2 ゴメンなさい、責任持ちます。22



 シュウは立ちあがり、扉を開けた。エクサの背後には、エスカイ
ザもその場にいた。
「エスカイザ様」
 シュウがそう言った途端、エスカイザに抱きしめられた。
「貴方が無事で、良かった……」
 エスカイザはそう言ってフォンシャンを睨んだ。
「貴様か、シュナイザーに乱暴を行ったのは」
 フォンシャンは首を傾げた。どうやら髪型が数時間のうちに変わ
ってしまっているので、一度顔を合わせていることが分からなかっ
たようだ。
 エスカイザはフォンシャンの胸倉をつかむと、ベッドから引きず
り出した。そして、拳を頬に叩き込んだ。
 フォンシャンの体は衝撃でよろけて壁にぶつかった。
「エスカイザ!」
 シュウはエスカイザを怒鳴りつけた。
「シュナ? どうしてこの男をかばう」
「この方は私たちラスタを助け、トランザ軍を一人で退けてくださ
ったのです。乱暴されたのではなく、戦場から帰ってきたから多少
衣服が乱れていただけです」
 エスカイザは、エクサを睨んだ。ため息をつくと、フォンシャン
に手を伸ばして起した。
「すまない、勘違いをした。シュナイザーを助けてもらったことは
感謝する――どこかで見たことがある顔だが、どこかでお会いした
か?」
 フォンシャンはエスカイザから顔を反らした。
「いいえ。私は初めてです。昨日、ラスタ軍に参入したばかりです
から。すみません、シュナイザー様には怪我の手当てまでしていた
だいて」
 フォンシャンはそう言って、エスカイザに頭を下げた。その横で
は、シュウが驚いたような表情を浮かべていた。
「……シュナイザー、無事でいるかだけでも私に教えておくれ。こ
れは私と直通する卵話だ。戦場では伝令と離れ離れになるだろう。
これなら私も安心できる」
 エスカイザはそう言ってシュウの手に卵話を握らせた。シュウは
「ありがとう」と呟いて頭を下げた。エスカイザは頬に手を添える。
「礼なぞいらないのです。私は貴方の力になりたいですから」
 エスカイザはそう言って再びシュウを抱きしめる。フォンシャン
はそれを複雑そうな表情で見つめていた。
「それでは、私はこれで失礼する。シュナの無事さえ確認できれば
それでいい」
 エスカイザはそう言って出て行った。
 フォンシャンは窓の外を従者らと歩くエスカイザを見守りながら
言った。
「エスカイザって、シュウに惚れてるんだ。だからじゃないけど、
なんか気に入らない」
 フォンシャンはそう言って不機嫌そうに前髪をかきあげる。
「どうして?」
「シュウを肩書きで好きになってるみたいで――って、俺ヤキモ
チ?」
 フォンシャンはそう言って照れ笑いを浮かべた。シュウは笑いを
こらえていた。
「確かに、エスカイザにはそう思えることもあります。たぶん、父
上から色々言われているのでしょう」
 フォンシャンの表情が、にわかに曇った。
「それって、こんにゃくしゃ?」
 フォンシャン、動揺しているのか語尾がいささかおかしい。
「婚約者、と言いたいのか?」
 シュウの言葉に、フォンシャンがものすごい速さでうなずく。
「そう言う方向にされているのは知っている……」
「がーん」
 フォンシャンは床に座りこんだ。しばらくうなだれていたが、拳
を握ると、言った。
「めげないもんね。いつも一緒に居られるのは俺の方だもん」
「そう言えば――先程ラスタ軍入りしたと聞こえた気がするのです
が」
 シュウのその言葉に、フォンシャンは下唇を噛みしめた。ベッド
の上であぐらをかき、腕組をして目をつぶった。
少し声がかけずらい雰囲気を出すフォンシャン。シュウは恐る恐る
声をかけた。
「フォンシャン?」
 フォンシャンは、シュウを抱き寄せた。
「決めた。シュウが嫌でなければシュウの側にいる。守護天使にな
る」
 折れそうなほどに抱きしめられ、シュウはためらいを見せた後、
抱きしめ返した。
「フォンシャン、痛い……」
 軽く背中を叩き、シュウはそう言った。フォンシャンはゆっくり
と力を抜いた。
「あ、ごめ……」
「それよりも、守護天使って?」
 シュウに面と向かって言われ、フォンシャンはうろたえた。
「えーと、あのね、その――口説き文句……」
 そう言うなり、真っ赤になってうつむいてしまった。そしてコソ
コソとベッドに潜り込んだ。
「フォンシャン?」
 すっかりもぐりこんで、頭さえ見えない布団の山に向かって声を
かけた。だが、返事はない。しばらく経ってシュウはもう一度言っ
た。
「フォンシャン」
 すると、フォンシャンはゴソゴソと動いて方向を変え、目から上
だけを出してシュウを見つめた。
「恥ずかしいから顔見せられない」
「何を子供じみたことを。恥ずかしいのは私の方です! だって、
その、ねぇ……」
 シュウはそう言って頬を膨らませた。
「ずるい。私ばっかり振りまわされてた。たまには反省してくださ
いっ」
 シュウはそう言ったかと思うと、大股で部屋から出て行った。フ
ォンシャンはシュウが出て行った扉をしばらく見ていたが、そのま
ま目をつぶった。
「シュウと、ずっと一緒に居たい……」
 フォンシャンがそう呟いたのを、窓の外に居たシグルは、首を傾
げてずっと見ていた。

