2 ゴメンなさい、責任持ちます。 3


 シュウは店の中に入ってゆき、フォンシャンもその後について行
く。
 店の中はとても綺麗で、燕尾服や軍服じみたものが飾られている。
「俺、ここ苦手」
 フォンシャンは愚痴をこぼすが、シュウは気にもとめずに服を選
んでいる。そのうちの一着を選ぶと、フィッテイングルームへと入
りこんだ。
 再びでてきたときには、黒の軍用礼服を着ていた。
「もしもぉし、シュウちゃぁん? それって、どう見ても軍服?」
「そうですが。ここには私の服を常に数着作らせてありますので」
「そう言うことじゃなくて」
(やぱりドレスはだめですか……せっかくのパレードなのに)
 フォンシャンは切なそうなため息をつくと、近くの鏡を見て、自
分も制服を正しく着る。次いでに髪の広がりを気にして撫でつける
ように触る。
「行くぞ」
 鏡の後ろを通りすぎ、シュウが言った。
「あ、はーい」
 フォンシャンは返事をして振りかえった。早足で店を出て行く
シュウを慌てて追いかける。
 街中を早足で歩きながらシュウが言った。
「もう一度だけ跳んではくれないか? ここから先の道は多分混む。
下手をすれば通行止めになる。先ほどの話、少し聞かせてもらった。
父上が民衆の前に立つのだろう?」
「ああ、半分起きてたのねぇ。だから、そのためのパレードってや
つに間に合わないといけないらしいんだけど――城内に跳べるの?」
「たぶん。普段は防御されているんだが、今日は多分外されている
だろう。同じ領内の貴族を魔法陣を通じて呼び寄せているはずだか
ら」
 シュウは言いながら路地裏へと進んで行く。
「ちなみに、ここから城内まで距離はどのくらい? 正確な位置が
わかると面倒な計算しなくていいんだけど」
「そうだな、北西800メートルぐらいだ」
「了解、お嬢様」
 フォンシャンは礼儀正しくお辞儀をすると、していた白手袋を外
して空中に魔法陣を書く。座標設定をしてから、シュウに振りかえ
り、魔法陣の中へと招き入れる。
「どうぞ、お嬢様」
「お嬢様はやめてください。民は全て私のことを男と認めています。
父上もまた私を男として育てた。以後、私をそのような目で見ない
ことだ」
「ええー。こんなに美人なのにー」
 フォンシャンがそう言った途端に、シュウにキツク睨まれた。
「しかも、バレバレ。女の子の匂いがするもん……」
「そこの所がよくわからんな。全て男物を使っていると言うのに」
「ああ、そんな無駄な努力をして」
 フォンシャンはため息をつき、シュウに手を取った。
「こんな美人に民衆がついてこないわけないと思うんだけど」
 ブツブツ言うフォンシャンンの背に、シュウの正拳突ぎが刺さっ
た。
「しつこい」
「はぅぁっ……以外と手きびしいのねっ、シュウってば。目を治す
んじゃなかったなぁ」
「なんか言いました?」
「なんでもございません、シュナイザー殿」
 フォンシャンはがっくりと肩を落とす。
「それでよろしい」
 シュウは城の中庭を突っ切っていった。ちなみにフォンシャンが
転移した先は城の中庭だった。
 フォンシャンは城の中をシュウについて歩いてゆく。城の中は何
か騒がしく、どの人物も忙しく動いている。
「このまま父上に会いに行く」
「あ、そう。会ったらすぐに帰って良い?」
 シュウはフォンシャンの問いには答えず、ただ無言で歩きつづけ
る。
「礼は父から貰うのだろう。後は勝手にするがいい――人の大事な
ものを奪っておきながら」
 シュウは詰めたく言い残し、歩く速度を早めた。
「はひっ? 大事なものって?」
「……それについては後だ、後」
 シュウは一瞬顔を赤らめてうつむくが、再び早足で歩く。中庭を
過ぎ、中に入りこんだ所で、正装をした一人の男と会った。明らか
に他の兵らとは別格であり、着ている物もこの領内の軍服ではない。
黒の剣先襟がこの領の軍服だったようだが、青年が着ているのは群
青の剣先襟だった。少し長めのスモーキーカラーの銀髪が着ている
群青色の軍服と良く似合い、顔からは上品さと気高さが感じられる。
「シュナイザー様」
 青年はそう言ってシュウを呼びとめた。シュウは振りかえり、軽
く礼をした。フォンシャンもなんとなくシュウに習って頭をさげる。
「これはフリューザ公。父上にもう挨拶なさったのですか?」
「ええ、先ほど面会室で。まだいらっしゃるとは思いますが……そ
ちらの方は? 服を見る限りこの領内周辺の者とは思えませぬが」
