一章 我瞳・怜騎


 っくしゅんっ
 0922時。
 聖春は小さな可愛らしいくしゃみを聞いて起きあがった。しばらくぼーっとした表情で当たりをゆっくりと見回した。窓が開けっぱなしで、隣りのベッドでは我瞳がうつ伏せになり、枕を抱いて眠っている。
「もしかして今のくしゃみ、怜騎さん? 背中出てますよー」
 聞いていないと思いつつも、聖春は言葉をかけた。まだ痛む脇腹を押さえながら立ちあがり、我瞳に布団をかけてやった。その後、テーブルの上に散らばっている医療パックの中身を漁り、ガーゼと傷薬を取りだしてソファーに座った。
 聖春が服をめくり、脇腹を見ると、傷口の辺りにはガーゼがテープで簡単に貼られていた。それをゆっくりとはがすと、まだ生々しい傷口と、糸が見える。聖春はそれを見て泣きそうな表情をして、口を歪める。
 しばらくして、傷口に塗り薬をゆっくりと塗りこみ、新しいガーゼを傷口の上に置く。テープで仮止めし、再び医療パックを漁る。中から包帯を取りだして――動きを固まらせた。
 ぐしゅっ……くしゅんっ
 鼻水をすする音と、またもやかわいいくしゃみ。
 聖春が顔を上げると、鼻をこすっている我瞳がいた。
「立て。縛り上げたる」
 そう言った我瞳は、いささか濁声になっていた。が、当の我瞳は自分が風邪をひきかけていることに気づいていないようだ。聖春も、言いかけようとして言葉を止めた。どうせ言ってもどうなるものではない。
 包帯を巻き終わり、我瞳は聖春に隣りの部屋を見てくるように言った。
 ほんの数秒後、聖春が戻ってきて言った。
「あのですね、逃げたみたいです」
「あ、やっぱり。バカだな、あいつら」
 我瞳はわかりきっていたのか、伸びをするとまた鼻をすすり上げた。
「昼食ったら追う。少々危険な目に合わせておいた方がいいさ。ああ言うガキにはそれぐらいしねぇと。どうせ一般人の足じゃ山二つぐらいしか越せないからよ、心配そうな顔すんな、聖春――ッきしゅんっ」
 我瞳は最後に大きなくしゃみをすると、床に伏せた。
「そうですか。で、怜騎さん何する気ですか? もしや筋トレ?」
「ああ。どうせだから背中乗れ」
 我瞳はあごで自分の背中をさす。
「は? でも、怜騎さん具合悪そうですよ?」
「はぁ? いいから早く乗れよ。重りが欲しいんだよ」
 我瞳にそう返されて聖春はしぶしぶ背中にあぐらをかいて座った。

 1350時、我瞳と聖春は共に町を出た。山が高く連なっているせいで、日が陰るのが早い。暗くなってゆく木々の間を、我瞳と聖春は跳躍して登ってゆく。足をつけるのは、常に木の枝だった。
 我瞳はしばらく聖春と共に進んでいたが、すぐに遅れをとるのにいらついてきたようだ。ふと振りかえると、山の一片を指して言った。
「あの場所で待ってろ。養生しろよ」
 我瞳は聖春を残し、先に行ってしまった。


 我瞳は山中を抜けて行く。
 女の足で、明け方に出発したとして、直線で行けば山を一つ越えたぐらいだろう。正規のルートを通っていれば、さらに時間がかかる。山の頂上で一度辺りの様子を双眼鏡で見てみたものの、視界には捕らえることができなかった。我瞳はため息を一つつくと、聖春を待たせている場所へと戻って行った。



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