     *     *

 トランザ伯領内――
 トランザ伯は乱れた髪、険しい表情でエルトランテ城の廊下を歩
いていた。城の中の一室の扉を乱暴に開けた。
 部屋の中にはグランザ・エフローデ公とマイザーが居た。
 太ったマイザーは腹を揺らしながら、トランザ伯に言った。
「おやおや、お一人でお帰りとは。ほっほっほ、我が伝令から話は
聞いてますぞ。全軍壊滅だそうですの。ご愁傷さま、と言うのがい
いですかね?」
 マイザーは嫌みったらしく言い、トランザ伯に憎悪のこもった目
で睨みつけられた。
「あちらには羽根の生えた化け物が居やがったんだ! 私も影武者
とすり変わらなければ死んでいた!!」
 トランザ伯はマイザーの胸倉をつかみ、絞めあげる。マイザーは
「ひぃひぃ」言いながら足をバタつかせた。
「やめぬか!」
 エフローデ公はトランザ伯を怒鳴りつけた。その邪気を帯びた声
色に、トランザ伯は手をゆっくりと離した。
「詳しく戦況を報告せぬか。伝令兵さえ消滅したと聞いているぞ」
 エフローデ公の言葉に、トランザ伯はようやく落ちつきを取り戻
し、口を開いた。
「ラスタは化け物を一匹飼っていた。我々がようやく見つけた最高
魔術師二人でさえ反撃せずに逃げ出しおった。ラスタはたった大鎌
一本で我が軍を全て滅ぼしたのだ!」
 トランザ伯はギリリと歯を鳴らした。その歯茎からは、血が滴り
落ちる。その目は、怒りと信じきれぬ出来事に正気を失いかけてい
るように見えた。
「その、化け物とはどう言った者なのだ?」
 エフローデ公の冷静な声に、トランザ伯は一瞬正気を取り戻し、
答えた。
「そう……あれは美しかった。銀の髪に、四枚の白い翼……だが、
手から産みだされた銀の大鎌は死神だ!」
 トランザは再びマイザーの首に手をのばし、絞めた。
「銀の死神か。面白い。禁忌でも犯しているのか、ラスタ伯はのぅ」
 エフローデ公はそう言って口元に歪んだ笑みを浮かべた。
「禁忌――合成獣ならぬ……」
 エフローデ公は唐突に席を立った。
「アレを作るぞ、マイザー。トランザ、貴様も来い」
 トランザ伯はマイザーから手を離し、エフローデ公に従った。マ
イザーは何度も咳をして肺に空気を送ると、ゆったりとした足取り
で二人の後をついていった。

     *     *



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