二章 8



 ラモゥは三人も乗せているのにかかわらず、一日も経たずにもっとも近い国境へとたどり着いた。レーヴェレスが道を知っていたのとラモゥの扱いに長けていたことも関係しているのかもしれない。だが、国境の門をくぐるのには、少し時間がかかるようだった。出国者が、一番近い国境に集中しているせいなのだろう。
「どうする? ラモゥはまだ借りれると思うから、もう一つエアフレイン城に近い国境まで行っちゃう?」
 レーヴェレスの言葉に、ラグはうなずいた。その腕にはアシューが眠っており、青いローブの襟元からはレッダーがクプクプ言いながら寝ていた。
「そうだね……賢者さんをもう少し寝かせてあげたいし。早く髪の色戻るといいな」
 ラグの言葉を聞いて、レーヴェレスが少し振り返った。
「おチビ、もしかして魔力の使いすぎでそんな髪色になってるん?」
「そうみたい。昔使役していた獣を呼び出して、体に移したのかな? 終わったら髪の毛の色が抜けてた」
 ラグは言いながらアシューの髪をなでた。レーヴェレスはラモゥをゆっくりと歩かせ、言った。
「もしかして……ディスローダ」
 ポツリとこぼしたレーヴェレスの言葉に、ラグは少し過去の記憶を探ってから答えた。
「そう、確かそんな名前だったと思う。よくわからない敵に襲われたときに召喚してた。足が燃えてるやつ」
 ラグの話に、レーヴェレスは目を細めた。
「そんなわけないわよ。ディスローダは自分が認めた人間の言うことしか聞かないはず。しかもおチビの体に乗り移った? 常人がしたら干からびて死んじゃう! それを知っているからなかなかディスローダは召喚はされても乗り移らないはず。やると人間が死ぬってわかってるから」
 レーヴェレスの言葉に、ラグの目が点になった。
「ほ、ほえ?」
 説明を求めるようなラグの表情に、レーヴェレスはため息をついた。
「ディスローダは炎の幻獣。人に乗り移れば体内のいろいろな能力を爆発的に上げることができる。でもそれは結果的に人の体温を上昇させて、老化を早めることになるし、ディスローダレベルになると乗り移った瞬間に体が爆発するの」
 ラグは「ひー!」と叫んでアシューを抱きしめた。
「ほほほほんとに!?」
 レーヴェレスはニヤリと笑うと、うんちくを言い始めた。
「だから、同時に体内を魔力で守らなきゃいけない。幻獣を体と同化させるには召喚、契約。それから体に幻獣の居場所を作って、そこから力を取り出すのと、体を守るための修行、っと。最初の一体を取得するに大体三年から長くて十年。体内の幻獣が居座るところをマジックボックスって言うんだけどね」
「常時いくつもの幻獣と契約し、更に体内の三つのマジックボックスから召喚ナシに力を引き出せていたのはエンデだけでした。私は契約数だけは多かったですが、実際に使役するのは契約した中でも最も強い幻獣だけでした」
 アシューはそう言って起き上がった。
「きぃ! 私が説明したかったのにっ」
 いいところをアシューに横取りされ、レーヴェレスはふてくされた表情を浮かべた。
「そもそも前にディスローダが貸してくれたのは彼の前足ほどの威力。それ以上は彼も私の体が未熟だと悟っていたのでしょう。鍛えなおさないといけないかも知れませんね、この体。いささか鈍すぎる」
 そう言ってアシューはレーヴェレスを見つめた。
「な、なに」
 微かに頬を染め、レーヴェレスはアシューに突っかかった。
「体重、どれぐらいですか」
 アシューが聞いた途端、バチン、といい音がした。
 アシューは打たれた左の頬をさすりながら言った。
「器用ですね、ラモゥ操作しながら。別に嫌だったら断ればいい事ですし、そう気が短くては魔女になるどころか結婚さえできませんよ」
 再びバチン、と音がした。
「うるさいっ」
 レーヴェレスは真っ赤になってラモゥから飛び降りた。続いてアシューも飛び降りる。慌ててラグも後を追う。制御する人がいなくなり、ラモゥは申し訳なさそうに立ち止まった。
「おチビ、小さいからって私は容赦しないの。小さいうちにしつけて置かないと、将来が危ぶまれるからねっ」
 レーヴェレスはそう言ってアシューの胸倉をつかんだ。そして、拳を振り振り言う。
「いい、女性に年齢と体重は聞かないこと! 聞いたら死ぬと思っ……」
 アシューはレーヴェレスの手を簡単に振り解くと、地面を軽く蹴って抱きついた。もちろん、子供とは言えいきなり抱きつかれてはレーヴェレスでも受け止めることはできない。二人はそのまま草原に倒れこんだ。
 ラグはそれを見て、目線を反らせた。
「賢者さん、俺先行ってるね」
 そう言うとラモゥに飛び乗る。ラモゥはラグを乗せてゆっくりと動き出した。
「ちょっとぉなんなのよぉ」
 レーヴェレスは髪に草の葉をたくさんつけ、半泣きで言った。アシューはクスクスと笑うと、レーヴェレスをひっぱり起こした。
「それぐら心得てますよ。ただいたずらしたかったんです。昔はしなかったから」
 アシューはそう言って微笑むとレーヴェレスの髪についた葉を取った。
「貴方は姿形は似ていないが、ロスフィアそっくりだ。その力も彼女から引き継いだもの。私の他に、良い男性でもみつけたのでしょう」
 レーヴェレスは驚いたのか目が大きくなった。そして慌ててアシューの後を追う。
「彼女は私なんかよりも、もっとおしゃべりな人を好きになったんでしょうね。私は力にもてあそばれたつまらない男に過ぎなかったから」
 アシューは少しさびしそうに笑った。そして、空を見上げると歩き始めた。
「歩きましょうか。きっとロスフィアは貴方に本当の父親のことを話していないはず。そうでしょう? でも貴方は父親がどんな者だったか知りたいですか?」
 レーヴェレスは、今度は眉間にしわを寄せ、複雑そうな顔をした。そして唸りながら答えた。
「そりゃ、知りたいけど……」
「どうせ今日はこの辺りの国境を越えた宿場町で夜明かしです。森をラモゥで越えるのは危険ですから。ゆっくり行きましょう」
 アシューはそう言って、レーヴェレスと歩調を合わせた。
「もしかするとショックかも知れませんし、私の憶測が間違っているかも知れませんけどね」
 含みのある言い方をして、アシューはにこりと笑った。

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