3 俺が悪かったのかも知れない 3



 フォンシャンは、きっかりエスカイザの前に姿を現した。
「エフローデはどこにいる!」
 そう言ってエスカイザにつかみかかる。その拍子に髪が解ける。
「なんだ、貴様は。無礼な」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! エフローデはどこにい
る! 俺が!」
 エスカイザは、フォンシャンの手を振り解き、一点を指差した。
 指を指した先には、翼の生えた獣が居た。その背に、グランザ・
エフローデ公が、あざ笑うかのような表情で戦場を見下ろしていた。
 フォンシャンは、下からエフローデ公を睨みつけていた。そして
エフローデ公の元に近づこうとする。
「よせ! 無駄死にするつもりか!!」
 エスカイザがそう言って、フォンシャンの肩をつかんで引き止め
た。
「なんで!」
 そう食って掛かるフォンシャンに、エスカイザは指先を地繧ノ向
けた。
 地上には、禁術によって合成された魔獣がうごめいていた。それ
も、半端な数ではない。どんどん数を増やし、兵士に食いかかって
いる。
 エスカイザは更に領境を見るように促した。
 領境には巨大な穴が開いており……
「ひっ……」
 シュウは短く悲鳴を上げた。そして、胃の腑の中のものを吐き出
した。
 それは、仕方がなかった事かも知れない。
 領境から顔をのぞかせた、三匹の竜の頭。その三頭はそれぞれ違
う竜だったものに違いない。だが、体が互いに捻れ合って一つの物
となっていた。
 それだけではない。左右二つの竜の頭が魔獣を飲みこみ、真中の
一体が、不可思議に合成された魔獣を吐きだしているのだ。
「い、いやっ……」
 シュウはその場に力が抜けて座りこんだ。それをエスカイザが馬
上に引き上げた。
 三頭の竜は、兵士らの死体をも飲みこみ、新たに産み出される魔
獣に混ぜこんでいた。まだ息があった兵士らが、魔獣の獣から悲痛
な声を上げる。
「シュナイザー、おまえは見てはいけない」
 エスカイザはそう言ってシュウを自分のマントの中に隠した。
 フォンシャンは、生気の抜けたような黒い瞳で、三頭の竜を見つ
めていた。その手から魔法で描き出された剣が抜け落ちて消えた。
その体から、何かオーラのような物が立ち昇る。
「許せ、ない……」
 フォンシャンの口からポツリと言葉が落ちた。同時に首輪の宝石
が砕け散った。
 砕けだ宝石は炎を上げて地上に落ち、燃え上がった。
 フォンシャンは額に手を当てて、その場に膝を折った。
「うぁ……うわああああああああああああ!」
 フォンシャンが、怒りのこもった叫び声を上げた。その背中から
は血にまみれた羽が生え出る。砕けた宝石から何か煙のような物が
産まれて、フォンシャンを包み込んだ。
 しばらくして、フォンシャンの体が大地に倒れた。
「フォンシャン!」
 シュウは叫んでエスカイザの手を振りほどいて地上に降り立ち、
フォンシャンを抱き起こした。だが、フォンシャンの顔色は蒼白で
あり、息もしていないかのように思われた。
「その男の始末は、後ですることにしよう」
 どこかできたような声が聞こえてきた。
「カルティア!」
 シュウは声の主を見て叫んだ。
「小娘、この間は余計な真似をしたな。あの時私の邪魔をしなけれ
ば、今目の前の状況はなかったかも知れんな」
 あくまでも冷静に、そして冷ややかにカルティアは言った。
「だからと言って……」
 シュウはそこで言葉を失った。何も言い返すことができなかった
のだ。カルティアの言うことは、間違ってると言いきれなかった。
 あの時フォンシャンを呼び戻さなければ、カルティアはすぐにで
もエフローデ公を倒しに行っていたであろう。そうすれば、目の前
の悲惨な状況が繰り広げられることはなかったのかもしれない。
「悪いが、これ以上許しておくわけにはいかんな」
 カルティアはそう言うなり、翼を大きく広げた。


 カルティアの姿を見て、エフローデ公は「ほぅ」と感嘆の声を上
げた。
「あれが噂に聞く銀の死神とな」
 エフローデ公はそう言うなり、魔獣ラオルの手綱を引いた。ラオ
ルは上昇し、エフローデ領へと引っ込む。カルティアはそれを気に
止めず、眼下の見難い三頭の竜を見つめていた。
 ふと、三つの頭のうち、一つの頭がカルティアに向かって伸びた。
「貴様ああああああ……」
 近くで見ると、その頭の額の部分には醜く歪んだトランザ伯の顔
があった。
 カルティアは、向かってくるトランザ伯の頭を避ける。
「ほぅ、あの時の愚か者か。生きていたとは、感心する」
 カルティアはトランザ伯の顔を見下す。
「しかし、無様だな。人間同士の争いで、捨て駒にされてしまったか」
「だ、黙れ、黙れええぇ」
 トランザ伯の怒りと共に、左右の竜の頭が反応したかのように首
をもたげた。そして、辺りの奇怪な獣を食らい始める。
「食って他の者の力を取り入れようとするのか? おろかな。この
星を統べる力を授かっている私に勝てるはずがなかろう」
 カルティアは少し楽しそうに言った。そして、手の中に銀の大鎌
を生み出した。
「食うものがなくなったら、どうするのだ、お前は」
 カルティアは銀の大鎌を回転させ、地上に放った。
 大鎌は地面に付き刺さるのと同時に、周囲に強烈な波動を生じさ
せた。
 カルティア自身が面白がっているのか、先日のように一気に滅ぼ
すことはしなかったようだが――トランザと竜の回りには、くすぶっ
た大地が広がった。
「貴様! その程度で私が屈すると思っているのか!」
 トランザはそう叫んだ。カルティアは方眉を吊り上げてトランザ
を見下したような目線を送った。
「屈する、と言う言葉はお前が使うべき言葉ではない。とは言って
も、それさえも理解できぬようだが」
 カルティアは、トランザの両側から襲いくる竜の頭を大鎌の柄で
軽くあしらうと、トランザ伯の目の前で動きを止めた。
「その命、この星にも要らぬようだ。知っているか、星にも気に入
られぬ者は再生の余地なく消滅するのだ」
 大地に突き刺さった大鎌が、再びカルティアの手の中に戻ってきた。
 トランザは血走った瞳でカルティアを睨んでいた。だが、その瞳
から正気が消えていた。
 ふと、あざ笑うカルティアの表情を、赤黒いものがさらった。
カルティアが居た場所を、滑りのある鱗が擦り抜けて行った。一瞬
の出来事ではあったが、食われたと誰しもの頭に浮かんだかも知れ
ない。
 してやったり、とトランザの狂ったような笑い声が大地を揺るが
した。


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