二人が紙袋を抱えて宿の部屋に帰ってくると、部屋の中では一匹の妖精が枕の上で昼寝をしていた。ガラスのように透き通る羽が美しい。ラグが指を伸ばして鼻を軽くつくと、妖精はパッチリと目を開けて飛んだ。そしてラグの手のひらに小さな筒を乗せると、ラグの鼻頭にキスをしてどこかへと消えて行った。
「もてるんですね、妖精には」
 アシューはふとそう口にした。すると、ラグはぎょっとしたような表情をした。
「なんか、変なこと言いましたか?」
「いんや、なんでもない。以外と変なところ見てるな、って思って」
 ラグはそう言って髪をかきあげた。
「つーか、ムッツリスケベ」
 ラグはポツリと呟いた。
「そうですよ」
 アシューはあっさりと認め、ラグは口が開いたままになった。アシューはそんなラグを無視して、備え付けのカップに持参していたココアの粉末を入れる。そして、ポットの中の水を入れた。アシューはカップを包み込むようにして持った。
「“我が命に従いて、炎を宿らせよ”」
 呪文を唱えると、カップの中がコポコポと音を立てて沸き上がった。アシューはスプーンでかき回すと、カップに口をつけた。
「うわー、ちょっと大人になってもココアかよ! ってか、俺にはー?」
 否定しておきながら、欲しそうにココアを見つめるラグ。アシューは無言でココアをすすった。
「なーなー」
 あまりにしつこいラグを睨みつけるアシュー。
「言葉を発しないと魔法をかけられない者の身になってください。それに、砂糖が入っていないから美味しくないですよ」
「えー」
 不満そうに文句を言うラグに、アシューはため息をついた。開いているカップにココアパウダーを入れると、同じようにして暖めてラグに渡した。ラグはティーセットに一緒に置かれているスティックシュガーを三本ばかり入れると、スプーンでよくかき混ぜて飲み始めた。
 アシューはしばらくラグの様子を見ていたが、妖精が持っていた筒が気になって、ラグに問いたずねた。
「なんと書かれていたのです?」
「力の正確な位置を頼んだんだけれど、やはり何者かが持っているらしくて、時折移動しているんだそうだ。その持ち主が誰か、と言うことまでは確認できないみたい。妖精って結構高く売れるらしいし、魔物のエサにもなってしまうからね。そうそう生き物には近づけないもんよ」
 ラグはそう言って、ココアを飲み終えた。
「小さいということも、大変なのですね」
 アシューは身に染みているのか、苦労がにじみ出たかのようなため息をついた。
「でも、その力が大体長く居る場所はつき止めたみたいだから、特に問題はないよ」
 ラグはまるでアシューを安心させるかのように微笑むと、頭をなでた。アシューはしばらく髪を乱されるの放っておいたが、何か思い起こし、驚いたかのような表情でラグを見た。ラグはその視線に気づき、慌てて手を退けた。
「な、なんか怒ってる?」
 少しビクビクとしてラグがたずねる。アシューはしばらくラグの手を見つめていたが、首を左右に振って答えた。
「いえ、怒ってはいませんよ。ですが、何か思い起こしそうで」
 アシューの言葉に、ラグは更に質問を投げかけた。
「思い起こしそうって、どれくらい昔の話?」
 その問いに、アシューは唸った。
「それがですね、私は賢者になる前の記憶がほとんどないのですよ。と言うより、賢者になったときの記憶も薄いぐらいです。どうして賢者と称されるほど力が強くなったのかも、覚えていません」
 ラグは眉間にシワを寄せ、腕を組んで考え込む様子を見せた。そして、右手を口に当てながら言う。
「それって、力を奪われたことと関係してるのかな?」
「いえ……賢者の頃も、自ら脳を働かせる動向にはない質でしたから。逆にこうして子供に戻ってから、物がある程度はっきり言えるようにもなった気がします」
 アシューは言いながらベッドに横たわった。
「成長が止まってしまった、と言うことさえ除けば、今もそう悪くはないのですよ。一人でゆっくりと考える力もつけましたし」
 ほぅ、とため息をつくとそのまま目をつぶった。
「賢者さん、寝ちゃうのかよ?」
 アシューは片目を開けて答えた。
「ええ……夢の中なら、何かが思い起こせそうで」
 アシューがそう答えると、ラグは複雑そうな表情を浮かべた。だが、それ以上何も追求することができず、黙って寝顔を見つめていた。
 アシューは、何日か前に見た頭を撫でられる夢を思い起こしながら、ゆっくりと睡魔に身をまかせた。
 


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