2 ゴメンなさい、責任持ちます。18


 シュウ達ラスタ兵は、あまりに目の前の出来事に集中しすぎたの
だろう。
 壊れた所から少し離れた壁に、大きな亀裂が入った。
 次の瞬間――壁が、ゆっくりとバラバラになった。壁を作ってい
たレンガはまるで散り行く花びらのように落下してゆく。
 ドサドサと音を立ててレンガが瓦礫になってゆく。舞い上がった
土埃はすぐに雨によって押さえられてゆく。
 だが、そんなことよりも、ラスタ軍は目の前に迫ったゴーレム兵
に動きを硬直させていた。驚きのためか、恐怖のためかは定かでは
ないが……
「退け!」
 ロイはそう叫んで軍を後退させようとする。
「シュウ、ぼけっとすんな! ゴーレムにふっ飛ばされたら命はな
い!」
 シュウの馬の手綱をひき、馬を後退させる。
 その瞬間、先頭のゴーレムが、手に持った巨大な斧を降り降ろし
た。
 馬がふっ飛び、空中で二つに分かれた。その馬に乗っていた兵が
どうなったかは判らないが、無事で済むわけがなかった。あの高さ
まで跳ねあげられては、落下の衝撃で命を落とす可能性がもある。
「シュウ、早く引け!」
 ロイはそう言うが、シュウは手綱を奪い返し怒鳴った。
「だがっ! ここで食い止めねば!!」
「無理だ! 圧倒的に数が多すぎる!」
 シュウはロイの言葉を跳ねつけるように睨む。
「でも……」
「これで負けるんじゃない、始まったばかりなんだ。これ以上被害
を増やすな」
 シュウは少しの間だけ下を向き、黙った。
「わかった……エクサ、退くぞ。魔力を残しつつドライ魔法で今居
るゴーレムだけでも動けなくしておけ。それで少しは逃げる時間が
稼げるはずだ」
 シュウはそう言って、自ら詠唱を始める。術が発動し、目の前に
いたゴーレムが崩れた。赤い核が露になるが、その核に再び砂が集
まり始める。水が降り注いでいるせいだろう、長く降りつづけるの
で、乾いた砂はあっという間に泥となり、ゴーレムの形をとる。
「思ったより蘇生率が高い……全軍、退け!!」
 シュウの言葉に、軍は戦闘をしながらもゆっくりと退き始めた。
よく見極めて行動しなければ、ゴーレム兵の握った武器の餌食にな
ってしまうだろう。
 シュウはロイと共にゴーレムの数を一体でも減らしてから退却し
ようとしていた。シュウがドライ魔法を唱えてゴーレムの核を露出
させ、ロイがその剣技で核を砕く。
 だが、二人だけでは数多く倒せる相手ではない。
「シュウ、もう少し退くぞ!」
「了解。あと倒せたとしても2体だ。それ以上は術が発動するか判
らない!」
 シュウの言葉に、ロイは剣を収めた。
「ならば逃げる! ここから抜け出す力を残しておかないとヤバイ」
「……わかった。物理防御壁を張る。そしたら一気に走り抜ける」
 ロイはうなずくと、シュウの馬に移った。自分の馬は尻を叩いて
先に逃げるように指示を出す。ロイの馬は野生に近く賢い。ロイは
自分の馬が一匹で逃げれるとわかっているのだろう。
「私の術があのゴーレム兵の武器に耐え切れるかわからないけれど
――」
 ロイは、馬を走らせる。シュウから淡い光りがこぼれ、徐々にロ
イと馬とを包む。
 それは突然起こった。たぶん、ゴーレム兵が徘徊し、ぬかるみが
深くなっていた場所に足をとられたのだろう。
 シュウとロイが乗った馬は横倒しになり、二人は泥の中に放りだ
された。
「くそ! シュウ、大丈夫か!?」
「足をひねりはしたが……馬は!」
 馬は、ぬかるみに足をとられた際にくじいたのか、骨を折ったの
か……悲しそうにいななき、起きあがろうと必死でもがくが、前足
だけでも起きあがることができなかった。
「癒している時間があるか?」
「くじいただけならすぐにでも。骨を折っているのなら――」
 シュウはそこで言葉を飲みこんだ。
 とどめを刺すしかない。
 その言葉が二人の脳裏をかすめた。
「二分なら、待てる。それ以上は走って逃げるぞ」
 ロイの言葉にシュウはうなずき、馬の側に座った。馬の左後ろ足
