ボーと言うけたたましい汽笛の音でアシューは目を覚ました。
ラグも半分目を開け、外を見やる。どうやら特急汽車だったらしく、かなり南の方まで来ていた。魔装列車は、異空間を通り、離れた場所も一定の時間で通ることが出きる。そうでなければ、エヴィエンドの北の果てから国一つ越えた場所には来れない。
 アシューとラグが降り立ったのは、グランシェ国。今の時期は、エヴィエンド国から吹き降ろす雪混じりの風がグランシェの国に冷たく乾していた。
 ラグはアシューと荷物とをホームに降ろした。グランシェの入り口とも言える駅、グランシェ中央駅。どうやらここで一度乗りかえるようだ。各駅停車に乗り換え、二時間。何個もの駅を過ぎ、再びラグはアシューと荷物とを抱えて駅に降りた。
 ホームは閑散としており、ほとんど人が居なかった。
「ここは?」
 アシューはあまり見たことがない風景に、ラグにそうたずねた。
ラグは荷物を担ぎ、答えた。
「賢者さんは知らないかもね。ルツ村って言うんだ。ドラゴンが良く舞い降りるってことで有名だよ。って言っても、妖精間の情報だから、普通の人間は知らない。知っていたとしても、一度か二度見たことがある程度だと思う」
 ラグはそう言って歩き出す。アシューはその後ろを、本当の子供のようにちょこちょことついて行った。
 ラグは駅前にある安ホテルに部屋をとった。部屋に荷物を置き、アシューはベッドの上に腰かけた。
「それで、私の力がどうしてこんな所にあると言うことになるのです?」
 アシューの言葉ももっともだった。魔獣ならば魔石という形で力が存在するが、人間たるアシューには体内で魔石を作りだすことはできない。
 複雑そうな表情で考えるアシューを、ラグが言った。
「賢者さんの場合、特殊なんだよ。賢者さんの力、具現化してるんだもん。力がまぁるい玉の形をしてる。オーラによって、力の強弱があるし、体にスッと入ってきて、力を湧き立たせる。だから、誰かが持っているってこともありえるみたいなんだ。もしかすると、黒い男が賢者さんにしたのは、そんな新しい魔術だったのかも」
 ラグの言うことは、少しうなずけた。きっと、ラグが妖精だったからだろう。確かに妖精は姿を見せることはないが、どこにでも存在している生き物だ。それが各々連携して情報を流しているとなると、あながちウソではないかも知れない。
「とにかく、賢者さんの力はルツの森にいる誰かが持っているみたいなんだ。流石に誰か、ってことまでは分からなかったみたいだけど。たぶん分かったらまた情報くれると思う」
 ラグは言いながら、アシューの青いローブに手をかけた。
「なんです?」
「ん、ちょっとね」
 ラグはなぜかアシューの服を脱がせ始めた。
「私に、そう言う趣味はありませんよ」
 アシューは冷静にそう言った。
「俺もないよ」
 そう答えて、ラグはアシューの肌に手を当てた。
「だけど少しぐらい返還してやらないと、賢者さんも体辛いだろ」
「だからと言って、この体制はないでしょう」
 半分裸で、ベッドに押しつけられる格好になり、アシューはため息をついた。ラグはしばらく顔と体を硬直させた。
「だって賢者さん、妙に抵抗しないから自然にこう……」
「慣れてるんですよ。レスティカもエンデもよくこうしていたから」
 アシューはそう言いながら起き上がり、背もたれに寄りかかった ラグはしばらく複雑そうな表情をしていたが、ふと手を伸ばしてアシューの額に手を当てた。思わずアシューは目を閉じた。
 フワリとラグの手から淡い光りが広がった。その暖かさと心地よさに、アシューはすぐに眠気に誘われた。頭が勝手に前のめりになり、そのままラグの胸元に顔を押しつけるようにして倒れこんでいた。
「あのー賢者さん? やらしいよ、賢者さんってば」
 アシューは目をパチリと開けた。全身に暖かい血が巡ったせいか――アシューの下腹部がいささか膨らんでいた。だが、アシューは焦ることなく答えた。
「仕方ないでしょう。何年も使う機会も、使うことさえ忘れていたのですから……体を成長させたのですか?」
 アシューの身長が、ほんの少し伸びていた。それにともなって、体の筋肉が少しついていた。
「賢者さんの体って、おもしれぇ。だって、魔力を少し返しただけで成長するんだもん。俺の体もそうだけどさ。って、俺の身長縮んでない!?」
 ラグは焦ったように言って鏡がある洗面所へと走ってゆく。
「縮んでませんよ」 
 アシューはため息混じりに言った。そしていささか丈が足りなくなった服を着る。その上から青いローブを羽織る。ローブはまだ引きずるものの、軽く感じられるようになった。
「それにしても、ここまで力を自在に操れる者は初めてですよ」
 アシューは洗面所にそう声をかけた。
「妖精だからねー。巨大な力に憧れてんのよ。元々自然界の力の一部でもあるし。それよりもあんたの方がある意味珍しいよ。人間なのに自然の力をあそこまで体内に持っていたとはね。賢者さんのときの話しだけど」
 ラグはそう言って、服を脱いだ。そして、服に顔を埋め、少し嫌そうな顔をする。
「汗クサイ。洋服買いに行こう……賢者さんどうする? もしかすると、って言うことがあるから、獣人が着るような伸縮魔法の効いてる服いらない?」
「あったほうがいいですが」
 アシューは素直に答えた。ラグは「じゃ決まり」と言うと、アシューの手を引いて宿を出た。
 宿の近くにあった衣服店に入り、しばらく服を漁る。ラグに至っては、人間の服が面白いのか、大量の試着をして、店の者を困らせていた。アシューは黒のパンツに濃紺のタートルネックと、至ってシンプルな服を選んでいた。
「賢者さんてば色気ねぇな」
「余計なお世話ですよ。子供に色気なんていらないんです。そもそも、大人と言うのは、シンプルな服を着ていてこそ真の色気が出て
くるものなんですよ」
 アシューはそう言って勝ち誇ったかのような笑顔を浮かべた。ラグはむすっとしたかと思うと、最終的に一着だけ服を選んだ。アシューと似た感じの黒のパンツと、ブルーグレーのシンプルな長袖シャツだった。


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