アシューも多少は考えたものだ。普通の魔法は、音声によって力を引き寄せる。だが、その効果は魔力を貯えていなければ、効果は少ない。しかも、声に乱れがあれば、効果も半減する。
 しかし、ルーン――つまり指先で直接魔文字を描き出すものだ。ルーンは描き出された文字その物に力が宿るため、それを体内に取りこめば、間違いなく力となる。
「で、でも賢者さん! 大丈夫なのかよ、俺も手伝う……」
「結構です。あまりあなたに頼ってばかりではいけませんからね。それに、このドラゴンが完全に私の力を取りこみ、万が一凶暴化したら困ります。自分の後始末ぐらい、自分でします」
 アシューはそう言いきって、ラグを静止した。ラグはそれ以上何も言わずに、木の上へと飛び退いた。
「やばくなったら、絶対手を貸すからね! 賢者さんがイヤだって言ってもするからね!」
 ラグは木の上から後押しするように言った。アシューはドラゴンの動きを見たまま答える。
「どうぞご自由に」
 アシューは素早く手でルーンを描き出して体に吸収させる。また、一段とアシューの動きが早くなる。再度、素早さをあげるルーンを描いたようだ。
 アシューはドラゴンの牙と爪を避け、近くの木を駆け昇った。枝の一本に左手を伸ばしてつかみ、一回転する。開いている右手には、何か光る物がある。
 アシューは右手で一つの魔術を組んでいた。ドラゴンの横を擦りぬけながら、罠を仕掛けはじめていた。
 細い光りの輪が、ドラゴンを一瞬だけ捕らえた。
「“風縛”」
 アシューが冷ややかに言うと、今まで組んでいた術が明らかになった。
 微かに、風向きが一定になった。そして、風が空気を切る音がする。
「シギャアアアアア」
 ドラゴンが悲鳴にも似た鳴き声を上げた。
 アシューは、目を細めて穏やかに言う。
「申し訳ない……」
 アシューは軽く人差し指と中指を動かした。ドラゴンの首に巻きついていた風の糸が、鱗に食いこんでゆく。
「けけけけ賢者さん!」
「なんですか、その奇妙な笑い声は」
 アシューは息を少し弾ませ、ラグを睨んだ。ラグは両手と首を左右に振りながら言った。
「違うってば! その、痛みなくってのはできない?」
 アシューは指先をゆっくりと曲げてゆく。
「無理ですね。魔力不足です。一思いにできればいいのですが――ちなみにドラゴンの肉は一ヶ月間寝かせるととても美味しいのですよ。まだ若いから、肉も柔らかく、鱗は三日間煮込めばたいそうな食事になりますよ」
 アシューは微かな笑顔をラグに向けた。ラグの頬が少し緩む。“おいしそうかも”とでも思っているのだろう。
 ドラゴンが暴れ、その首には更に風の糸が食いこむ。そのうち鎌イタチのようにドラゴンの首を跳ね上げるのも時間の問題であろう。
 ドラゴンは首を荒々しく振って、なんとか風の糸を切り離そうとしている。そのせいか、一度木の枝に絡ませた風の糸に負荷がかかり――折れた。
 アシューは顔を少し歪め、風の糸を手に素早く巻き取った。そして再び風の糸を引き絞る。
 ドラゴンの首から、鮮血が散った。
「もう少し……」
 アシューの手からも、血が流れ落ちる。どうやら、術負けしているようだ。
 アシューは流れる血も気にせず、左手でルーンを描き出す。
「だ、だめえぇ!」
 なにかがアシューとドラゴンの間に飛びこんできた。
「なっ」
 アシューは飛び出してきた物に気を取られ、術を解いた。途端に血が散らばる。どうやら術の跳ね返りを食らったようだ。中途半端に術をきりあげた際、術が暴走して執行者にふりかかることがある。
 アシューは右手の流血を左手で押さえながら飛びこんできた者を見た……



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