一章 我瞳・怜騎

 翌朝11:30時。部屋の中ではベッドの上でうつ伏せになって
我瞳が眠っている。
 ドアがノックされ、ガチャガチャとノブを回す音がする。その後
静かになったかと思うと、カチャン、と音がして一人の男が入って
きた。
「怜騎さん?」
 ヒュッ
 鈍い光りが軌跡を描き、入ってきた男の首筋で止まった。次の瞬
間には、男の腕が背面に捻り上げられ、ベッドに押しつけられた。
「怜騎さん、俺おれ!」
 我瞳は怪訝そうな顔をして、ベッドに押し付けている男の顔をの
ぞき込んだ。
「きよ、はる?」
「そうだよー、痛いよー、離してくださいよ」
 我瞳は手を離し、頭を掻きながらウィスキーのビンを手にとって
口に含んだ。
「あっあっあっあっ! 怜騎さんそんな飲んじゃダメですよ! せ
っかく仕事の話しをもってきたんですから」
 聖春はベッドから身を起して我瞳からビンを奪った。
「しごと? 戦争か? 聖春、もっと気ままに生きろよ……でかく
なったな、聖春。男らしくなった」
「そりゃ怜騎さんから見たら僕は成長不良ですよ。でも、腹筋・腕
立伏せ毎日やってますから、少しは……って、今誉めてくれたんで
すか!? って、そう言う話しじゃないんです」
「聖春、おまえはいくつになった」
「16です……だから怜騎さん、僕の話しをちゃんと聞いて下さい。
仕事内容はですね」
「聖春、髪染めたのか。赤いな。身長はどのくらいになった?」
 我瞳はそう言って、聖春の茶髪をつまみ上げる。
「えっとですね……怜騎さん! いい加減にしてください。聞く気
がないのなら僕がきたことはなかったことにしてください。怜騎さ
んの懐が寂しくなる頃だと思って、一生懸命探してきたのに」
 聖春はそう言ってうつむく。我瞳はベッドにうつ伏せになると、
言った。
「後で聞く。今は腰を揉め」
 聖春はため息をついた。
「また毎日」
「売り飛ばすぞ、早くやれ」
 我瞳はそう言って聖春の言葉をさえぎった。聖春の話しは長くな
ることが多い。我瞳にとって、他人の長話しを理解して聞くことな
ど不可能だった。
 我瞳はその後、酒に浸かり、寝ぼけた頭を覚ますためか、聖春に
質問を投げかける。
 付属して一言だけ付け加えておこう。我瞳の「売り飛ばす」。気
に入らない相手は、本気で水商売や労働に追い出す。それは過去の
聖春との関係にもあった。実は聖春は我瞳が五年ほど前に戦場で拾
った小年である。本来は赤毛に碧い瞳の小年。今は茶色い所を見る
と、染めているようだ。
 しばらく我瞳の腰を揉んでいた聖春だったが、指先が痛くなった
のか、耳元で言った。
「怜騎さん、そろそろ……うわぁ。怜騎さっ、やだ、俺違う!」
 聖春は、突然起き上がった我瞳に押し倒された。我瞳の左の瞳が
金に変わっていた。
「……聖春?]
