2 ゴメンなさい、責任持ちます。19


 ロイはシュウを抱えたまま遠くまで退き、高台で馬を止めた。そ
こから、フォンシャンの姿を見ることができた。
 フォンシャンは自分の足元に一つ防御となる魔法陣を描いて中央
に立っていた。その頭上には、大量の魔法陣がまばゆく光りを放っ
ていた。
「我が深遠の友ディープよ。我が為に力を貸せ。我が血と赤き宝石
を持ってお前の糧として差し出す」
 フォンシャンはそう呟き、手を巨大な魔法陣営の中心に掲げた。
 魔法陣はいっそう強い光りを放った。そのうちの一つが七色に輝
き、そこから巨大な物体が姿を現した。
 蛇のような体は青く透き通るように輝き、水晶のような瞳が赤い
光りを放った。
 水の神ディープは、巨大な龍の姿をした生き物だった。
 ディープは大きな首を持ちあげ、自分を呼びだした術者――フォ
ンシャンを見ると、次いで大量のゴーレムを眼下に捕らえた。大き
く体をそらせたかと思うと……深海の身も凍るような大量の水を吐
きだした。
 その莫大な量の水に飲まれ、ゴーレムはあっという間にトランザ
領へと押し流されていった。
 壊れた壁の一部から、向こう側の様子が見て取れた。ゴーレムの
姿を作っていた土は水底に沈み、核である赤い石が水中をゆっくり
と沈んでいく。その赤い石を食らうようにして水中を進む。
 フォンシャンは飛翔し、トランザ領へと入った。そして、巨大な
魔法陣を空中に描き出す。
 ディープは最後に、水と共に飛翔し、フォンシャンが最後に描い
た魔法陣の一つに吸い込まれて行った。
「す、すげぇ……召喚術がアレだけの物とは――思っても見なかっ
たぜ」
 ロイはそう言って、緊張で震える手を開き、額の汗を拭った。
「フォンシャン……フォンシャン!!」
 シュウは馬に乗り、飛ばした。
 フォンシャンの体がゆっくりと落下し始めたからだ。
 このままではトランザ領内に落ちる。そしたら、フォンシャンの
命はない。
 そうわかっていたのだろう。シュウは馬を飛ばし、誰も、何もな
い領境を突破した。遠方にいた、トランザ兵がこちらへと攻めてき
ていた。
「シュウ!」
 一気に詰めよって来るトランザ兵に、焦ったようなロイの声が聞
こえたが、シュウは振り向くことをしなかった。
 ふと、フォンシャンの体の落下速度が遅くなった。
 パキン、と言うガラスが割れるような音がし、フォンシャンの胸
のあたりから光りがこぼれた。
 その光りは、宝石の破片だった。シュウの少し前の地面に、黒革
の首輪が落ちた。シュウは首輪を拾い上げ、フォンシャンを見上げ
た。
 シュウは、驚きのあまり息をのんだ。
 フォンシャンの背から、真っ白く光りを放つ、鳥に似た二対の翼
が広がる。それだけではない。
 銀色に輝く髪が、波打つように風になびく。
「フォンシャン……?」
 フォンシャンである筈なのだが、何か違うオーラを放っていた。
そもそも、羽根のある人間なぞを見るのは初めてだった。最初、聖
鳥シグルかとも思ったのだが、当のシグルがシュウの肩に降り立っ
た。
 シュウの頭に、一つの単語が浮かんでいた。
 トランザ兵は、突如として現れた人の形をした人間外の存在に、
警戒していた。だがトランザ伯の「攻めよ」の命令に声をあげて突
っ込んでくる。
「フォンシャン! 早く逃げて!」
 シュウはフォンシャンの下から叫んだ。そして、手を伸ばす。
「逃げる、だと? わたしが、この非力な人間どもの前から逃げる
ことなどない」
 フォンシャンはそう言って、左手を横に伸ばした。その手に、光
りが集約し、銀色に輝く大鎌が形成された。フォンシャンはそれを
握る。
 フォンシャンは地面に降り立ち、背後に居るシュウに問いかけ
た。
「お前は、この身に思いを寄せているのか?」
「貴方は……誰?」
 シュウは、フォンシャンにそうたずねた。腰まで届く銀髪。それ
に切れ長の凍てつくような眼光。唇は淡く色づくも、冷徹さが漂う。
 美しい青年ではあった。だが人間らしい優しさ(フォンシャン)
はどこににもなかった。
「カルティア」 
 青年はそう答えた。そして、魔術で身にまとっている服を変えた。
白く長い衣。その姿は、天使そのものであった。
「フォンシャンは?」
「あの下衆な男か。私を押さえつける力を失ったと見える。私に体
を譲った」
 カルティアはそう言って、シュウを抱き寄せた。
「あの男の弱みか。面白い――」
 カルティアと名乗る男はシュウの頬に手を添え、無理やり唇を奪っ
た。シュウはそれにあらがうことができず、ただカルティアの服に
手を食い込ませるだけだった。
 体に浮遊感を覚え、閉じかけていたシュウの目が、見開いた。
 耳を轟音がつき抜けたからだ。
 シュウはカルティアからやっとのことで顔を離し、下を見下ろし
た。
 地面が、森やそこに居たトランザ兵も、無くなっていた。大地が
すり鉢のように消え去っていた。その中心には、カルティアが持っ
ていた大きな銀の鎌が突き刺さっていた。その大鎌を降り注ぐ水が
伝わって落ち、水を溜めてゆく。
「な、なんてことを……」
「私に刃を向けた。その裁きだ」
 カルティアはそう言い放ち、翼を羽ばたかせた。高く舞いあがり、
簡単に領境を超える。
 と、一本の矢がカルティア向かってきた。それは、領境の壁の上
に転移したトランザ伯が放った物だった。
「愚か者が」
 カルティアが左手を広げると、その手に銀の大鎌が戻ってきた。
それを虚空を切るように一回転させると、トランザに投げつけた。
大鎌は回転し、巨大な刃となってトランザに襲いかかり、その胴か
ら寸断した。
 体が二つに分かれたトランザは、「ひいいいい……」と断末魔の
叫び声をあげて事切れた。その両足はしばらくバタバタとしていた
が、しだいに痙攣したかのような動きになり、動かなくなった。
 シュウは思わず吐き気を覚えて目線を反らした。
「……醜いな。私ならばこのような事態を引き起こすことが無かっ
た」
「貴方は、一体」
「私はおしゃべりが好きではない。このまま落としていっても構わ
ない」
 シュウはそう言われて、黙るしかなかった。眼下に見える大地は
遥かに遠く見える。かえって星の距離の方が近いのでは、と思える
ほどだった。



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