二章 6



「……どうして乗るんです?」
 アシューは、鞍の上に乗るレーヴェスを感じて呟いた。
「村の外に出る前に、私のパオに寄ってよ。簡単に荷物まとめるから」
 アシューの質問を無視しつつも、目的をはっきりと告げるレーヴェス。
「ついてくる気ですね」
 アシューはあまり驚いた様子を見せずに言った。レーヴェスは先ほど乱れて解いてしまった髪を、再び直そうとしていた。ラモゥの上で、髪にブラシをあてながら言った。
「あっらー、意外と反対なし?」
「女性に付きまとわれるのはなれていますから」
 アシューは言いながら、右手を軽く上げて虫を払うふりをした。少しの嫌味と、ついて来て欲しくないと言う意思の表れなのだろう。
 レーヴェスは頬を大きく膨らませた。
「なにっ、ウワサにたがわぬ女殺しっ」
 レーヴェスの話しの飛躍する度合いを見ると、ロスフィアに話しを聞いたことが何度かあるようだ。
「ロスフィアに何を吹きこまれたんです?」
 アシューは言いながら顔を少し歪めて笑った。
「無口で、何もかもを見ぬいた瞳をしていて、たまーに浮かべる笑顔が女殺しだって」
 レーヴェスは言いながら、サイドの髪を結い上げた。
「本人を目の前に、微妙な意見をありがとうございます。でも大丈夫ですよ、彼女も今の私を見たら昔の賢者とは思わぬはずです。正規の占い代は払いますよ。そのためにラグに魔物を倒すように言ってありますから」
 アシューは少し後を向いて、レーヴェスの髪型を見つめた。なんとか見られるようになっているのを確認したのか、ラモゥの速度を早めた。そして、レーヴェスのパオの前で止まった。
 レーヴェスは慌てたようにラモゥから降り、パオの中に入っていった。アシューはその背中に向かって言った。
「それと、何日か後には戻ってきますよ。ついてくる必要はないでしょう」
 アシューはそう言ってラモゥを歩かせる。パオからバタバタと音がして、レーヴェスがカバン一つ抱えて出てきた。しかし、カバンからは服や、タオルが顔をのぞかせていた。
「なに言ってるの! ロスフィア様とおチビのかけあいが面白そうだからついてくの!」
「そんな事だろうと思いました。だから止めないでいたのですが。その代わり、ラグがどこにいるかタダで占ってください。妖精の気配を探すのは得意ですか?」
 アシューの言葉に、レーヴェスは不思議そうな顔をした。
「おチビの連れって、モンスターハンターじゃないの? なんで妖精探すのよ?」
「彼の周りには強い妖精の気配があるからですよ」
 探している者自体が妖精である、と言うことは混乱を招くためにあえて伏せておくことにしたようだ。レーヴェスは「なるほど、了解よっ」と簡単に納得すると、懐からコロリと小さな水晶を出した。
 レーヴェスは右手に水晶を持つと、少し前方で構えた。狭いラモゥの上でその体勢を取れば、言わずともアシューの頭に手がぶつかる。レーヴェスは水晶を持った右手をアシューの頭の上に乗せた。
「別に、手を伸ばさなくても感じ取れるでしょう」
 アシューは不満を口にした。レーヴェスは左手を水晶にかざしながら答えた。
「仕方ないでしょ、気配を集めるのがまだうまくできないんだから。見習いで気配を集めることができる方がすごいでしょっ」
 レーヴェスは少し自慢げに言うと、目を閉じた。
「と、言う事は明確なビションを目にしていないのですね」
 レーヴェスは片目を開け、不満気にアシューの後頭部を睨んだ。
「色分けと声しか聞こえないのっ。人は黄色、妖精は緑、魔物は赤か黒。それで大方の検討をつけて選別、更にオーラの色で個人識別つけてるのよ。だから、結構時間かかる……」
 そう言ったレーヴェスの水晶に、アシューは左手で触れた。アシューの右手には、石のはまったグローブがはめられており、そこからキラキラと輝きがこぼれていた。
「これで貴方の目には見えるようになったでしょう。茶色い髪が少し跳ねた体つきの良い青年です。特徴としては、やはり妖精のオーラでしょう」
「ほ、ほはぁ!」
 レーヴェスから、裏返ったような声が出た。更に、目を何度も瞬きさせながら言った。
「な、なにしたの、おチビ!」
 アシューは頭の上に乗せられた手を退かせ、答えた。
「その水晶のレベルと、貴方の能力を一時的にですが上げたまでです。あと十数年鍛えれば、他の人間にもそのビションを見せることができるようになるでしょうね。その頃には、人探しだけではなく微かな未来を見れるようになっていることを願ってますよ」
 レーヴェスは目を大きく開けると、アシューの頬をフニフニとつまんだ。
「おちびー、凄いねっ! 将来大賢者になれるかもよっ」
「それは嫌味と受け取っていいんでしょうか?」
 アシューが言い返すと、レーヴェスはニシシシッと笑い声を返した。
「たぶんお目当ての人物の居所なら分かったわよ。魔物の巣にいるみたいね、バカな旅行者ね。生きて帰ってこれるかしら」
 レーヴェスはあっさりと言い放ち、アシューの握っているラモゥの手綱を取った。そして、ラモゥの歩く速度を早めさせた。



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