2 ゴメンなさい、責任持ちます。 2


 ログハウス(二号)に、人影が一つ近づいてきた。白い詰め襟の
制服に、ゴールドの縁取りがよく目立つ。軍服の一つなのだろうが、
ここまで白いと敵に感づかれやすい。たぶん内勤の者なのだろう。
程よく手入れをされた黒髪に、茶色の瞳。メガネが制服の胸ポケッ
トから覗いている。それを抜き取り、男は顔にかけた。
 切れ長な瞳が更に引き締まった感じがする。
 男は白い手袋をがはめられた手を伸ばし、ログハウスの扉をノッ
クする。中からの返事はなく、男は軽くため息をつくのと同時にメ
ガネを押し上げると、ドアノブに手をかける。なんのためらいもな
くドアを開けて、男は中に入りこんだ。
 男は入ってすぐの所で立ち止まり、部屋の中を目で探る。男はまっ
すぐベッドの方へと向かった。
 ベッドからは、生足が四つほど出ていた。男ものの足、女物の足、
また男の足と交互に出ている。
「……フォンシャン、貴様」
 男は呟くように言ったが、その声には怒りが含まれていた。
 ガバッと、フォンシャンが飛び起きた。
「服を、着ろ、ばか者めが」
 言葉の一言一言に怒りが含まれている。
「うぉっ? なんでボイスがここに……」
「もう少し、早く来るべきでした」
 男は深く深くため息をついて言った。フォンシャンはベッドから
全裸で抜け出し、床に散らばっている自分の服を片付ける。
「でも、俺……」
「厳罰ですね。どう考えても全裸で女と一緒のベッドにいるとは――
しかも依頼主のお嬢様相手に」
「……してない、と思う」
 自信なさそうに言うフォンシャンの下半身に、男は目を走らせた。
「早く服を着ろ」
 今度は少し憎々しげに言う。いつまでも男の全裸を見ているのが
嫌なのだろう。
「それと、制服の方を着ろ。そんな普通の格好で領主の前に出すわ
けにはいかん」
「えぁっ? もしかして、俺が送り届けるわけ? 本気で言ってる
の、ボイスぅ?」
「一人で行って一人で奪還してきたんだ、一応」
「一応って……さぁ。『お前には集団行動が向かない、単身で動け
るようにしておけ』って言ったのはボイスの方じゃん。だから俺が
んばってるんだよー」
 フォンシャンはブツブツ言いながら小さなタンスからパンツを取
り出してはく。シャツ、ワイシャツを着、クローゼットを漁る。
「あー、残念、ログハウス二号にはないやぁ」
 フォンシャンが明らかに嬉しそうに言う。その背後で、バッ、と
何かを広げる音がした。
「そうかと思って、すでに調達してある」
 男が持っていたのは、黒の軍服。形的には男が着ているのと同じ
だが、シルバーの縁取りがとても綺麗だ。
「暑い、それ」
「領主の城に入る前に正装を済ませ、シュナイザー様を送り届けて
城を出たら脱げばよかろう」
「ヤダヤダやだ」
 まるでだだっ子のように言い、首を左右に振りまくるフォンシャ
ン。
「それ、首がチクチクするんだもんっ」
 フォンシャンが少しかわいらしくなった気がする。男はフォンシ
ャンの後頭部を殴った。ふらつくフォンシャンの腕を取り、そこに
軍服の上を着せた。
「下は自分で着ろ」
 そう吐き捨て、男は軍服のズボンの方をフォンシャンの顔に叩き
つけた。
「お前の我がままに付き合っているヒマは私にはないのだ。内勤の
私がわざわざ外にまで出向いている意味がわかっていないとは思う
が――いいか、シュナイザー様をすぐに送り届けろ。今、すぐにだ。
3時間後に開かれるパレードにシュナイザー様が出席されなか
ったのなら、反乱軍が暴動を起こす」
「へ……? なんでパレードなんか?」
「そこのところはまだ我々には説明されていない。憶測ではあるが、
ラスタ伯が領民を安心させるため、抵抗することを宣言するかと思
う。ただ、娘が戻らなければそれを理由にラスタ伯の方から戦争を
勃発させる気かも知れん。反乱軍を押さえるためにな」
 男はそう言ってベッドで眠りについているシュウを見る。
「戦争は、やだなぁ……小さな悪行だけでも精一杯なのに。それが
塊で動くんだよ」
 フォンシャンはそう言ってため息をついた。
「わかった、早めに送り届けるよ。えと……シュウちゃんに服を買っ
てあげなきゃいけないんだけれど、必要経費で落としてもらってい
い? ――前借りで」
 男は眉間にシワを寄せ、顎に手をやって考え込む様子を見せる。
懇願するような表情をするフォンシャンを一度見ると、懐から財布
