Emperor


プロローグ 高熱

 
 フェレンツェ王国暦812年、北の国境である山のふもと町フーク。
 フークには、孤児院があった。満年齢で14までは面倒を見てくれる。だが、相次いでの戦乱で、孤児は増えており、どこの孤児院もいっぱいだった。
 そのため、この少女も高熱のさなか放置されていた。
十畳ほどの部屋に人がやっと通れるような感覚でベッドが並べられている。同じようにベッドで眠っている子供たちが大勢いる。どの子供も赤い顔をしており、高熱にうなされているようだ。もしかすると、すでに死を待つだけの子も居るかもしれない。
 その狭い部屋には看護婦が二人しかおらず、一人は扉の近くに置かれた椅子に気絶でもしているかのような様子で休憩している。
 もう一人の看護婦は、まだ余力のありそうな子供の体をタオルで拭いていた。
 そんな部屋の一番隅の窓の下に少女の寝ているベッドはあった。
少女額に乗せられた氷嚢はとうにぬるくなっているが、それを変えるものはいない。枕もとにいる耳の長い四足の動物では、それを行うのは無理だと思われる。心配そうに少女を見つめるばかり。
 少女のベッド枠にぶら下がっている記録の熱はここ二時間ほどで四十度を越していた。人間の生命を維持する上で、この体温は危険なだった。薬もなく、世話をしてくれる手もうしばらくなさそうだ。
その少女の色の薄い赤い髪は、汗のためかしっとりと濡れている。
 少女は、ふと目を開けた。青い瞳が虚ろに空を泳ぐ。
「だぁ……れ?」
 脳内が熱で沸騰しそうな温度にありながら、少女は虚空に問う。一瞬、看護婦が手を止めて少女のベッドの方を見た。だが諦めたように左右に首を振ると、再び自分の仕事に没頭し始めた。どうせ、頭に支障を来たし始め、何もない虚空に話しかけたのだ。
 看護婦にはそのようにしか見えなかったのかもしれない。
 だが、少女は確かにその影を見ていた。燃えるように赤い髪の青年を。青年の少し悲しげな瞳と、少女の虚ろな瞳とが交差する。
(私を受け入れろ。このまま放置しておけば、お前は死ぬ。消えかかった精神でこの世の中を渡っていくには辛かろう)
「だぁ、れ?」
 虚ろな瞳の少女の問いに、ルクドリアは威厳を持って答えた。
(私の名は、ルクドリア・ファートウッド。フェレンツェの皇帝……)
 少女は淡い笑いを浮かべると、消えかかりそうな声で言った。
「どうぞ……皇帝さん」
 少女はフッと目を閉じた。
 ルクドリアは少女の額に手を触れた。とても暖かく、今まで体をすり抜けていった者たちとは全く違った感触があった。
 入り込むというよりも、引き寄せられるような、今までとは違ったものを感じながら、ルクドリアは少女の体を包み込んだ。

 そして、少女は最高の魔力を手に入れた。








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