2 ゴメンなさい、責任持ちます。 4


 シュウはフォンシャンの姿を探した。だが、黒い軍服は領内の軍
人のものとそっくりで、なかなか見分けがつかない。
「もう転移魔法を使ってどこかへ行ってしまったのか……フォンシャ
ン!!」
 シュウは金髪頭を見つけて、怒鳴った。金髪の男はぎょっとして
振りかえった。フォンシャン、だった。すでに制服の前は開いてお
り、羽織る程度だった。ついでに、ワイシャツのボタンを外そうと
している。
「しゅ、シュウ……どったの?」
 慌ててボタンを閉め直すフォンシャンの胸倉を掴み、廊下の片隅
にある小さな部屋の扉に連れ込んだ。乱暴に手を離し、シュウはフォ
ンシャンを睨みつける。
「後ほど、話をすると言いましたよね。逃げるなんて卑怯です」
「えっ? ってか、ものすごく誤解してない?」
 フォンシャンは焦ったように言い、シュウに落ち着くように言う。
「誤解って!」
「たぶんシュウが気にしているような性的関係はないよ。寝ている
相手にする人じゃないもん。ボイスが来て、彼も誤解しているんだっ
たら、抱いておけば良かったなーなんて」
「で、でもっ、きききき……」
「猿?」
「違う!」
 シュウは再びフォンシャンの胸倉を掴んでいた。
「キス?」
 シュウは何度もうなずく。
「んーでも、キスって挨拶みたいなものじゃないの? ってか、シュ
ウちゃん、馬乗りしないで……お尻の柔らかいのが」
 ボコッ
 シュウは側頭部をぶん殴っていた。
「ご魔化すな。キスって……ばかっ」
 シュウが真っ赤になる。フォンシャンはシュウを抱き寄せ、耳元
で囁く。
「別に、キス以上でも良いんだけどね、俺は」
 フォンシャンは言いながら……キスをかます。
「やだ、やめなさいっ」
「やだ」
 フォンシャンはシュウの軍服を脱がせ始める。
  「やめなさいってば!」
「だあからーやだってば」
 フォンシャンはシュウの首筋に唇を押し当て、軽く吸いつく。そ
のまま体制を入れ替えてことを進めようとする。
「……泣きそう?」
 シュウの目ににじむ涙を見て、フォンシャンはそう呟いた。シュ
ウが「違う」と言いながら首を横に振った途端、涙がこぼれ落ちた。
 ガッタン、と大きな音を立ててフォンシャンは飛び退いた。
「ご、ごめん。無理強いは良くないよね。ま、俺なんかより、さっ
きのエスカイザさんの方がシュウには似合ってると思うよ。じゃ、
俺はこれで仕事終わりだから帰るね」
「ま、待って……私をあげます。だから、我が軍に力を貸してくだ
さい」
 フォンシャンは目を丸くしていた。
「えと……あのね、俺はそう言う仕事はしないし、ましてや女性を
物としてもらう気はないの」
「無理やり奪おうとしたのに、ですか。その上私の裸を見た。その
上に、全裸で一緒のベッドに入ったのにですか。このことをすぐ父
上に報告します」
 シュウは着衣を素早く直すと、フォンシャンを押し退けて部屋の
外に出ようとした。フォンシャンは、シュウの肩を掴んで、部屋の
中へと引き戻す。
「ま、待って! 本気で待って! そんなことしたら、俺、ボイス
に半殺しにされちゃう……それに、ボイスもそんな仕事許してくれ
ないよ? 俺が所属している所は、絶対中立だから……申し訳ない
けど、俺もそれには従わなきゃいけない」
 フォンシャンはいつものふざけた笑みを消し、言った。
「そりゃ、俺もシュウのことは好きだよ。でもね、戦争に荷担する
のだけはしたくない。俺とシュウの立場は違うんだ。シュウは領の
民を守らなきゃいけない。けれど、俺は全ての民を守らなきゃいけ
ないんだ。そのために……」
「アークがある。知っています、貴方が入っているギルドの事は。
いつから、またどこにあるか詳しいことは一切秘密にされています
が、貴族間や貴族と民間との間のもめごとの火種を取り除く仕事を
していると聞きます。そんな益にならないことをする必要があるの