「彼は……父が私の警護の為に頼んだ人物です」
 シュウはフォンシャンに軽く目線を送る。
「フリューザ公、父とはどうのような話をなさったのですか?」
「エスカイザとお呼びください、昔のように」
 青年エスカイザはそう言ってシュウの手を取り、口付けをする。
背後でフォンシャンが口をポッカリと開けて唖然とする。
「ラスタ伯とは軍を共にしてエフローデ公に立ち向かう」
「戦争か」
 エスカイザの言葉に、フォンシャンが口を開いた。エスカイザは
フォンシャンを怪しむように睨んでいたが、ラスタ伯が警護として
つけたからには、それなりの人物であると悟ったのか、答えた。
「そう言うことになるやも知れません。こちらから行動を起こすの
は嫌ですが、早いうちに守備体制に入っていたほうがいいのではな
いか、と言う結論です。反乱軍、等と言う不貞の者達の先頭に立つ
よりもシュナイザー様の身も少しは安全、ですし。では、私も少し
準備がありますので」
 エスカイザは軽く会釈をすると、去って行った。
「あの人は、シュウが女だって知ってるの?」
「エスカイザか。私の幼馴染みだ。フリューザ公の第一子で、我が
父ラスタと友好関係にある一人でもあるし……父上はたぶん……」
 シュウはそう言ってため息をついた。階段を途中まで上った所で
立ち止まった。扉の一つが開き、中から中年の男性が現れたからだ。
明るい茶髪に、顎ひげとなかなか威厳がある。
 シュウは階段を早足でかけあがり、その男の前で礼をした。
「父上、帰りが遅くなりまして、申し訳ありませんでした」
「よい、無事で何よりだ」
 低く重みのある声に、少し温かみがある。しばらく無言で見つめ
あうシュウと、その父シュルツ・ラスタ伯爵。
 ラスタ伯はふと目線を反らし、フォンシャンを見つめた。
「そなたがシュナイザーを救ってくれた者か。若いな……」
「え、あ、まぁ……そんなには若くないですが」
「歳は?」
「えと……わかりません」
「孤児か?」
「そう言うことになりますね」
 フォンシャンはそう言って人懐っこい笑顔を浮かべる。
「何かしてないだろうな」
「いっ……してません、と思います」
 フォンシャンのあいまいな答えに、ラスタ伯が思いっきり睨ん
だ。
「なんだね、そのあいまいな答えは」
「そもそもシュナイザー様は男と聞いておりますが? 私には男同
士でなにかをする趣味はございませんが」
 フォンシャンはそう言って頭をさげた。
「失礼、愚問だったな。中で話をしようか。まだ時間がある」
 ラスタ伯は出てきた扉を開け、中に入る。続いてシュウが入る。
中に入り際に鋭い睨みがフォンシャンの体を貫いた。フォンシャン
は半泣きになりながらも部屋に踏み込んだ。
 部屋の中は赤を貴重とし、シンメトリーに色々なものが設置され
ている。ラスタ伯は上座に座ると、フォンシャンを睨んだ。
「礼は後でさせてもらおう。それで、トランザ伯の城の様子はどん
な様子だった」
「傭兵が多く居たことは確かです。それ以上は……俺――いや私は
傭兵ではないんで。わかりませんが」
 フォンシャンは言いながら、椅子に座る。柔らかいクッションに
座りなれていないのか、一瞬ぎょっとするも、すぐに表情をキリリ
と固める。
「金の送金は例の場所宛に。それでは私はすぐにでも帰ります」
 フォンシャンは一息つくと、向かい側に座っているシュウを見た。
シュウは相変わらずフォンシャンを睨んでいる。フォンシャンはそ
の目線から逃げるようにして立ちあがり、ラスタ伯に深々と頭を下
げて出て行った。
 シュウは出ていったフォンシャンの背中をずっと睨んでいた。
 ラスタ伯は、フォンシャンが出ていった後、言った。
「彼はエンジェルクロイツ、通称アークと呼ばれる秘密結社の一人
でね。最高ランクの魔法術師らしい。ボイスに依頼をした時に、そ
う言っていた。あんなに若いのには驚いたが、アークも我々に力を
貸してくれれば良いものを。そうすれば、無駄な戦いなどしなくと
も良いのに。アークは最高位魔術師を何人か抱えていると言うのだ
が……」
 ラスタ伯はそう言ってシュウを見つめた。
「父上、失礼いたします。パレード開始時刻には必ず戻ります!」
 シュウはそう言うなり、挨拶もせぬまま部屋を跳び出た。



TOP/ NOVELTOP/ NEXT HOME/




本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース