2 ゴメンなさい、責任持ちます。17


 ゴーレムはそれぞれ手に巨大な武器を携えていた。
 人と人との戦いしかしてこなかったシュウやロイとしては、その
光景は始めて見るものだった。
 炎と煙の揺らめきの中を、巨大な兵士が歩いてゆく。
「どうやって止めるのです!?」
 エクサが半分混乱に陥りながら叫んだ。
「止めるしか、ない」
 シュウはそう言うなり、無謀にも馬に鞭を入れた。だが、馬はそ
の本能から後退するだけだった。
「ロイ、どうする」
「俺は魔術師部隊が転送されてくるのを待ったほうが良いとは思う
が――それをトランザが許してくれる可能性はないな」
 ロイはそう言って歯をギリリと鳴らした。
「せめて、降水魔法だけでも施しておくべきだな。エクサ、今いる
魔術師を集めろ」
「了解!」
 エクサは卵話を手に魔術師を召集する。シュウは周辺に現れた魔
術師に降水魔法をするように命じる。だが、炎の勢いはにわか雨ご
ときでは消火するのが難しかった。
「ディープを呼びだす魔法を使える者はいないのか!」
 深海に棲むと言われる水の神・ディープ。召喚術に値するこの魔
法は、魔法陣を使って直接呼びだすのが早い。シュウの音声魔術で
は、心の揺るぎのある者の言うことなど、召喚獣は聞いてくれない
だろう。
「くそ、フォンシャンがいてくれれば……」
 シュウは、思わず汚い言葉を吐いていた。フォンシャンが召喚術
を使えるか使えないかは別として、今のシュウにとって、側にいて
欲しいと思える者だったのだろう。
 ロイはシュウの頭を優しく撫でた。
「落ちつけ、シュウ。冷静に考えず行動を起すなら、もっと大きな
被害をこうむることになる。まだゴーレム兵の数も分からず、敵の
力も分からない。反乱軍が得ていた情報より、もっとトランザの野
郎は戦力を持っていたんだ――いや、もしかするとエフローデの戦
力かも知れないが。まず、ゴーレムの弱点を」
 ロイは落ちつきを取り戻し、シュウにさとすように言った。シュ
ウは一度大きな深呼吸をすると、しばらくゴーレムを見つめた後に
言った。
「ゴーレムは核を持っている。その核を壊すか、核を操っている術
師をなんとかすれば動きを止めるはず」
「その核はどこに?」
「外部に露出しているか、内部に収納されているかはここからでは
分からないが――大抵は心臓分もしくは頭部に赤い宝石としてある」
「そうか。じゃあ、外部に露出してるやつは俺たちでもなんとか出
きるわけだ」
 ロイはそう言って剣を抜いた。それに習って、背後の者達も各々
武器を握る。
「ついでと言っちゃ難だが、内部にあるやつは、どうしたらいい?」
「えと……」
 口篭るシュウに、一人の背の高い青年が言った。
「すでにゴーレムは水に濡れ、いささか体を構成している土が緩ん
でいるはずです。そこにドライ魔法をかけて水分を蒸発させれば、
体はもろくなるでしょう。中には鉄などの金属を種としているゴー
レムもいるようですが、そんな高価な物を大量に作れるわけはあり
ません」
「そ、そうですね、ありがとう」
 シュウは、自分の上の方にある青年の顔を見上げた。2メーター
はあるのでは、と思える背の高さに、知的な顔。だが、その背には
不釣り合いな巨大な剣が背負われていた。
「私は戦闘が得意ではないので、道を作りましょう。少し、乱暴な
手ですが」
 青年はそう言って背中の剣を抜いた。青年はそれを両手で握ると、
高く振りかぶった。
 青年の握る剣が振り降ろされ、真空が産まれた。突風に、周囲に
いた者達は目をおおう。
 剣から産みだされた真空波は一直線にゴーレム兵の先頭へと向か
って行った。そして、先頭ゴーレムを2〜3体ふっ飛ばした。
 目を開けたシュウの前には、煙一つ立たぬ道ができていた。どう
やら青年は風で熱と煙、蒸気を一気に吹き飛ばしたらしい。青年は
巨大な剣を背中の鞘に収めると、シュウに一礼をした。
「私は火が苦手でして……臆病でこれ以上の戦闘は望めないのです、
申し訳ありません……」
 そう言った青年の手は、確かに震えていた。背は高いが、顔立ち、
体つきから言っても戦闘を得意とするようには見えない。
「ありがとうございます。傭兵とお見受けしますが、名前を聞かせ
ていただいてもよいですか?」
「ラァファスと申します。シュナイザー様のお役に立てて、光栄で
す」
 青年はそう言って再び頭を下げた。シュウは、嬉しかった。傭兵
とは言え、自分の領の為に力を貸してくれたのだ。
「おい、シュウ行くぞ! ありがとな、背のデカイ兄ちゃん。今度
また頭脳を貸してくれよ。ずいぶんと物知りみたいだからよ」
 青年は真面目そうな顔つきのまま、「わかりました」と答え、軽
く頭を下げた。
 シュウとロイらは馬に乗り、青年が作った道を走る。後続に到着
し始めた魔術師が行く。
「氷槍(アイス・スピア)で進路をふさげ!」
 シュウの言葉に反応し、魔術師が各々の方法で術を放つ。左右に
散らばりつつあるゴーレム兵の動きが、地面に突き刺さる太い氷の
槍によって妨げられる。
「土槍(アース・スピア)で退路を、壁を閉じろ!」
 ロイの言葉に、国境間近の土がめくれ上がり、上に伸びて行った。
「今のうちにゴーレム兵を動けなくするぞ」
「だが、どうせあのアーススピアごときの壁なんぞすぐ突破されち
まうぞ! 近くに寄ったら危ねぇ!」
「ならば遠隔からどうやって倒す!?」
 切羽詰まった様子で、シュウはロイに食ってかかった。
「もう少し、もう少し状況を見極めるまで待て! それまでは遠く
からの攻撃しかないだろっ。今は大量の雨を降らせろ! ちったあ
時間稼ぎになるだろ。こう熱くちゃ生身の人間には厳しい。それに。
ゴーレムの動きも鈍るだろ」
 ロイはそう返し、鎮火を先行させる命令を下した。大量の水を降
らせることにより、地盤を緩ませ、ゴーレムの足元をすくう作戦も
兼ねているのだろう。
 降り注ぐ水のせいで、体はずぶ濡れになり、湿気を含んだ衣服は
動きを鈍らせる。



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