2 ゴメンなさい、責任持ちます。 6


 ガチャリ、と音がしてシュウの部屋の扉が開いた。シュウが戻っ
てきた様だ。
「シュナイザー様」
 エスカイザの声がした。
「大丈夫です、この者と話さなければならないことがあるのです。
この場はお下がりいただけますか」
 シュウはそう言って、部屋の扉を閉めた。部屋の中は明かりを一
つもつけてはおらず、窓から指し込む光りだけで部屋の中を歩かな
くてはいけなかった。
 シュウがすぐ近くにあるろうそくに灯をつけ、電灯のスイッチを
入れる。途端に法力が供給され、部屋の中が明るくなった。
 落ち着いた明かりの中で、シュウは部屋の中に目を走らせる。フォ
ンシャンは、ソファーの上でクッションを抱きしめて寝ていた。
 シュウはぐっすり眠り込んでいるフォンシャンに近付いてゆき、
顔を覗きこんだ。口を小さく開けて、少々間抜けに見える。
 シュウが見つめている間に、フォンシャンは寝返りを半分だけうっ
て仰向けになった。だらしなく開いた制服とワイシャツの隙間から、
あの怪しげな首輪が顔を覗かせていた。
「趣味、悪い……」
 シュウはボソリとつぶやき、フォンシャンの首輪に触れる。どう
見ても犬の首輪だ。そこからぶら下がっている宝石はかなり高価な
ものと見えるが、フォンシャンがしていることによってかなり安っ
ぽく見える。
「アークの給料は、そんなにいいものなのか?」
「んんっ……安いよ、危険度を考えれば」
 フォンシャンがそう答えて目を開けた。起き上がってシュウに手
を指しだす。
「携帯卵話、返して。ボイスから連絡あったでしょ」
「いや、なかったが」
「うそっ、ああ、俺以外が持つと自動封印されちゃうんだった。そ
れだけでも解くから返して」
 シュウは制服の懐に手をやり、ふとフォンシャンを睨んだ。
「そうやって、逃げるつもりですね」
 フォンシャンは伸ばした手を引っ込めた。
「ばれたか。でもね、シュウがいくら俺にねだってもだめだよ。俺
は手伝えない」
「それはわかっています。貴方はアークに縛られている。そこまで
縛られていなければならないものなのですか?」
 シュウは言いながらフォンシャンから離れた。そして、戸棚にし
まわれているワイン一本とグラスを2つ持ってきた。グラスの一つ
をフォンシャンに渡し、もう一つのグラスの中身をさっさと口にす
る。
 フォンシャンはワインの香りを楽しんだ後、一口飲む。その後、
一気にノドの奥までワインを流し込んだ。
「別に、縛られているわけではないよ……これ、かなり酔うね」
「そうですか? 気に入って飲んでいるからそんなには……」
 シュウは、フォンシャンの酔いの回り様に、一瞬ひいた。トロン
とした目は子犬のようで、クッションを抱きしめて一人ニコニコ笑
う様子は、とてもかわいい。
「フォンシャン?」
「なに、シュウ。美味しいね、これ。もう一杯」
 フォンシャンはシュウの手からワインのビンを奪うと、勝手に注
いで飲み干す。
「フォンシャン! ごまかさないでください」
「なぁに、俺の奥さーん。こっち来て一緒に飲もうよぅ」
 フォンシャンはシュウを引き寄せてソファーの隣りに座らせる。
カチンとグラスを合わせて、ワインを飲む。
「奥さんって! 誰のですかっ」
 シュウは顔を引きつらせながら怒鳴った。
「だから、俺の」
 フォンシャンはシュウの肩をだき、その胸元に頭を寄りかからせ
る。焦るシュウ。
「フォンシャン? 貴方って人は」
「ごめん」
 フォンシャンは目を見開くと、シュウから飛び退いた。その手に
は卵話が握られている。フォンシャンは窓辺までゆっくりと後退し
てゆく。シグルがフォンシャンの肩にとまった。その次の瞬間、フォ
ンシャンは窓を開け放ち、そこから身を投げた。
「フォンシャン!」
 慌ててシュウは窓辺に駆け寄った。
 窓の下に、真っ白い翼が広がった。それはシグルと思われる大き
な鳥の影。
「なっ」
 シュウは眼下の状態に、驚きを現すものの、何かを決意したかの
ような表情を浮かべた。何を思ったのか、シュウは窓辺に足をかけ
ると――飛び出した。

