12


「賢者さん……いい加減目を覚ましてくれよ」
 その声を聞いて、アシューはゆっくりと目を開けた。
 窓の外が目に飛び込んできて、雪が激しく吹きつけているが見られた。それと共に白い蒸気が舞い上がっている。
 気づくと、体はしっかりとした腕に抱かれていた。
「どうして……」
 アシューはゆっくりと身を起こしながら窓を注意深く見た。窓に映るのは、小さな自分の姿。しかし、茶色かった髪からは色素が抜けて銀髪になっている。
 アシューは自分を抱いていた腕の持ち主を見た。そこには、ラグがいた。
「どうしてって、賢者さん倒れたまま動かなかったんだよ。それに少し体が熱っぽいし、ほっとくわけにも行かなかったから」
 まるで子供に言い聞かせるような落ち着いた声色に、アシューは再び目をつぶった。
 魔動列車の軽い揺れが心地よい。と、同時に自分の体の熱っぽさにアシューは顔をしかめた。
「どこへ、行こうとしているのです?」
 ふと不安があって、アシューはラグに問いたずねた。
 ラグはアシューの頬にかかる髪を撫で、答えた。
「帰るんだよ――賢者さんには無理させちゃったからね」
 ラグの言葉に、アシューは「そうですか……」と半ばボーッとした様子で答えた。
 アシューの紫色の瞳は窓の外へ向けられ、いつもの生意気そうな表情は、深刻なものへと変わっていた。
「黒い、ローブの男……」
 アシューはそう呟いて、目を開けた。
 灰の香りと、弱すぎる人形。
「操り人がどこか遠くにいたか、それとも、私の存在を確認するためだけに?」
 考え込むアシューの眉間に、徐々に深いシワが刻まれてゆく。
 ふと、体を引き寄せられ、アシューは目を丸くした。
 目の前には、ニコリと笑うラグの顔があった。
「賢者さん、今は深く考えない。早く帰って――俺がココアをいれよう。でもって、賢者さんはベッドの上でそれをすすった後、眠りにつく。ね、今はそれを考えよう」
 ラグの言葉が、アシューの耳をくすぐる。そのまま眠りへと誘い、アシューの脳裏から徐々に思考が消えて行った。
「マオンは……?」
 トロンとした目をしながら、アシューは問いたずねた。
「大丈夫、彼なら泣いていたけれど、笑顔を見せてくれたから」
「そうですか、それは良かった」
 アシューはそう言うと、それ以上何も言わなかった。

 眠ったアシューを抱え直し、ラグは窓の外を見つめる。いつしか吹雪は、穏やかな雪の舞へと変わっていた。
 ラグは雪の中を舞う妖精を見つめつつ、ポケットから何か取り出した。
 握りしめた手をそっと開くと、黒いローブの破片が現れた。
「俺だって、気になるよ……」
 ローブの破片を握りしめ、その拳を見つめるラグ。その表情からは、憂いが見え隠れしていた。



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