二章 4



 まだ鳥も目覚めぬ早朝、アシューは目を覚ましていた。少しウトウトとしていたのは覚えているが、やはり頭の中に不愉快なモヤがかかっているせいだろう……
 アシューはランプに明かりをつけ、軽く伸びをした。横でカーカーと乾いた寝息を立てているラグを数秒見ていたが、起きあがって抱きこむように包まっている掛布を剥いだ。その勢いで、ラグはゴロリと一回転した。
「な、なななにぃ?」
 半分寝ぼけているのか、手で床を確かめている。
「ロスフィアの所に行きますよ! 彼女に未来を占ってもらうんです!」
 アシューは珍しく声を張り上げて言うと、ラグの背中を掴んだ。
「どこかで魔物を一匹倒して換金してきてください。その間に私はロスフィアの居所を探しますから!」
 アシューの勢いに押され、ラグは寝ぼけ眼で何度もうなずいた。だが、適当に服を着せられて、その手に小さなナイフを握らされた時、ようやく目がさめたようだ。
「な、なんで魔物狩りっ?」
 もっともな質問だ。
「お金が必要だからですよ」
 アシューは簡潔に答えた。ラグは首を左右に激しく振って言った。
「俺が言いたいのはそう言うことじゃなくて! どうして大金が必要なのかってこと! ってか、このナイフじゃ無理!」
「当たり前です。それは魔物の毛皮を剥ぐときに使いますから。あんまりばっさり切らないでくださいよ、毛皮は大きくとれれば取れるほど高く売れますから。ほら、今の時間なら魔物も鈍ってますし」
 激しく急かすアシューに、ラグは困惑する。しかもなかなか会話が噛みあわない。
 そうこうしているうちに、ラグはナイフを手に握らされたまま、パオから追い出された。それからしばらくして、アシューが出てきた。
「まだ行ってなかったんですか」
 冷たく睨むアシューに、ラグは物言いたげな表情を浮かべていたが、諦めたのかナイフを手に歩き始めた。
「この付近から少し離れると幾つか湖があるかと思います。その付近は木が多く生えていて、魔物の寝床になっているそうです。ブラック、シルバー、ホワイトと呼ばれる魔物がいて、言った順にランクが低いんですよ。なので、できればホワイトカラーでお願いします」
 よく分からぬ説明をラグの背中に投げかけ、アシューは走り出した。
「け、賢者さーん……良く言っている意味が分かんないんだけどー、ってもういない」
 ラグは虚しさを、ナイフを見つめることによって分散させた。
「これ、果物ナイフじゃ……」
 ラグは、もう姿さえ見えないアシューに向かって「賢者さーん……」ともう一度言い、ため息をつきつき歩き始めた。


 アシューは早足で村の中を歩き回った。まだ目覚めていない村だが、数個所のパオからは光が漏れていた。その中の一つに、アシューは入りこんだ。
 そのパオの中は暖かく、獣の匂いが強かった。と言うのも、薄褐色の毛むくじゃらの体がいっぱいあったからだ。体型的には馬に似ているが、サイズは二周りほど大きく、その足は太くがっしりとしていた。犬を思わせる顔は、これまた短いながらも密度の濃い毛で覆われており、唯一毛の生えていない巻き角が少しかわいらしいワンポイントになっている。
 アシューはその生き物の目を覆っている毛をかき分けた。体毛は短いのだが、頭や顔から生えている毛はとても長いのだ。
「ラモゥ、1頭いくらぐらいするのですか?」
 どうやらラモゥと言うらしい。それまで干し草の上に座って眠っていた中年の男が目を開けた。
「貸し出しもしているから、一概にいくらとは言えないが……最低ランクのラモゥで金貨20枚かな。貸し出しだったら、一日銀貨80枚だよ」
 アシューは少し唸った。
「最低ランクのラモゥは、ほとんど歩かないと言います。調教をしている暇がないので……」
 アシューの言葉に、中年の男はニヤリと笑った。
「と言うと、お坊っちゃんは急ぎでラモゥが必要なんだね。良かったら足の早いラモゥがいるよ。それだと、金貨120枚から150枚と言ったところか」
 アシューが急いでいるのを知って、金額を吊り上げてきたようだ。
「値切っても、金額を変える気はなさそうですね」
 そう言って直球を投げるアシューに、中年の男は少し顔色を曇らせた。ここで客を逃すわけには行かなかったようだ。
「し、しょうがないなぁ、じゃあ貸し出し料金を銀貨60枚にしてあげるさ」
 レモドから旅人が減って、収入も同時に減ってしまったからだろう。男は貸し出しの方の料金を下げてきた。
「では、取りあえず一日だけお借りします。そうですね、十時頃にもう一度顔を出します。それまでにラモゥの調整を。これは前金です」
 アシューはそう言って、銀貨を10枚男に渡した。男が銀貨を数え始めると、アシューはパオの外に出た。と、同時に寒い空気が入りこんできてアシューは身震いをする。青いローブの前をかき合せ、ようやく顔を見せ始めた太陽をまぶしそうに見つめた。





Next
TOP
NOVELTOP



本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース