2 ゴメンなさい、責任持ちます。14


 シュウが家に戻ると、部屋の中から良い匂いがしていた。エクサ
が慌てて前に出てナイフをかまえる。と、キッチンへと続く扉が開
いて、中からフォンシャンが出てきた。
「お帰りー。きっとすぐ帰ってくると思ってた。さっきはごめんね。
ちょっと悪乗りしすぎたね。あ、エクサくんだっけ。キッチン借り
たよ。お腹すいていたからビーフシチューを作ってみた」
 フォンシャンはコソコソとパンとシチューを持ってくるとテーブ
ルの上に置いて食べ始めた。シュウは、昼ご飯がまだであったこと
を思い出し、フォンシャンが食べているさまをじっと見つめた。そ
の視線の意味に気づいたフォンシャンが、キッチンを指して言った。
「シュウとエクサくんもどう? 余計に作ってあるから、まだ残っ
てるよ」
 エクサはそれを聞いて、「いただきます」と言ってキッチンに入
った。一度シュウの分を持ってくると、再びキッチンに戻って行っ
た。
「いつも一緒じゃないの?」
「ええ、私は気にしなくて良いと言っているのに、エクサは自分の
身分をしっかりと考えているようで」
 シュウはそう言いながらフォンシャンの作ったシチューを口に運
ぶ。
「美味しい」
「どういたしましてー。で、俺、今日で休暇おしまいなんだよね。
でも、レッドコールが鳴るまでは以外とヒマだから。明日ログハウ
スの撤収して、こっちに持ってこようかな」
 フォンシャンは呑気にそんなことを言った。
「それは、どう言う意味ですか」
「ボイスにこの村を守る仕事でも貰おうかな、と思って。武器を持
たない女子供を戦場から救うのは、アークの仕事ではある。実際の
ところ、稼ぎにはならないんだけどね」
 フォンシャンはそう言って苦笑いをする。
「でも、シュウの親父さんから貰った報酬があるから、少しは平気
だしー」
 シュウは複雑な表情をしていた。
「さてとー。ボイスに仕事の交渉してくるよ」
 フォンシャンは食べ終わった皿をキッチンに運び、携帯卵話を片
手に出てきた。声が聞こえないところを見ると、空間封印機能で話
しているのだろう。フォンシャンはヒラヒラとシュウに手を振ると、
部屋を出た。

「でさ、いいかな」
「だめです」
 そう即答が帰ってきた。
「はぅっ。ボイスの意地悪」
 フォンシャンは卵話しを握りしめて肩を落とす。
「それで、今度の要求はなんですか?」
「まだ話しも聞いてないのに分かってるのかと思った……」
 フォンシャンは軽く息を吐くと言葉を続けた。
「オーザから俺の位置は教えてもらっているとは思うけどさ。この
辺にアークは配備されてるのかなって」
「少し待っていなさい。調べます」
 ボイスはそう言って、静かになった。卵話の向こう側で資料でも
調べているのだろう。少し経って、ボイスが咳払いをした。
「今のところ配備の予定はないですね。領境であるとは言え、門か
ら凄く離れているのでね。確かにそこにラスタの兵がいるとなれば、
情報収集の為にも配備が必要になりますが――」
「それ、俺がやるよ」
「ダメです」
「なんで!」
 ボイスに即答され、フォンシャンはむきになって言い返した。
「隠密行動に向いていないからですよ」
 ボイスはきっぱりと言いきった。
「ただし、配属の必要性があるのは確かです。そして、現場に君が
いる。上層部にかけあってみましょう。事の一端を見てきて、ある
程度の事を把握している。しばらくはそこにいて報告を」
「……了解。結果出るのって、どのくらい?」
「そうですね、一日二日で辞令が出るでしょう。まだ休暇中ですか
ら、明日話しを持っていきますよ」
 ボイスは机を一定の間隔で叩きながら答えた。コツコツと言う音
が、ボイスが神経質になっていると感じ取ることができる。
「戦闘が起こるとあって、アークも忙しいんですよ。人員を多めに
収集して配置しなおさなければいけないんですから――切りますよ」
「了解」
 フォンシャンは卵話をポケットにしまうと、シュウのいる家へと
戻った。
「ごめん、ちょっとログハウス取りに行って来る。俺がいない間、
おとなしくしててね、ハニー」
 フォンシャンはそう言って投げキッスをシュウに送る。シュウは
真っ青になって、持っていたフォークを握りしめ、フォンシャンに
投げつけた。
 フォークは、ドスッと良い音を立てて、扉に突き刺さった。