 我瞳、寝ぼけていたのか我に返って眉間を揉む。聖春が心配そう
に顔をのぞき込んだ。
「怜騎さん、もしかして具合悪いんですか?」
 怜騎は聖春の問いかけを無視して、サイドテーブルの引きだしを
開けた。中には大量の錠剤がビンに入っており、数粒取り出して飲
もうとする。だが、咳こんでしまい、口から吐きだす。再びビンか
ら薬を取り出そうとしたが、頭を抱えて倒れこんだ。
「怜騎さん……」
 聖春は我瞳の口に錠剤を入れてやると、近くにあった水差しから
水を含むと、我瞳を押さえつけて唇を合わせた。
 我瞳の喉が、ゴクリと鳴った。
 しばらくして二、三度荒い息を吐くと、落ちついたのか聖春を押
しのけて起き上がった。
「悪いな、聖春。このヒダリが昨日の女とおまえをシンクロさせやがっ
た」
 そう冗談めいたことを言って、我瞳は笑った。
「聖春」
「な、なんですか、怜騎さん」
 唇についた血を拭い、ニッと笑みを見せる。
「もうちょっとキス、うまくなれ。唇切れちまったじゃねーか。血
の味のキスなんて、嬉しくねぇ」
 聖春は、頬を高揚させた。
「すみませ……」
 謝りきる前に、聖春の唇は塞がれた。それと同時に体から力が抜
けてゆく。
「キスはこういもんだろ?」
 聖春はその場に座りこんだ。
「怜騎さん、冗談がいつもキツイんだから。酷いですよね、再会早
々人の体力奪うんだもん。それにしても、義眼入れ替えた方がいい
んじゃないですか? 体と合っていないみたいだし、その痛みを薬
で落ちつかせるなんて怜騎さんらしくない」
 それから先をまだ続けようとした聖春だったが、我瞳が鋭く睨む
のを見て口をつぐんだ。だが、我瞳は表情をやわらげると、言った。
「心配いらねーよ。昨日のがちと激しかったんで、疲労したんだろ
うよ、ヒダリも」
 聖春は、我瞳の言葉にまた赤面した。我瞳はそれを見て、ニヤつ
いたいやらしい笑みを浮かべた。
「女、まだなのかよ。おせーな」
「そ、そそそそそんなことどうでもいいじゃないですか! とにか
く俺は仕事の話しをもってきたんですってば」
 聖春の粘りに負けたのか、とうとう我瞳は言った。
「金額、内容、望まれる結果の順に言え」
 言いながら立ちあがり、目を覚ますためか、シャワールームへ向
かって頭に水をかぶった。
「最低保証金五百万。あと成功報酬として国の財産の一つ。内容は
さらわれた姫様の居場所をつきとめ、反乱組織と思われる誘拐集団
からの奪還。結果はお姫様を無傷で救いだし、なおかつ反乱組織の
壊滅。でも、怜騎さんに任せたら、お姫様は無傷じゃ済まないかも」
 我瞳は、頭から水を滴らせながら聞き返した。
「どういうことだ」
「そのお姫様、本当に美人なんだって。色々なところから縁談の話
しが来まくるくらい。もちろん、おつきの人も何人か同時にさらわ
れたらしいけど。その人達も負けず劣らず超がつく美人ぞろいだっ
て。そもそも博東の女の人って、超がつくくらい美人が多いよね」
 我瞳は、うっとりとした表情をする聖春を鼻で笑った。
「だったらもう半分は汚されてる。ま、心の傷ってやつを含めなけ
ればその仕事、受けてやってもいい」
 我瞳は水を飲み干した。ところが聖春は、勝ち誇ったかのように
先を続ける。
「ところがね。女の子さんたち無事っぽいのさ。ウソか本当かは定
かではないけれど、一緒に連れ去られた者の一人がどうやら国の一、
二を争う術の使い手でね。今のところはお姫様無事だと言う話
し。そもそも、身代金取るにしたって、一応何日かは無事でしょ」
「あいまいな情報を俺に流すな。で、博東の話しなんだな、それ」
 聖春はうなずいた。
「そう。我瞳さんてば、なかなかいい位置に居てくれたよね。兵智
の隣りだもんね。山一つ越えたらすぐに博東国だ。ちなみに、博東
と兵智は国境にもなっている山をどちらが所有するかで戦争間近」
 我瞳は、聖春にビシリと指を突きつけた。
「それだ。山行くぞ、ヤマ。俺のかんだが、あそこに姫さんがいる」
 聖春の口が、開いたままになった。ここまで単純な奴がいるだろ
うか? と。だが、どの道一度は博東に行カなくてはならないだろ
うし、山を突っ切っていった方が近道は近道である。
「明日8時までには準備しておく。その時間に迎えに来い」
 我瞳はそう言って、聖春を部屋から追いだした。そして、再びベ
ッドにうつ伏せになって眠り始めたのである。



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