の肉が少し削れており、血が泥に混じっていく。シュウは馬を撫で
て落ちつかせると、手を足にあてた――ほんの少しの希望をもって。
だが、すぐに絶望に変わる。血と肉の合間から、白い物が見えてい
た。数分で治せる傷ではなかった。それでも、諦めきれないのか、
シュウは馬の足に治療を施す。少しでも痛みが消えれば、と言う思
いが何も言わなくてもシュウの表情から読み取れた。
「あんたは……」
 ふと、ロイの声を聞いて、シュウは我に帰った。そのシュウの背
後から、何者かの手が伸びてきて、シュウの手に触れた。
 シュウは、驚きで目を大きくした。馬の足が、あっという間に治
ってゆく。そして、耳元でささやかれた。
「だから、どこか行くときは俺に言ってから、って言ったのに」
 低く切なそうな声色に、シュウは思わず振り返った。
 フォンシャンが、いた。
 フォンシャンはシュウを立たせ、顔の泥を手で拭うと言った。
「無理しちゃダメだよ。馬を立たせて――逃げよ」
 フォンシャンは笑顔を作るが、その手は何故か震えていた。顔色
は悪く、蒼白に近い色をしていた。
「フォンシャン、大丈夫?」
「だい、じょうぶ。だから、早く、逃げよう……」
 そう言ったフォンシャンの背後で、ゴゥ、と言う風を切る音が聞
こえた。フォンシャンはとっさにシュウをロイへと突き飛ばした。
 フォンシャンの体が、虚空に舞った。
 そして、シュウとロイの上を大きな棍棒が通りすぎて行った……
 ベシャッ、と音がし、フォンシャンの体が泥の上に転がった。
「フォンシャン!!」
 シュウの目から涙が一気にこぼれ落ちた。シュウはロイの手をふ
りほどき、フォンシャンへと駆け寄った。
 フォンシャンの口からは血が滴り落ち、泥に染まっているシャツ
の胸元に赤い血が大量についている。
「フォンシャン! 目を開けてください!」
「シュウ……逃げな。あとは俺がどうにかするから」
 奇跡なのか、それともフォンシャンの悪運が強いのか。ともかく
フォンシャンは息をしていた。だが、ゴーレムの棍棒に背中を打た
れ、肋骨と背骨が砕けているのは、瞬間を見ていれば誰でもわかる
ことだった。
「そんなことはできない! 転移魔法を使う力は残っていないの
っ!?」
 シュウはそう言って、フォンシャンの唇の血を拭う。フォンシャ
ンは、シュウに笑顔を見せて言った。
「大丈夫、逃げてもいい。ロイ、シュウを連れて逃げて。ここは危
ない」
「あんたを置いては逃げれねぇよ、俺だって」
 ロイはそう言って、フォンシャンの顔をのぞきこんだ。先ほどの
フォンシャンをふっ飛ばしたゴーレムは、すでにロイが始末したよ
うだった。
「いいから、逃げてくれ。俺は本当に大丈夫だから」
 フォンシャンは、言いながらゆっくりと上半身を起こした。
「フォンシャン!?」
 起きあがるどころか、動かすことさえ危険である身を起したのを
見て、シュウの顔から血の気が引いてゆく。このままではフォンシ
ャンは確実に死に至るだろう……
「シュウ、このゴーレムを一気に倒すには、何をすればいい?」
 フォンシャンは地面に手をつき、完全に立ちあがる。
「水の神ディープを召喚するのが一番いいが――」
「頭良いね、シュウ。物知りだ。ディープか……どのみちここは術
に巻きこまれる。遠くから、見ていて」
 フォンシャンは軽くシュウを突き飛ばす。
「ロイ、馬の傷は治したから、シュウを連れて逃げて。出きるだけ
遠くに」
 フォンシャンはそう言いながら、魔法陣を描き出す。三重、四重
にと魔法陣が魔法陣を取り囲む形で、空中に魔法陣が広がってゆく。
 ロイは泣きじゃくり暴れるシュウを抱きかかえ、馬に飛び乗る。
「シュウ! アイツが死ぬわけねぇ!」
「フォンシャン!!」
 シュウはロイの肩ごしから身を乗り出してフォンシャンへと手を
伸ばす。だが、その手は虚しく空をつかみ、フォンシャンの姿は遠
くなるばかりだった……



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