か、良くわかりませんが……」
  フォンシャンは近くの木箱の上に座った。頭を抱えてポツリポ
ツリと話を始める。
「そう、だよ。エフローデ公が軍事力をつけてきていたのは知って
いたよ、ずいぶん前からね。その火種を消すことができなかったの
は、アークの一人として凄く嘆かわしいことだけれどね、もう手を
引かなきゃいけないんだ。戦争になってしまったら。アークはそん
なに強くないし、人数も少ない。今回も何故シュウを助けるように
働いたと思う?」
 フォンシャンは目を細め、視線をシュウに投げかけた。
「それは……私が貴族だからですか?」
 シュウはそう言って立ち尽くした。
「違う。シュウでなくても、領内の他の娘や、反乱軍の主要ポスト
の誰かであれば、アークは動いた。それが引金となって戦争が起こ
らないようにするために。けれど、もう遅かったようだし……エフ
ローデ公を暗殺しようと動いたこともあったが、もう彼一人を殺し
たところで殺気だった領内を沈めることは、もう不可能だ」
「だ、だから、私の側についてくだされば、無用な戦いを最小限で
とどめることもできるはずです!」
 少し熱の入るシュウを、フォンシャンは優しく引き寄せた。
「今の段階では、エフローデ公一派を殺害するのに、どれだけの民
が巻き込まれると思う? シュウが繰り広げてきた反乱軍程度の少
数人数で事が済むんだったら、戦いは起きていない。ラスタ伯がな
にを思って娘に好き放題させてきたかはわからないけど――まぁ、
確かに彼も他の領民まで気遣うとは良い人だよね。その考えにつき
合う反乱軍も、良い人達だと思うよ? 半分以上はエフローデ公か
トランザ伯の領民だとは思うから、自分の領内を良くしようとがん
ばっているんだから」
 パシッ、と良い音がして、フォンシャンはシュウに頬を打たれて
いた。
「ひどい! 貴方がそんな人だなんて思っていなかった! そりゃ、
スケベでどうしようもなくふしだらだとは思っていたけれど」
「あぅ、ふしだら……」
 フォンシャンは妙なところで落ち込み、ため息をついた。
「いいよ、シュウが俺を嫌ってくれるなら、その方が楽だし。こう
言うときだけ、惚れっぽい性格をうらむよ」
 フォンシャンはシュウにもう一度だけ唇を合わせると、立ち上
がって部屋を出て行った。
「待ちなさい!」
 シュウは慌てて後を追う。すぐにでも追いつかなくては、フォン
シャンは魔法陣を描いて転移してしまうだろう。
 シュウはフォンシャンの腕を掴み、壁に叩きつけると、唇を奪っ
た。目を丸くするフォンシャンの軍服の隙間から内ポケットに手を
滑らせると、そこから携帯卵話を抜き取る。
「ちょっつ、シュウちゃん!! それは盗ったらマズイよぉ」
 フォンシャンは少し焦ったようにシュウの後を追いかける。シュ
ウは卵話を自分の胸元にしまいこむと、早歩きでどこかへと去って
ゆく。
「なぁぁぁっ」
 フォンシャンは奇妙な声をあげてシュウに追いすがるが――シュ
ウはフォンシャンの手をスルリとかわす。城内警護の兵士が、シュ
ウとフォンシャンの奇妙な追いかけっこに不信そうな表情を示し、
フォンシャンをとめた。
「シュナイザー様、この輩、どういたしましたか?」
 ジタバタと暴れるフォンシャンを少し見つめた後、シュウは再び
歩き出した。
「エスカイザ様はどこだ?」
「はっ、パレード参加のため、城前庭で待機していると思われます
が、シュナイザー閣下もお急ぎになられたほうが」
「わかった。その男は放置しておいて良い。特に城に危害を与える
者ではないから。そんな度胸はない」
 シュウはそう言い捨てると、前庭へと足を向けた。
「シュウ!!」
 フォンシャンは困ったようにシュウの後を追いかけるしかなかっ
た。



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