一章 我瞳・怜騎

 翌朝8時。きっかりにドアがノックされる。我瞳の部屋のドアは
鍵が開いており、すんなりと中に入ることができた。
 中に入ってきたのは、聖春。部屋の中では、我瞳がベッドの上に
あぐらをかいて瞑想状態に入っていた。
 聖春は時計で8時であることを確認すると、我瞳に声をかけた。
「怜騎さん」
「聖春か。仕度はできてる」
 テーブルの上には、マットシルバーの銃と、黒塗りの――グリッ
プにドラゴンが描かれている銃。そしてナックルガードがついたナ
イフ。小さなナイフもいくつか出ている。弾丸ベルトに医療パック。
「また軽装。山、寒いですよ」
 聖春は、我瞳が着ているのが黒のタンクトップと革のジャケット
だけであるのを見て、そう呟いた。我瞳はニヤリと笑うと、答えた。
「おまえに、また暖めてもらうさ」
 それは、過去に聖春に極寒の地に言った時の話しだ。その頃まだ
小さかった聖春は、寒さのためか高熱を出して倒れた。その高熱で
我瞳は自分の体を暖めたと言う事があった。
「それに、後の細々とした物はお前が用意しているんだろ? 飯は
山で取るし」
 聖春は、ため息をついた。我瞳は頼れるのだが、一般人としては
非常に着いて行き難い。小さい頃よりも体を鍛えてきたものの、つ
いていけるか? と言う不安が聖春の中には渦巻いていた。

 仕度を終えた我瞳怜騎と聖春は、国境でもある山へと入りこんだ。
と言っても、山は断崖絶壁に近かった。
「とろいぞ、聖春」
「そ、そう言われてもですね、無理ですってば。俺に、怜騎さんが
まだ我瞳の名を分けてくれないのが、良く分かりました。俺、まだ
まだ力不足です」
 聖春はそう言って、傾斜の草の間に顔を埋めた。我瞳は少し平坦
な場所に座って言った。
「俺の名前は好いた女にしかやらねぇ。養子はいらねぇよ。この名
前、そんなに欲しいかねぇ」
 この世界には、まだ氏を持つ者は少なかった。持てるのは力の強
い者、財力のある者。それゆえに、氏を持つ者には、名前を引き継
いで友達・家族になりたいと思う者が多いのである。
「我瞳の名は、最強ですから……そりゃ、欲しいです」
「そう言うもんかね。自分で好きなように名乗ればいいじゃねぇか、
と俺は思うんだけどな――とにかく俺の名前を引き継ぎたいん
だったら、もっと早く登れよ。今度倒れたら放置するかんな。おま
えデカイんだもんよ。担げねぇ」
 聖春はそれを聞いて舌打ちした。
「大きくなるんじゃなかったですねー」
 聖春はそう言うと、ゆっくりと腰を起して登り始めた。

 00時。我瞳は少し平らな山腹で夜をあかすことにしたらしい。
「体痛いー」
 聖春は草の合間に倒れると、そう言った。我瞳はその背に向かっ
て「あほ」と一言。しばらく夜空を見上げていると、ナイフを放っ
た。ナイフは羽ばたきと共に何かが落ちてきた。
 それは鳩であり、胸にナイフが刺さっている。我瞳は嬉しそうに
笑った。
「俺、これ好き」
 我瞳はそう言うと羽をむしり、内臓をざかざか取りだして取りわ
ける。聖春はその間に日を起した。我瞳はそれを見てボソリと言っ
た。
「聖春、おすそわけはないぞ。飯ぐらい自分で用意しやがれ」
「あうーご飯……」
 聖春は指をくわえて、油の滴り落ちる肉を見つめる。我瞳は聖春
の頭を撫でると、言った。
「半分な」
 我瞳は鳩肉にナイフを走らせて等分する。聖春の顔がパッと明る
くなる。
「明日からは自分で捕るように心がけろ。腹へって動けねぇなんて
シャレになんねぇかんな」
 我瞳はあっと言う間に鳩を骨にした。聖春の荷物を漁り、中から
マントを取り出して広げ、その上に寝転ぶ。
「明日は3時起床。出立は5時頃予定だ。30分したら起せ。見張
り代わってやる」
 我瞳はそう言うが早いか、目をつぶった。聖春はうなずくと、残
っている肉を頬張った。

 0458時。目を覚ました我瞳は、聖春を殴り起した。
「犯すぞ、コラ」
「あはは……寝ちゃいましたね」
 聖春は殴られた頭をさすり、次いで涙目を拭った。
「今度寝過ごしたら、本気でヤるからな。よだれも拭けよ。ったく、
いまだにかわいい寝顔しやがって」
 それに対して聖春も反論する。
「怜騎さんだって、人のこといえないくらいあどけないのに、どう
してこう……」
 我瞳は、無言で聖春の首根っこを掴むと、崖まで歩いて行った。
「ここからつき落としてやろうか?」
「なーっ! 怜騎さん勘弁!!」
「暴れると手ぇ滑らすぞ。頭覚ましたら、この山脈内に存在する町
がある。兵智も、こんなちんけな山脈なんぞ、譲っちまえばいいの
によ」
 我瞳はブツブツと言いながら歩き始めた。聖春はその後について
行きながら答えた。
「怜騎さん、そう言いますけどね。兵智は後ろから強国二つにつっ
かれて今にも戦争状態。それに、この山からはいろんな鉱物・鉱石
が取れるから、ぜひとも手に入れておきたいんですよ」
「あーそかそか。金目の物が取れるんか。それにしても、どこでも
戦争か。ちょっと前までは西の方でやっていたような気がするんだ
けど」
 聖春は、しばし考えこんでから言った。
「なんか、怜騎さんがいる場所っていっつも戦争ですよね」
 しばらく歩いていた怜騎はふと立ち止まって言った。
「俺は迷惑男か、おい。何か呼び寄せてるとでも言いたいのか、聖
春くんは」
 我瞳の額にぶちぶちと音を立てて青筋が浮かんでいる。我瞳はそ
のまま歩くスピードを上げた。
「待って下さいよー、怜騎さん!」
 聖春はそう言いながらすがりつく。
「ええぃ! うっとおしい!」
「酷いですよー! 俺のこととまた山に捨てるんですか! ああっ、
俺はこの山で誰にも見取られずに、自分で生きていく術も知ら
ずに――死んで行くんですー!」
 聖春は我瞳の足にすがる。我瞳は聖春を引きずったまま山を登っ
た。


本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース