そんなレティカの愚痴を聴い た数時間後、それは起こった。
 私の耳には、大地が咆哮したかのように聞こえた。私にはその咆哮が、人間が発する突撃を示す声だと気づくのに、しばらくかかった。
城の窓から外を見ると、人々の恐怖を超えたものが、城を取り囲んだ兵士や人々の中に感じられた。
どうやら、エンデは間違った国の守り方をしたようだ。虚無の地からモンスターたちを追い払い、モンスターを寄せ付けない結界を張ったのはよかったのだろう。
だが、人間を追い払う結界は張られていなかった。それに、モンスターが昨今まで徘徊していた地に人間が乗り込んでくるとも考えてもいなかったのだろう。
 また、彼は自分の力を買いかぶっていたせいか、城を守る信ずべき兵士をそろえてはいなかったのだ。二十人にも満たないメイドと、 二、三人のコックぐらいしか城にはいなかったように思われる。
 私は不安そうな表情を浮かべるレスティカをベッドに残し、いつも着用している服と青いローブを着込むと、部屋の外へと出た。
 城の中は、不気味な静けさに覆われていた。いや、城の外の人々の怒声があまりにも大きかったせいかもしれない。
「深淵、どういうことだ」
 私の呼び声に答えて影がスッと姿をあらわした。深淵は、私の使役精霊の一匹で、密偵を主として行っていた。黒い影の、顔にあたる部分に、青い双ぼうが輝くのと同時に、深淵は答えた。
「何者かが手引きしたようです。エンデガルドさまは現在何か儀式の最中の様です」
「そうか……それはまずい。追い払うべきだろうか」
 私は深淵に問い掛けたわけではなかったが、深淵は一言「わたくしでは決めかねます」と答えた。
 一度部屋に戻り、私はレスティカに言った。
「エンデは儀式の最中のようだ。クイーンはもしもの時のことを考えて、城から出ていただけませんか」
「いやですわ。わたくしとて癒すためだけにいるわけではないのですよ。まだ力押しだけの貴方とは違うのですよ」
 私がいつ力押しをしたのか、と思わず言い返しそうになった。いつも力押しをしているのは、エンデの方ではなかっただろうか……
 私は外見は恐ろしいドラゴンを威嚇目的で三匹作り上げた。三十分ほどで消えてしまうものだが、多少は人々の恐れの心を取り戻させ、怒りをおさめるためのものだった。
 部屋の中では小さかったドラゴンも、窓から出て行くと同時に巨大化し、物見の塔の北側を残し、三つの塔の上にとまった。大きな咆哮をあげて、城を取り囲んだ人々を威嚇する。
「アシュー、貴方の方こそ姿を隠しなさい。今回は手に負えないかも知れない」
「姿を隠すなぞ、私にできると思いますか? 私の手にかかれば、あんな人間たちなぞ」
 レスティカの指先が、私の唇にやさしく触れた。
「貴方は、やさしいままでいて。貴方は私たちにとって、いつまでも変わりなく、やさしい存在であってほしいの」
「私はやはり、あなた方にとって……」
 続きを言おうとした私の耳元に、深淵の声が聞こえた。私の影に入り込んで、直接話しかけてきた。
<アシューズヴェルト様、城壁の一部が破壊され、内部に人間どもが入り込みました。また、アシューズヴェルト様が作り出されましたドラゴン二体までもが消滅させられた模様。どうなさいますか>
 私は、それを聞いてレスティカから離れた。
「クイーン、これは他の国々にかけた結界を解かせぬためにも、自分の身を守らなくてはならないのです。今、彼らがしているのは、自分の首を絞める行為です」
「でも……」
 言いかけたレスティカの顔が、見る間に青くなって行った。
 私も、レスティカの様子に、嫌な予感を覚えた。
「……彼が死んだわ。儀式の最中は、守備ががら空きだから……」
 戦闘用魔術を発動の際は、ある程度の防御作用が働くが、儀式の場合はたいていが神聖と称され、厳重な警備の元でなされることが多い。それに、儀式自体大変な魔力が必要なため、防御にまで魔力を回すことをしない。だから発動までに防御作用が働くことはないのだ。
 エンデがなんの儀式をしていたかまでは分からなかったが、ともかく、彼が殺されたことはなんとなく納得がいった。
 頭では納得していても、感情と呼ばれるものが、体の反応を遅くしていた。しかし、悲しみだけは生じなかった。




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