 フォンシャンは、ヒュッ、と言う上から聞こえてくる風の音と、
自分の名を怒鳴る声に上を向いた。途端に、シュウが飛びこんでき
た。
「うはぁっ」
 フォンシャンは慌てて手を伸ばしてシュウを抱きとめる。
「シュウちゃんっ!? 何考えてるのっ」
「貴方ならきっと受け止めてくれると思っていました」
「その変な自信は何?」
「わかりません」
 シュウは言い切ってフォンシャンにしがみついた。体が細かく震
えているところを見ると、やらなきゃ良かったと後悔している様子
である。
「どうしてそう俺に固執しちゃってるの? 俺がアークだって知っ
ちゃったから?」
「わかりません。貴方はこの領内の者ではないから、関係ないとは
思うけど」
 フォンシャンは城の前庭に降り立ち、シュウを地面に降ろした。
「たぶん、戦争などは関係なく、私は貴方に興味があるのかも知れ
ません」
「んーもしかして惚れられた?」
 フォンシャンは、シュウに睨まれた。
「それとは少し違うかと思います。貴方は私をただの飾りとしては
見ていないようです。そこが他の者と違うのです。感の良い者は私
がすでに女であると気づいているはずです。ですが、私をラスタ伯
の実子と知って他の娘とは明らかに違う目で見ていました」
 シュウはフォンシャンから目線を外し、小さくなったシグルを招
き寄せた。シグルはシュウの手に止まり、肩へと移動して頬と頬を
すり寄せる。
「一瞬、貴方が天使なのかと思いました」
「え、ええ?」
 照れと焦りが含まれた、複雑な表情をするフォンシャン。シュウ
は自分の肩に目をやり、言った。
「聖鳥シグルです。巨大化できると聞いていましたが、本当なので
すね。それに、人に懐くことがないと聞いていたのですが」
 シュウはシグルの頭を軽く撫で、微笑む。
「そう? なんか、ずっとついて来るんだよね、シグル」
 フォンシャンは木の下に設置されているベンチに座った。城から
こぼれる光りに、フォンシャンの首輪の宝石が時折光りを反射する。
「それに、その宝石。なにか普通の宝石とは違う気がするのです
が……」
 シュウが伸ばした手を、フォンシャンは振り払った。
「これには触れてはいけないよ」
 フォンシャンの態度に、シュウは悲しそうな表情を浮かべた。
「やはり、誰か大切な方からいただいたものなのですね。アークと
して働いて入れば、それなりに貴族のお嬢様とお知り合いになるこ
ともあるでしょうし」
 シュウはそっぽを向いて歩き出す。
「あれれぇ? もしかして妬いてるのぉ?」
 ベンチから立ち上がり、少し嬉しそうにフォンシャンが言った。
シュウは振りかえりもせずに「違います」と言い切る。そのまま城
の庭を歩き始めた。フォンシャンは、シュウの隣りを歩幅を合わせ
て歩く。
「明日、元反乱軍が正規軍らと共にトランザ伯の領境まで出陣し、
近くの野原に陣を構えるつもりです」
 唐突に、シュウが言った。
「ずいぶんと急な展開だね」
「前々から国境近くの村には反乱軍が潜んでいました。そこはマー
クされてしまい、今回私が捕まってしまったわけですが――他の国
境近くの町に補給元を置き、今度はそこを拠点に、活動してゆくつ
もりです。もしかすると、貴方にお会いするのも、今日で最後にな
るかもしれませんね」
 シュウはそう言って、笑った。だが、その笑顔が少し寂しそうに
見えた。
「シュウ……」
「シュナ、とお呼びください、今日だけは――ここは少し寒い……
部屋に戻りませんか? その、もうお引き止めはしませんが」
 シュウは目を伏せ、フォンシャンの胸元に頭を軽く打ちつけた。
フォンシャンは、シュウを包み込むようにして一度抱きしめると、
城の中へと向けて歩き始めた。

 再びシュウの部屋へと戻ってしまうフォンシャン。シュウは自分
のベッドに寝転び、あくびを一つする。
「明日、早いんじゃないの?」
 フォンシャンの問いかけに、シュウは目をつぶったまま答えた。
「ええ、まぁ……でも、わがままが言えるのも今日で最後ですから。
父上も私を信用してくださっている。必ずエフロード公やトランザ
伯の領民を解放します……貴方は遠くから私を見ていてくれればい
い」
 シュウは上半身だけを起して軍服を脱いだ。次いで、下に着てい
るワイシャツを脱ごうとして、ためらった。
「今日、泊まってゆかれますか? この時間になると、宿をとるの
も億劫でしょうし、またあのログハウスに戻るのも大変でしょう?」
 シュウは言いながら、立ち上がり、フォンシャンの制服を脱がせ
た。
「まぁね。じゃあ、ソファー借りていい? 以外と寝心地よさそう
なんだよね」
 フォンシャンは少し遠慮がちに言う。
「別に、共のベッドでも良いのではないのですか? 二日ほど一緒
に寝た仲だと言うのに」
 シュウはクスクスと笑い声をこぼす。ここに来て、フォンシャン
が焦って遠慮している姿が面白いのだろう。
「誰も来ませんよ。来ても鍵をかけてしまっています。例え貴方が
全裸で起きても、服を着る時間はあると思います」
 シュウはフォンシャンをいじめるのが楽しくなってきたのか、次
々にフォンシャンを困らせることを言う。フォンシャンも段々
と自分が遊ばれているのに気づいた様子で、シュウを軽く睨んだ。
「シュウ……いんや、シュナちゃん。もしかして、俺のこと誘って
くれちゃってるわけ?」
 フォンシャンは、いつものスケベな笑いを口元に浮かべた。唐突
にシュウをベッドに押し倒したかと思うと、唇と唇を触れ合わせた
だけの軽いキスをする。
「シュナ。絶対、俺の所に帰って来い」
「え……どう言う意味?」
 シュウの疑問に答えることなく、フォンシャンは唇をふさいだ。
「俺が見守っていてやる」
「でも、貴方はアークの……」
 シュウが最後まで言いきるよりも前に、フォンシャンは再び唇を
ふさぐ。シュウはそれ以上問いかけることはしなかった。



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