2 ゴメンなさい、責任持ちます。 5


「エスカイザ様」
 シュウは黒の中に混じる群青の群れを見て、声をかけた。同じ色
の軍服の中の一人が振りかえる。先ほど会ったエスカイザだった。
「まだお時間は有られますか?」
「ええ、十分ほどはございますが」
 エスカイザはそう答えて姿勢を正す。
「それでは少しお願いがあるのですが」
「なんなりと、シュナイザー様」
「この男を私の部屋に封印しておいて欲しい」
「はぁっ?」
 この間抜けな声はフォンシャンのものだ。
「なにかしでかしましたか、この男」
「後で話があると言うのに、任務を放棄して逃げようとしているの
です」
「それは、いけませんね」
 エスカイザはフォンシャンを睨みつけると、近くに居た自分の護
衛に言った。
「この男を封じておけ」
「できれば、魔法を封じる印を三重にしておいてくれるとありがた
い。なにせこの男、数少ない高位魔術師だから」
 シュウの言葉を聞いて、エスカイザは片方の眉を吊り上げた。
「ちょっツ……」
 フォンシャンは焦りまくる。卵話を置いていっても問題があるし、
その上幽閉されるとなると……
「なに、パレードが終わるまでだ。いいか、私の部屋に特別に立ち
入る許可をやる。それでは頼んだ、エスカイザ様」
「地下牢でなくていいのですか?」
 エスカイザはいぶかしげにシュウを見る。
「一応、彼は私の客人でもあるからな」
 シュウは客人、と言う部分を強く言った。
「承知した。シュナイザー様は早く車にお乗りください。そろそろ
出ますよ」
 エスカイザは、シュウを華やかに飾られた馬車へと導く。馬車は
天井部分に人が乗れるようになっており、シュウはそこに護衛と共
に座る。
「なに、一時間もすれば戻る。おとなしく待っていろ」
 シュウはフォンシャンに笑みを向けると、馬車を走らせるように
と指示を出した。
「シュウウウウ……ナイザーさまぁ」
 フォンシャンは半分泣きながらシュウに手を伸ばすが――虚しく
空を切り、そのままエスカイザの護衛兵に引きずられて行った。

 フォンシャンはポイッ、と部屋に投げ込まれた。静かに扉を閉め
られ、すぐに部屋の外から魔術を呟く声が聞こえてくる。
 フォンシャンは困ったように頭を抱えると、近くの椅子に座りこ
んだ。
「またボイスにどやされる……いや、今度は半殺しかな。下手する
と殺されるな」
 椅子から立ちあがり、部屋の中をうろうろとする。
「窓から……」
 フォンシャンは窓辺に寄り、窓を開けて下を見る。
「たかっ」
 おおよそ20メートル前後はある高さに、フォンシャンは身を乗
りだしていた。その高さに、思わず部屋の中に引っ込む。
「どの道死んじゃうって、ここから飛び降りたら。ん、でも……町
の様子が良く見える」
 フォンシャンが少し遠くに目をやると、マーチング隊を先頭に、
幾つかの馬車や騎馬隊が見える。
「あーもう。ボイスにどうって連絡とろう。連絡遅くなると遅くなっ
たぶんだけうるさいからなぁ」
 フォンシャンは諦めた様子で、部屋の中を見回した。
 シュウの部屋の中は、淡い水色で統一されており、家具類は全て
白を貴重とした物が置かれていた。暖炉の上のスペースには、幾つ
かの写真が飾られている。一つは最近撮られたものなのだろう。シュ
ウが父ラスタ伯と共に軍の正装で写っている。他にもシュウ一人の
物や、女性の物が見られる。
「シュウにそっくりだけど……たぶん母親かな。美人……」
 写真を見つめていたフォンシャンの手が一瞬止まる。窓からコツ
コツという音が響いたからだ。
「シグル……」
 窓辺に、いつのまにかシグルがとまっていた。小さく鳴いて、部
屋の中に入ってくる。どうやら外部から入ってくることはできるよ
うだ。
「まいったなぁ。無理やり封印解除する方法もあるんだけど、爆発
しちゃうからね……それはマズイよね」
 フォンシャンは、シグルに指を伸ばす。シグルは導かれるままに
フォンシャンの手にとまる。
「もしかして、シグルに惚れられてんのかな、俺」
 フォンシャンは照れたような表情を作ると、シグルの頭を優しく
掻いていやった。
「たまには両思いになってみたいよ。お前は巣を放置しておいてい
いのか?」
「クルルル……」
 シグルはフォンシャンの言うことがわかっているのか、いないの
か、首をかしげた。フォンシャンはシグルを放つと、窓辺に座りこ
んだ。
 パレードは次々と町の中央の広場に集まり、円形状に形を整えて
いた。どうやら中央広場でラスタ伯は声明を出すのだろう。
 ふと、町のざわめきが聞こえてきた。ラスタ伯の言葉を広く聞か
せるために、音声拡張魔術でも施したのだろう。
“我々は今、危機にさらされ始めている。各国が戦いを起そうと動
きを始め、今その矛先は我々にも向けられている。こちらから手を
下すのはいささか心苦しいが、それも仕方あるまい――ここにいる
フリューザ公と共に、今日、我々は自らの平和と安全を保持するた
めに、立ちあがる!!”
「ああ、やっぱり戦争なのね……」
 フォンシャンは、ラスタ伯の言葉にため息をつくしかなかった。
“反乱軍として働いている物達にも告ぐ。君達は我々の正規軍の一
人として力を貸して欲しい。君達の指揮はこの我が子シュナイザー
に任せる。”
「って、えぇっ!?」
 フォンシャンは思わず窓辺から見を乗り出し、封印に弾かれて部
屋の中に転がった。
「いてぇ……くそっ、ラスタ伯はバカかっ。わざわざ自分の子を危
ない目に! アークが一回手を出したからって、次も助けるとは限
んないんだぞ」
 フォンシャンは吐き捨てると、起き上がって部屋の中を歩き回る。
シグルが不安そうに首を傾げて鳴く。
「たぶん、もうアークにも連絡入っちゃってるんだろうな……」
 諦めた様子で、フォンシャンは近くのソファーに寝転がった。音
声拡張魔術が雑音を運んできていたが、そんなことはお構いなしで
フォンシャンは目をつぶった。民衆の歓声が多すぎて、後は何を言
っているかわからなかった。
 転移魔法陣を何度も書いたせいだろう、フォンシャンはそのまま
眠りについていった。



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