一章 我瞳・怜騎


 けだる……
 我瞳は目を覚まして、そう思っていた。
 時計は1008時を指している。枕もとにある時計に手を伸ばすが、重くて体が前進しない。
「と思ったら碧璃……またこのクソガキか」
 我瞳の腕に、碧璃の腕が絡んでいた。我瞳は迷惑そうな顔をしながら、碧璃の腕をほどこうとした。
「足に絡むのは反則だぞ、コラ」
 碧璃の足が、我瞳の片足をはさみこんでいる。まるで抱き枕のように。いや、我瞳の筋肉の足だ、堅さから抱き木と言ったところか。
 我瞳は仕方なくベッドにとどまる。
 寝ているうちにほどけた碧璃の髪をすくいとって見つめる。
「髪の毛、痛んでやんの」
 それを聞いて一気に目が覚めたのか、碧璃がガバリと起きあがった。しかし、狭いベッドでそれをすると――
 ドタッ
 鈍い音を立てて、碧璃の体は床に落ちた。
「ざまぁねぇな」
「なんだと!」
 今にも噛みつかんばかりの勢いで睨みつける碧璃。我瞳はニヤリとすると、言った。
「シャワーでも浴びて来い。山歩きで汚ねぇぞ。言っとくが、英媛さんは聖春の奴と手をつないでっから、持ちだせないぜ」
 碧璃は目が血走りそうな程に我瞳を睨んでいた。我瞳も睨み返して言った。
「俺の言うこと聞かねぇと、本気で犯すぞ」
 碧璃は、枕をつかんで我瞳に投げつけた。我瞳が枕を受けとめている間に、碧璃はバスルームに逃げこんだ。我瞳はひとまずため息をつくと、枕を元の位置に置いた。それから隣りのベッドに行き、聖春の手錠を外す。英媛の方も外し、ハンカチをほどいた。
「我瞳様、おはようございます」
 何度か目をこすりながら、英媛は挨拶をした。頭を下げ、次いで上げた際には、やはり可愛らしい笑顔を浮かべる。我瞳は苦笑いをしながら挨拶を返すと、ポツリと言った。
「前、はだけてんぞ。服は洗ってある。バカ聖春が目を開ける前に着替えとけ。あいつは女の裸を見慣れてねぇから」
 我瞳は英媛のバスローブの前を合わせた。それから英媛の服を渡そうとして止まった。英媛本来の服は渡さず、聖春のカバンをあさると、ティーシャツとジーパンを渡した。
「それでも着てろ。どう見ても動きずらい――うわーぉ」
 英媛は、我瞳にくるりと背を向けると、バスローブを脱いでいた。細くしなやかな肌が、我瞳の目の奥に残った。


着替えが終わって、我瞳は英媛を見て肩で笑った。
 ダボついたティーシャツに足の出ないジーパン。聖春の細身のものでもまだ余裕がある。我瞳は笑いながら英媛をベッドに座らせ、ジーパンの裾を折った。
 我瞳が顔を上げると、英媛はニコリと微笑む。我瞳は手を伸ばして英媛の毛先に触れる。カールした髪が面白いくらいに指に巻きついてくる。英媛も手を伸ばして、我瞳の痛んだ髪をなでた。二人は目が合うと、微笑みあう。
 その笑顔合戦に飽きたのか、我瞳はバスルームのドアが軋む音を聞いて振り返った。
「お、ガキ、長かったな」
「何を! 英媛を離せ!」
 感情が表に現れやすいのか、碧璃は熟れたトマトのように赤くなっていた。
「碧璃様、お止めください。我瞳様はとてもいい方ですの。魔力が良質で――言わば我瞳様を食らっているのですわ」
 我瞳は心中で「そうだったのか」と呟きつつ、英媛から離れた。ところが、英媛はなかなか手を離してくれない。
「なぁ、頼むから服を着替えさせてくれ。あんたを一緒に着こむわけにはいかない」
 英姫はそう言われ、我瞳から離れた。英媛は我瞳の着替えを見ながら言った。
「くすすす、我瞳様、かわいいです、おヘソ」
 いまだに聖春のティーシャツを着ているので、丈が足らずにヘソが見え隠れする。我瞳は自分の腹を押さえ、英媛を軽く睨んだ。
「見るな。干すヒマねぇんだよ、お前らのおかげで」
「じゃあ、干しましょう。今日は一日休んでいただいて。我瞳様にも、聖春様にも」
 英媛はニコニコと笑って言った。
「それじゃまぁ、お言葉に甘えて休むかな。そういや、聖春の服がもうねぇな。俺のジャケットは聖春に取りに行かせるとして。ついでに捨てちまった分の俺の服も買いに行くかな……英媛さん、一緒に来いよ」
 我瞳はそう言いながら、英媛と碧璃を順に見た。碧璃は落ちつかない様子でベッドの上に座っている。
「どの道一緒にお連れになるつもりでしょう。碧璃様は今にも逃げだしそうですしね」
 英媛が言った通り、碧璃はそわそわしており、今にも剣をつかんで逃げだしそうである。我瞳は小さくため息をつくと、「わりぃな」と一言、碧璃の腹に拳を入れた。
「いたっ……」
 碧璃はその場にうずくまる。それを見ていた英媛は我瞳の拳にそっと手を当て、言った。
「我瞳様、お子ができなくなってしまうと困るので、お腹に拳を入れるのは今後お止めくださいませ」
 英媛のにこやかながらも凛とした声で言った。我瞳は無言でうなずき、もう一度ため息をついた。
 我瞳は気絶している碧璃の手を取って手錠をかけ、もう片方をベッド枠にかけた。我瞳は、メモ帳に何を書きとめると、テーブルの上に置いた。どうやら聖春への行動予定とお使いを書いたようだ。
「それじゃまぁ、行きますか」
 我瞳は英媛の手を取り(正確にはつかんだ)、宿から昼間の大通りへと出た。
 


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