十五年前も、こうして大きな暖炉のある自室の椅子に座っていた。
外からは、キングであるエンデガルドの声が聞こえていた。察するに、新しく設立する国の城についてのことだろう。エンデガルドが設立した国は、大陸の真ん中、虚無の地と呼ばれる場所を予定していた。
 虚無の地は、モンスターが大量に生息する地域で、人を寄せ付けることが一切なかった。
 そこに目をつけたのか、キング・エンデガルドは王城を構えてそこから大陸全土を支配する気だったようだ。
「城のことなら、四方に物見の塔を建てたものがいいと思われますよ」
 アシューズヴェルドはエンデガルドが部屋に入ってくるなり言った。
「ん、ああ、よくわかったな、私の言いたいことが。ところで、ハルツ国から私は手を引く」
「なぜ?」
 思わず言葉がついて出た。いつもならばエンデガルドのすることに疑問符を投げかけることはなかったのだが……
 ハルツ王国はとてもよい国だった。温暖な気候で、その気候と同じように王都の人々もとてもやさしかった。
「ハルツ国自体には特に問題はない。だが、その周りの国が少し難関でな。ちょっとした脅しでは金払いが悪くてな……」
 エンデガルドはそう言うと、冷酷な表情を浮かべた。
「そ、それは見せしめと言うことなのか……?」
「そうとも言うな。お前が気にすることじゃない。お前は、私に少し力を貸してくれればいいのだよ……お前は何も考えず、好きなようにいればいいんだよ」
 エンデガルドの手が、アシューヴェルドの胸をなで上げ、そのまま頬を触った。
   *
「いて……」
 針を指に刺し、にじむ指を見て、アシューは我に返った。
「子飼いの犬、と言う言葉が一番似合っていた時期でしたね……」
 アシューは、指先ににじんでいる血を口に持っていって吸うと、コートを止めるリボンを襟元に縫いつけた。妖精サイズの洋服に合うボタンがなかったためにリボンにしたようだ。
 小さなコートについた糸くずを手で丁寧に一つづつ払うと、カゴの中を覗き込んだ。
「できたぞ、コート」
 寝ぼけた顔をして、ラグが起き上がった。
「……縫い目もばっちりだね。裁縫うまいんだね、男の癖に」
「それは関係ないだろう。着てみたまえ。一応羽のことを考慮して作ったのだ」
 ラグはしばらくコートを見つめた後、袖を通した。背中の羽のところがすっぱりと横に裁断され、羽が出せるようになっている。裁断されているところも、きれいに端の処理がしてある。アシュー、見た目によらず手先が器用なようだ。
「ちょうどいい。アンタ天才だね〜。本当に賢者だったのか?」
 だったのか、と言う言葉にいささか不満そうな表情を浮かべた後、「早く出て行けよ」とつぶやいた。
「ちょっ、賢者さまともあろうものが、こんな愛らしい妖精を雪の中に放り出すって言うのかよ!」
「自分で愛らしい言うな!」
 アシューは、ラグを引っつかむと、カゴに押し込んだ。
「寝なさい」
「あんまり乱暴に扱うなよ! 羽がもげたら痛いんだぞ! それと、
寝るのにはまだ早すぎる!」
 頭の周りを飛び交うラグを再び捕まえて、アシューは言った。
「それじゃあ私の愚痴を聞いてもらおう。なに、昔話の一つとでも思うがいい」
 アシューは、暖炉の前に置いてあるミルクのポットを手に取った。
カップを二つ用意して、小さいカップをラグに渡した。
「案外やさしいんだな」
「うるさいな、愚痴を聞く気がないのなら寝なさい」
「わかった、聞くって」
 ラグはあきらめた様子でコートを脱ぐと、アシューのひざの上に座った。アシューは一度怪訝そうな顔をしたが、すぐに「いいだろう」とため息を一つ口を開いた。



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