を取り出し、紙幣を何枚かフォンシャンに渡す。
「領収書をもらってくるように。それと、シュナイザー様にはそれ
なりの物を着ていただくように」
 男はそれだけ言い残して部屋から出て言った。
 フォンシャンはその後ろ姿を窓からしばらく見つめていた。が、
ふと頭を掻き、言った。
p 「ボイスって、名前なんて言うんだっけ……上様でいっか」
 ボイス、と言うのは実は指令官の総称であり、人の名前ではない。
フォンシャンと男とはそれなりに長い付き合いであるはずなのだが……
あまり人の名前を覚えるのは得意でないらしい。
 フォンシャンは金を内ポケットに捻りこむと、ベッドまで歩いて
ゆき、シュウの頬に軽く触れた。
「起きて。たぶんもう体はよくなっているはずだから」
 フォンシャンの呼びかけに、シュウが片目を開ける。そしてびっ
くりしたように目をこすり、フォンシャンを見つめた。
「あ、あれっ」
「ど、どどどうしたのっ」
「メガネっ」
「はひっ?」
 シュウは自分の顔をペタペタと触りまくる。
「メガネないのに見える……」
「あー……シュウちゃんはもしかして近眼だった?」
 フォンシャンはヤバイ事をしてしまった、と言う表情を浮かべる。
「ええ、まぁ、そうでした。剣を握れば感覚が研ぎ澄まされるので
必要はないのですが。フォンシャン」
 シュウはフォンシャンをじっと見つめる。フォンシャンは焦った
ような表情を浮かべたまま固まった。
 しばらく沈黙が続いた後、フォンシャンは諦めたように言った。
「ごめん、治しちゃった」
「高位魔術師でないと治せない目の病気をですか? 高位魔術師は
領内に一人といない逸材……」
 シュウは飛び起きると同時にフォンシャンの胸倉を掴み、ベッド
に押し倒した。
「ちょっち、待った!」
 フォンシャンは慌てて胸元を正す。
「この制服すぐ首締まるんだから。って、そんなことを聞きたいわ
けじゃなさそうだよね。俺の愛、と思っといてよ。そんなに魔法が
得意なわけじゃないんだから。思ったよりの力が出せるもんだね、
男って」
 フォンシャンは照れたように笑い、シュウを抱き寄せた。
「さてと、お嬢様。シャツの前をとめていただけますか。その、胸
見えてるから。全部」
 フォンシャンは言いながら目線を横に反らした。シュウが慌てて
目線を自分の体に落とすと……
「あ、あなたですね! 私をこのような!」
「覚えてないっ」
 ものすごく苦しいいい訳と思いつつも、フォンシャンはそう口走っ
た。そして素早くシュウの下から抜け出すと床に四つ這いになって
身構える。
「多分してないっ! そんなもったいないことできるかっ」
 そう口にして、フォンシャンは全身の血が引いていくのを感じた。
「フォンシャン……あなたって人は」
 シュウはため息をつくと、ワイシャツのボタンをとめた。
「この責任は後ほど追求するとしましょう。取りあえず今は一刻も
早く戻らなければ」
 シュウはフォンシャンのクローゼットを勝手に漁って服を着始め
る。
「あのーシュウ?」
「なんですか」
「後で服、買いに行こうね……俺の服じゃ問題がありすぎる」
 フォンシャンが言ったのにも訳がある。ダボついた服に身を包ん
だシュウは、少しかわいらしく見える。シュウはそれに対して同意
を示した。
 簡単な身支度を終えた後、フォンシャンはシュウを抱いて、空間
を跳んだ。今度はきっちり座標計算をして転移魔法陣を発動させた
様で、町の手前に姿を現すことができた。
 町は、ラスタ伯の城があり、なかなか大規模な都市であった。
「いつもどこで買い物してるの?」
 フォンシャンは、内ポケットに捻りこんでいた札束を数えながら
シュウに問いたずねた。
「私がよく行くところに行きましょう。あそこなら私の顔でツケが
きくでしょう」
「……なんだかんだ言ってお嬢様なのね、シュウは」
 フォンシャンはちょっとした身分の差と言うものを感じてため息
をつく。
 しばらく街中を歩いて、シュウが立ち止まったところは――仕立
て屋だった。
「しゅ、シュウちゃぁーん?」
 しかも、メンズの。明らかにドレスを着るつもりはないらしい。
「ぼく、シュウちゃんのお嬢様な姿見たいんだけどなぁ……」
 言っても無駄と知りつつ、フォンシャンは言ってみる。案の定、
シュウに一睨みされただけで終わった。



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