の二粒を取り出すのは、いくら小さな少年といえども無理だった様子。妖精は、言われたとおりに紙の上から二粒受け取り、口に入れる。
「牛乳で飲め」
 いつのまにか用意していた牛乳を、グローブをはずした指先ですくい取り、妖精の前に指を差し出した。妖精は素直に少年の指先をなめた。ほんの指先についた牛乳でさえ、ノドを潤すには事足りる量だったようだ。
「今度のも二粒な。今度は水で飲むんだよ」
 少年は今度は薬指で水をすくい取って、妖精の前に持って行った。
今度も妖精は素直に少年の言葉に聞き従い、少し苦そうな顔をしながら解熱剤を飲んだ。
「あとは、寝ていなさい。私が賢者だったころに作ったものだ、薬はすぐに効く……」
 妖精は、少年の言ったことにボーッとする頭で聞いていたのか特に気に求めた様子もなくタオルの中に身をうずめた……



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