小川より程よく近いところに、力があると報告された場所はあった。  ベリルが小さな指で示した場所には、わずか数メートルの高さの岩場が、その場所だ。
「あの辺に洞穴があるの。昔は熊さんの巣だったんだけど――今はどうかなー。あ、あたしはこれで帰るね」
 ベリルはそう言い残して、飛び立った。ラグは手を振って妖精を見送る。アシューは横目で去ってゆく後ろ姿を見た後、岩場を睨んだ。岩場の周りには茂みが覆っていて、さらに上から草木が垂れ下がって生えているので、遠目では細かなことが確認できなかった。
 ラグは、アシューと同じ方向を見てたずねた。
「どうする? もっと近寄って見る? でも、熊の古巣ってことは、熊がいる可能性大きいよね……」
 アシューは肩をずり落ちてくるカバンの位置を直すと、答えた。
「そうですね。けれど、近寄らないと力を取り戻すことができない。精霊に任せることも可能ですが、私の力自体が触れるのを拒むことがあるので、簡単に取って来いとは言いづらいですね」
 ラグは、アシューの肩をポンと叩くと、ゆっくりと歩み始めた。
「俺が見てくるよ。俺が力を手に入れることができたんだから、次のもたぶん手に入れられるよ」
「そうしてください」
 アシューがあっさりと了承したものだから、ラグは思わず振りかえって動きを止めてしまった。
「えーと、止めたりとかって言うのはないの?」
「しませんよ。面倒なことをしてくれると言うのですから、それをわざわざ止める必要もありません」
 アシューは木に寄りかかり、洞穴を見つめる。ラグは困ったように頬をかいた。だが、これ以上何を行っても無駄だし、そもそも自分が言った事だ。

 ラグは肩を落とし、首を左右に振ると、洞穴へ向けて歩き出した。途中で振りかえってみれば、アシューはココアか何かを入れてすすっていた所だった。
「賢者さん……ひでぇなぁ。確かに言い出しっぺは俺だけど」
 ラグはそう言って、神経を洞穴へと集中させた。
 洞穴の端からこっそりと中をのぞく。中は少し暖かく、何かが息づいている雰囲気があった。
「もっしもーし……」
 ラグが声をかけた途端――シギャアアア……との返事が返って来た。正確には、鳴き声であったのかもしれない。
「う、うわあああああああああああああ」
 ラグは悲鳴を上げてその場からダッシュで走りだした。


「あ、戻ってきましたね。何がいたんですか、そんなみっともない悲鳴を上げて」
 アシューは、全速力で帰って来たラグに向かって言った。
「だだだだだって!」
 驚愕を露にして、ラグは口をパクパクとさせる。
「熊でもいたのですか?」
 アシューの問いに、ラグはちぎれんばかりに首を左右に振る。
「ち、ちがくて!」
 ラグは言葉が出てこないのか、身振り手ぶりで見たものを伝えようとしている。だが、ラグがアシューに伝えきる前に、その主が現れた。
「ドラゴン、ですか。そんなに大きくないのですから、驚くことはないでしょう」
 アシューはそう言いきった。
「それに、この辺の森にドラゴンが降り立つと言ったのは、貴方ですよ」
「あ、そうだった。俺、いつも小さいからドラゴンってどいつもこいつもデカイって言うイメージがあってさ。それで取り乱しちまった」
 ラグはそう言って、深呼吸をする。それを見ていて、アシューがポツリと言った。
「でも、肉食であるのなら、危険ですね」
「のわああああああああああ!」
 ラグはまた奇怪な叫び声を上げ、アシューを抱き上げたかと思うとその場から逃げだした。だが、アシューが多少大きくなってしまったことが影響しているのだろう、すぐに息が上がってその場に膝をついた。
   


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