２ ゴメンなさい、責任持ちます。 ７ 翌朝。フォンシャンは、一人シュウの部屋で目を覚ました。時計 を見ると、時刻はすでに１１時を回っている。 「シュウってば、放置ですか」 全裸でベッドを抜け出し、フォンシャンは大あくび。携帯卵話を 目で探す。ベッド横のサイドテーブルに置かれていた。卵話の下に は、綺麗にたたまれたアークの制服がある。 フォンシャンは、卵話を手にとった。その下から、紙切れが一枚 出てきた。 “ありがとう” たった一言だけ、書かれていた。 ファンシャンは舌打ちをし、驚くべき速さで制服を着ると、卵話 を手にとった。卵話が赤く輝き、その数秒後、ボイスの声が聞こえ てきた。 「あなたがレッドコールで呼びだすとは珍しい……いや、これが初 めてですか」 「ボイス、報告だ」 「あなたからの報告ですか。ろくなものではありませんね。それと も、終了報告が遅くなったごまかしですか」 「……俺の日頃の行いが悪いのは謝るよ」 フォンシャンはそう言って、窓から飛び降りた。途中で城壁に足 をつけ、跳躍する。前庭をいとも簡単に飛び越え、城の門の前に飛 び降りた。そして、驚き顔の門兵を睨みつけ、言った。 「シュナイザー殿一行は何時出立した！！」 「え、あ、はい、朝方５時、６時くらいにエスカイザ様らと」 「馬、一頭借りるぞ」 フォンシャンは近くにいた数頭の馬の中の一頭にまたがる。馬の 速さは卵話が追いつける速さではある。 「で、ボイス。たぶん知っているとは思うけれど、小規模反乱軍が、 ラスタ伯の正規軍と合流してトランザ伯にしかけるらしい―― 戦争をね」 少し、間があった。 「そうなっては我々が介入すべきではない。それはわかっているだ ろう」 「わかってる。けどさぁ……」 フォンシャンは混みあう町中を抜け、馬を早めた。 「まだなんとかなるんじゃないかな、と思って」 「無理ですね。きみがエフローデ公一派全てを暗殺すると言うのな ら話は別ですが――フォンシャン、きみは人を殺すのに慣れていな いのでは？」 「そうは言われても……俺の奥さん強気だから、どうしても守りた い」 「結婚、していないでしょう」 「う……」 「約束したわけでもなしに」 「うう……たまには応援してくれたっていいじゃないか」 フォンシャンは頬を膨らませると、馬を跳躍させ、小川を飛び越 えた。 「そう言えば、ボイスって名前なんだっけ」 「グレン・マクレイアですよ。いい加減男の名前をすぐ忘れる癖を どうにかしてください。で、休暇が欲しいんですか」 「へ？」 フォンシャンは間抜けな返事を返し、馬の速度を緩めた。 「休暇が欲しいのでしょう。きみが人の名前を呼んでかわいらしく 我がまま言うのはわかっています。三日ならコールをしないように しましょう。ただし、レッドコールはとること」 「三日ね……口説くには十分かなぁ」 「無理ですね。せいぜい無駄なあがきをすることですね」 「ああ、ひどい。俺ってそんなにモテない顔してるわけ？」 手綱を握りしめて、切なそうにため息をついた。 「いや、私の目から見てもきみは女うけがいいことは確かだが―― 下心を見せすぎだ」 ボイスはそう言ってため息をついた。向こう側から、ギシリと椅 子の軋む音が聞こえた。少しくつろいでいるのかも知れない。 「私に無駄な気を使わせないでください。戦争になれば、アークの 連中を近くから退かせなければいけないんですから。神託が示され ない今となっては、アークはただ小さな仕事を信念のままこなすし かないんですから」 「神託、ね……」 フォンシャンは馬のタテガミに顔を埋めた。 「俺が悪いのはわかってるんだけどね……あの神託だけは許せない な」 「きみがそう言うのも分からなくはない。神託が下ったとき、大陸 の半分がふっ飛ぶと。私が生きた時代に神託が下ったことはなかっ たが――だが、なぜきみが悪いと言うのだ？」 また、椅子の軋む音がした。卵話に少し近づいたのが、声の大小 で良く分かる。 「ん……ああ、ごめん。違うことを考えてたや。とりあえず休暇申 請しておいて。三日でもいいから。もう切るね。悪いね、プライベ ートタイムにレッドコールかけて」 「珍しく下手に出ていますね、フォンシャン。では、良い休暇を」 ボイスはそう言って卵話を切った。フォンシャンは手元に戻って きた卵話を掴み、制服の内ポケットに捻りこんだ。馬はすでに町を 抜け、森を走っていた。 |