4.GHOST HOME−2


 当のカヲルはアルに横から蹴りを入れてどかしていた。ハイネが
怪訝そうな顔をして、
 薔薇のツルの動きが止まった。
「血を分け与えたのか? だからと言って、純血種の私に勝てると
思って?」
「卑しい血ほど強いことがその内にわかりますよ」
 バドはそう言いながら、アルに振り返った。
「俺zのマントについている中で、一つ刃物じゃないものがあるで
しょう、それを取ってください!」
「ど、どれですか?! 自分でとってください!」
 アルは、重たいマントをバドに投げ返した。空中に広がるマント
を受け取り、素早くはおる。着地を決めたバドに、カヲルの声が飛
んだ。
「バド、貴様! 俺に内緒で武器所持か? あとで覚えておけ!」
「ひぇ……十字架だけはやめてくださいね!」
 バドはそう言うと、自分のマントの中から一本の金属の棒を取り
出した。
「バドさん、それってなんなんですか?」
 勝機が見えてきたのか、アルは余裕だった。バドもそれに悠長に
答える。
「これはですね、こうやって使うんです」
 バドが一振りすると、筒状の先から光がまっすぐ伸びた。
「この光全体が高熱の粒の塊でしてね、瞬時にして焼き払うことも
できるんです。ライトソードってやつです」
 そう言いながら、伸びてきた薔薇のツルに切りかかった。次の瞬
間には、ボッと小さな音を立てて、ツルが消し飛んだ。
 カヲルはそれを見てつぶやく。
「そんなもの持っていたんだったら先に出せ!」
「ご、ごめんなさい……忘れてまして」
「馬鹿なやつが……」
 カヲルは頭に手をやって唸った。苦笑いをするバドは、再びハイ
ネをにらんだ。
 後退るハイネだが、引くことはなかった。残った薔薇のツルを終
結させ、上へと浮かび上がった。薔薇のツルが数えられるまでに
減ったせいで、そろそろ核が視界に入ってしまうのだろう。それを
避ける為に上からの攻撃に打って出たようである。
 薔薇のツルが、まるでヤリのように上から襲ってくる。
「そう来ましたか。では……」
 バドの手に握られていた物の光が弱くなったように感じられた。
それを知ってか知らずか、薔薇のツルはバドの手に巻きついた。光
に先ほどまでの殺傷力がないと見ると、ツルはギリギリとバドの腕
を締め上げ始めた。
「バド!」
「バドさん!」
 カヲルとアルが同時に叫び、薔薇のツルの届かぬところへと一度
離れた。
「大丈夫ですよ、そのまま離れていてください、危険ですからね!」
 バドの表情が一瞬かたくなった。それと同時に、火花がツルを駆
け上った。
「きゃあっ!」
 ハイネの小さな悲鳴が聞こえて、落ちてきた。が、着地までには
体制を整え、何事もなかったかのように床に立った。そのハイネに、
カヲルが切りかかった。刃はハイネの脇腹をかすり、赤くえぐった。
クロス・ソードがヴァンパイアに絶大な効果を及ぼすのは、本当の
ことだったようだ。だが、ハイネとて五百年を伊達に生きてきたわ
けではなかったようだ。あっという間に傷がふさがり、服の裂け目
は薔薇のツルが覆った。
 カヲルはその光景に舌打ちをし、呟いた。
「やはり心臓を狙わなければ駄目か」
「ご主人では無理ですよ」
 バドはそう言って、カヲルを自分の後ろへと追いやった。
「お、おい!」
「身内の後始末ぐらいさせてください」
 静かな口調で答えるバドに、カヲルは大人しく下がった。バドは、
ハイネに向かって言った。
「姉さん、いやハイネ。俺と手合わせ願おうか。それとも、この卑
しい血に負けるのがいやで拒否するか?」
 ハイネの目が細まり、ついで大きく見開いた。
「何をいうかと思ったら! 私が負けるわけがないのよ!」
 ツルが大きく唸り、バドの左手を巻き取った。そのままハイネを
手繰り寄せようとしたのだが、そのすぐ後にツルがバドの頬を打っ
た。思わずツルを握っていた手が緩んだ。その間に腕や足などにツ
ルが巻きつく。首に巻きついた時には、思わず手に握っていたライ
トソードを取り落とした。光が消え、乾いた金属音が響いた。
 ハイネは勝ち誇ったかのような笑みを浮かべてバドに顔を近づけ
た。首に巻きついたツルが絞まり、バドは喉元に残っていた空気と
共にうめき声を漏らした。
「苦しいの? 馬鹿力だけで私に勝てると思っていたの? 笑いが
止まらないわ」
 ハイネはしばらくバドの表情を見つめた後、言った。
「でも、以前よりは強くなったんじゃないかしら? 私の血を与え
たら、もっと強くなるかしら」
 バドは、答えは否とばかりににらみ返した。
「かわいくないわね!」
 ハイネの仕草から言って、さほど強い力ではないと思えたのだ
が……
 バドの体は吹っ飛び、壁に叩きつけられた。崩れ落ちそうになる
バドの体を、ツルがさせなかった。再びハイネが近づいた。バドの
あごを指先で持ち上げると、刺が喉元に食い込んで血がにじみ始
めた。その血を指先でもてあそび、ついには唇をゆっくりと近づ
ける。ツルが緩み、声の出せるようになったバドが叫んだ。
「カヲルっ!」
「なっ……」
 気配に振り返ったハイネの心臓部を、クロス・ソードの先が捕ら
えていた。
 一瞬だけ鮮血が散った。が、その血はすぐに灰色の塵となって
散った。
「貴様ぁっ!」
 ハイネの手がカヲルの首筋に及んだが、それより先にカヲルは
クロス・ソードを更に深く入れ、引き抜いた。
 ハイネのシルエットが、ボロリと崩れた。そして、灰のようなも
のがサラサラと音を立て て、床に降り積もった……
 その灰の上に、白い薔薇が一つ落ちた。

 カヲルはうつむいたまま床に座り込むバドに声をかけた。
「バド……ごめんな、痛かったろう、辛かっただろう……」
 カヲルの言葉に顔をあげたバドの瞳からは幾筋もの涙が零れ落ち
ていた。カヲルはバドの顔を抱いた。嗚咽を漏らすバドの背を撫で、
カヲルが言った。
「おまえの血が混ざり者だとヤツは言ったが、俺はそれで良いと思
う……おまえは人としての優しい心を持っている。それだけで、誇
れることがひとつあるんだぞ……」
 バドはカヲルの胸元に顔をうずめたまま、きつくカヲルを抱きし
めた。バドの頭を撫で、カヲルは言った。
「大丈夫、おまえの血は、とても暖かかった……」




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