一章 我瞳・怜騎


 18:58時。
 我瞳は、聖春が予想した通り部屋に戻ってきた。
 我瞳は何も言わずに黒のマントを聖春に投げて渡す。聖春も無言で受け取り、床に降ろされた弾の箱を開け、持っていた銃に弾を装填する。また、ポケットやマントの裏にも弾倉をいくつか収める。それが終わると、コンバットブーツを履き、床で足を馴らす。
 我瞳は、着ていたタンクトップを脱ぎ捨てると、黒のティーシャツを革ジャンの下に着た。持っている2丁の銃に弾を装填させると、胸ポケットに弾倉を2つほど入れる。
 マットシルバー仕様の銃をジーパンと腰の隙間に差し入れる。もう一つの銃は胸の内ポケットに入れる。そして、ナックルガード付きの大きめのナイフの鞘が付いているベルトを荷物から取り出し、身に付ける。  我瞳はふと、荷物の中に入っていた弾丸ベルトを手にとって、聖春を見た。
「これ、いると思うか? お前の体の仕上がり次第なんだよ。能力が上がってれば、必要ない」
 聖春は頬を膨らませた。
「お荷物にはなりませんよー」
 聖春はそう言って、部屋の窓の上枠に手をかけ、上へ飛んだ。いくらなんでも武装したままでホテルを出るわけにはいかない。色々なところからチェックされてしまうのは目に見えている。
 我瞳は、聖春の幼稚な表情を思いだして小さく笑う。 そして、聖春と同じく窓から出る。
 二人は屋上に降り立ち、山を見ながら軽く打ち合わせをする。
「で、お前には砦の中の連中を引きつけて欲しい。お前ならまだ傭兵臭さがない。俺じゃすぐに銃を向けられちまう」
「えー。めちゃめちゃ危険ぽい……」
「大丈夫だよ、お前なら」
 我瞳にそう言われ、聖春はニコリと微笑んだ。
「顔がフ抜けだからな、迷った奴ぐらいにしか見えない」
 我瞳が言うと、聖春は肩を落として「そーですか」と呟いた。だが、よくよく考えればある程度信用されているから引きつける役をくれた訳で――と聖春は考えを変えた。

      *      *

 19:30時。砦近くの木の上にて、我瞳と聖春は互いに時計を合わせた。
「行って来い。俺もすぐ後を追う」
「了解」
 聖春はそう言うと、木の反動を利用して大きく飛んだ。砦の少し手前に降りて数歩走り、三メートル程の高さから生えている大木の枝へと飛び移る。木の枝が大きくしなり、その反動で聖春は残りの七メートル程を飛び越した。
「おや。なかなかできるようになったんじゃねぇの?」
 我瞳は嬉しそうに言うと、時計をチラリと見た。19:35時、同時に発砲があった。
「俺も行くかな」
 舎弟の成長が嬉しかったのか、我瞳は微笑みを浮かべながらスタートを切った。
 壁の途中で何度か足をつけて一気に壁を昇りきる。
 騒がしさは右の方から聞こえてくる。その反対方向へと、我瞳は足を向けた。それから鼻をヒクつかせる。聖春には、あらかじめ右へ行くようにと指示をしてある。以前砦に来た時に、高貴な香りが漂ってくる方向を見定めていたのだ。
 我瞳は、砦の中に建てられた建物の中に入る。すでに聖春を追う為にかなりの連中が出払っている。
だが、出遅れたのか、警備に徹したのか、一人の野郎に出くわす。
 我瞳はすかさず手を伸ばして口を押さえ、背後に回りこむ。そして、素早く腰にあったナイフを抜き、喉を掻っ切る。
「サボっちゃいけねぇな。死刑決定」
 野郎は喉から血を噴き出させる。悲鳴もあげているのだろうが、我瞳にしっかりと口を押さえられているために、誰に知らせることもできずに息耐えた。
 我瞳は手についた血を壁になすりつけながらゆっくりと歩き出す。だが、その足音は響くことがない。我瞳の目は暗くにごった物に変わってゆく。
 血生臭さから再度匂いを辿るのに、少々時間がかかった。だが、確実な香りの発生源をつきとめた。
 他の部屋のドアよりも、重く頑丈そうな外観が、姫様達が囚われているのを確実な物としていた。そして、ドアの前には二人の監視がついていた。
 音もなく現れたが瞳に、二人の監視は目を丸くするのと同時に武器を手にした。
 だが、実際に武器が使われるよりも前に、我瞳の蹴りが監視の一人の顔面に入りこみ、次いでもう一人の監視の口をナイフで刺し貫いていた。
 半開きになった監視の口から、舌がポトリと落ちる。我瞳はそこで一呼吸置くと、顔に蹴りを食らって鼻血を出している方の心臓にナイフを突き立てた。顔をこすっていた上から我瞳の手が強く押さえこみ、先ほどの野郎と同じように悲鳴一つ上げることなく心臓の動きを止めた。
 我瞳はほんの少し首を左に傾げて目をつぶった。深呼吸をすると、目を開く。その瞳に生気が宿っていた。
「どうやって開けるかな――」
 と言った次の瞬間には、我瞳は蹴りを放っていた。
 案外もろく、ベキン、と音を立てて扉はくの字に曲がった。我瞳がもう一度――今度は鍵の部分に蹴りをくわえると、扉は軋んだ音を立てて開いた。
 予想に反して、中は空だった。
 我瞳はふーん、と言っただけだった。
 部屋の中は、姫様達を監禁していた場所だということだけは確実だった。トイレとバスルームがついており、しかも別々になっている。それだけではなく、ベッドなども安ホテルよりもかなり良い部屋になっている。
 我瞳は振り返って扉を見た。扉には、幾つもの鍵があった。総合計5つ。
 その一つ一つの形状が違う。二つはロックバーがねじ曲がっていた。我瞳が蹴りを入れたためであろう。
 残りの三つは、ロックバーが綺麗に切断されていた。
 我瞳はため息をついた後、舌打ちをした。窓に目を向けると、鉄格子が切断されていた。
「逃げたな、姫さんたち。聖春の言った通り、頭の切れる奴がいたな。最初は扉から逃げるフリをして扉を厳重にしておきながら、窓の方から目線を反らしてやがる――人に無駄足踏ませやがって。だが、強い残り香があるって言う事は、聖春が起こした騒ぎに乗じて逃げた可能性が高いかもな」
 そう言って、我瞳はその場を後にした。



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