2 ゴメンなさい、責任持ちます。21



 シュウはしばらく黙ったままでフォンシャンを見つめていた。今
は長い銀髪が金髪へと戻っている。ただ、いつもの青い瞳が見られ
ず、漆黒の艶っぽい瞳が苦しそうに歪んでいた。
「大丈夫か、フォンシャン……」
 シュウは手を伸ばした物の、触れて良いものかためらった。フォ
ンシャンはシュウの手を弱々しくつかむと、引き寄せた。
「ありがとう、シュウが俺のこと呼んでくれたから」
 フォンシャンはそう言いながら、シュウを背後から抱きしめた。
そして、シュウのワイシャツのボタンをゆっくりととめながら、首
筋に顔を埋める。
 しばらく苦しそうに息をしていたが、ふいに笑い声に変わった。
「な、どうした、フォンシャン……」
「だって、心が欲しいって言われたの、初めて」
 シュウが硬直したのも分からなくはない。
「フォンシャン!!」
「あはははは……どうでもいいけど、治療してもらってもいいかな。
そんな力残っていないもんでさ」
 フォンシャンは言いながらベッドに転がる。
「ぬ、脱げっ!」
 シュウはそう怒鳴って、茹でタコのようになった。フォンシャン
は顔を枕に埋めて爆笑していた。
「シュウのスケベ」
 フォンシャンはそう言って血と泥に染まっているシャツを脱いだ。
「ところで、どこを治せばいい?」
「そうだね、肋骨の骨折。ヒビぐらいにはなってるかもしれないけ
ど。カルティアって、便利なやつで。不具合な部分はすぐ治せる。
今回は自分が外に出てきたせいもあって、中途半端なんだよね」
 シュウはフォンシャンの脇腹に手を触れた。そして首を傾げる。
骨折どころか、ヒビ一つ入っていない。少し神経に痛みがあるぐら
いなのだろう。
「他には?」
「他ねぇ……どこだろ」
 フォンシャンは自分の体を見まわす。わざわざ痛い個所を探すと
言うのもおかしな事だが……
「ところでフォンシャン。貴方は、百年生きているのですか?」
 フォンシャンは気まずそうにした後、ため息をついた。
「年を数えるのは十年以上前に忘れてちゃった。でも、それぐらい
経ったのかな。カルティアってやつを封じてから不老にはなった。
不死までは試したことがないからわかんないけど」
 フォンシャンは起きあがってクローゼットまで歩き、新しいシャ
ツを出して着る。
「いいや、この際なんでも聞いちゃって。知られちゃったらもう隠
すのも面倒だから」
 フォンシャンはそう言って、腰まで伸びている髪をうんざりした
ような表情で見つめた。カルティアは、伸びてしまった物までは元
に戻す気がなかったと見える。フォンシャンは一瞬はさみを取り出
して見つめる。
「どっちがいい?」
「え?」
 シュウはいきなり話しをふられて、言葉に詰まった。
「長いのと、短いの」
「長いのは、イメージに合わない気が……」
 シュウがそう言うと、フォンシャンは悲しそうな表情をした。
「そっちも、いいですけど」
 シュウは慌ててそう言った。途端にフォンシャンはニコリと微笑
んだ。
「でも、長すぎるよねぇ。なんとかならないかな」
 フォンシャンはそう言いながら毛先を見つめる。子供っぽい表情
に、シュウは笑みをこぼしてフォンシャンに近づいた。髪に指を絡
めると、絹のようにスルリとこぼれ落ちる。シュウはフォンシャン
の髪を撫で、三つ編みにまとめた。
「シュウ……おかしいよぅ、これ」
 鏡を見ながら、嘆くフォンシャン。
「誰かに切ってもらいましょう。私では貴方の耳を切り落としかね
ない」
 シュウの言葉に、フォンシャンはダッシュで逃げだした。
「そんな逃げなくても。怯えた貴方、かわいいです」
 シュウは笑顔を浮かべた。それを見たフォンシャンは、顔を真っ
赤に染めた。
「どうしたのです? 熱でもありますか?」
「しゅっ、しゅっ」
 シュウは、フォンシャンの額と自分の額をくっつけていた。
「蒸気ですか?」
「ち、違うけど……」
「おかしいですよ、フォンシャン」
 シュウはそう言って首を傾げる。
「それよりも、俺のこと、怖くないの?」
 フォンシャンはそう言ってベッドに腰かけた。
「どうして?」
 不思議そうな面持ちでシュウは問い返した。
「え、だって……俺は百年以上も生きているおじいちゃんだし、体
の中にとんでもない奴を飼っている」
 フォンシャンはそう言って、自分の首から新たにぶら下がるサフ
ァイアを握りしめた。シュウはしばらく黙ったままでいたが、フォ
ンシャンの手に自分の手を重ねた。
「大丈夫。貴方はかわいい人です。ちゃんと私の呼びかけに応えて
くれた」
 シュウは言いながらフォンシャンをベッドに横たえた。
「それに、私のことを何度も助けてくれた。体が疲れ、傷ついてい
るのに。それに、自分の身をかえりみず皆を助けてくれた。そんな
人を怖がる人なんていません」
 フォンシャンの前髪をかきあげてシュウは微笑んだ。と、ログハ
ウスの扉が激しくノックされた。外からエクサの声が聞こえてくる。
「シュナイザー様! こちらにいらっしゃるのですか!?」
 いささか焦りを含んでいるが、先ほどのシュウの様子を見ていれ
ば、仕方のないことだった。



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