 夜になり、再び地鳴りが響いてきた。その頃、フォンシャンは村
の酒場に居た。隣りにはロイが座っている。
「嫌がらせなのかな、これ」
 フォンシャンはコップの酒が揺れるのを見てそう呟いた。
「だろうな。それとも何かの前触れなのか。こちらの方が分が悪い
んだよな。何せ魔法制限がある。壁に近すぎるとまったく発動しな
いらしいからな。だからこっちは様子を見ているしかないんだ」
 ロイはそう言って一杯あおった。フォンシャンはちびりちびりと
飲みながら言う。
「らしいね。シュウも誘えば良かったかな」
「それはよしておいた方が良い。飲みなれない酒を飲ませると、悪
酔いするんだ、シュウは」
 ロイは木の実をつまみながらそう答えた。フォンシャンは、「そ
う言えば、そうやね」と納得すると、横からロイの木の実をかすめ
取る。
「そう言えば、シュウの隣りに家ごと引っ越したんだって?」
「ん、ああ。ミニアム魔法が使える奴がいてね。そいつに頼むとす
ぐ引越しできるからほんと楽」
 ミニアム魔法とは、物質を自在の大きさに操る魔法のことである。
成功率が低くいので、一般的には覚えることはない。
「へぇ。あんたの知り合いって上位魔術師が多いみたいだな。ぜひ
とも紹介して欲しいよ」
 ロイはフォンシャンが頼んだ卵のあんかけ風をぱくつく。フォン
シャンは少し動きを止めた。コップに残っていた酒を飲み干した。
店の主人にお代わりを頼むと、ロイを横目で見て言う。
「無理だと思うよ。引越し専門業だから。それ以外の魔術は扱って
いないと聞いてるし」
「そうか、それは残念だな。もう少し軍を強化したいんだけどさ。
なかなかいい人物がいなくてね。そろそろテントに帰るかな」
 ロイはそう言って金を置いて席を立つ。
「また今度飲もうね〜」
「……いいが、その首輪、なんとかならねーの? 一緒にいると俺
が強制してつけさせたみたいで怪しい」
「うーそれは言わないでおー」
 フォンシャンはカウンターに額を打ちつけ、そう呟いた。ロイは
「じゃあな」とフォンシャンの肩を叩いて店を出て行った。フォン
シャンは酒をちびちびすする。
 と、フォンシャンの姿勢が妙に正しくなった。フォンシャンは自
分の体をゆっくりと上から下へと見て行った。少し首を傾げて後ろ
を見ると、尻の部分に繊細そうな男の手が触れている。あろうこと
か、上下にゆっくりと動いている。
(こ、これは俗に言う、あっち系と言うやつで、俺ってば襲われて
るわけか? いや、それともまだ誘われてる段階? ロイが言って
たことって、以外とマジ?)
 フォンシャンは、心中と、小声で自問自答していた。
「ねーえ、お兄さん。あたしの視線気づいてた? その首の、ステ
キ。あたしにもどこで買ったか教えて……」
 フォンシャンに寄りかかるようにして青年は言った。青年は淡い
赤毛、ピンクにも見える髪をかきあげてフォンシャンの肩甲骨を指
でなぞる。青年はフォンシャンの顔を覗きこんできた。薄化粧を施
した甘いマスクに、青紫の大きな瞳。少し厚めの下唇が艶っぽい。
座っているから分からないが、多分身長は180を超えるだろう。
「非売品だよ。特注品だからね」
 少し顔をひくつかせながらフォンシャンは答えた。
「そぉ。残念ね、あたしも首輪新調しようと思ってたのに」
 そう言った青年の首からは茶色い革の首輪がしてあった。飾りの
部分は羽根ではあったが……
「話しかけて悪かったわね。連れが睨んでるからおいとまするわ」
 青年はそう言ってフォンシャンの太モモを何度か撫でると、フォ
ンシャンの頬に手を添えた。青年の艶めいた唇がフォンシャンの唇
に近づく。
 フォンシャンは、一瞬目を見開いたが、すぐに目を閉じた。まる
で、悪い夢なら覚めてくれ、と言わんばかりに。
「連れって……」
 フォンシャンは自分を現実に引き戻すために、思わず青年に聞い
てしまった。
「あたしに興味もってくれてるわけ?」
「そ、そう言うわけじゃっ」
 フォンシャンはそう言って酒をあおった。
「無理しちゃって。あたしは流れの傭兵だから、もう会う事はない
わ。深く聞かないでよ」
 青年はそう言ってフォンシャンの頬をつつく。
「傭兵?」
「そう、雇われよ。連れが探しているみたいだから、もう行くわ」
 青年はそう言って立ちあがり、フォンシャンの唇に軽くキスをす
ると、その場を離れていった。思わず唇を押さえ、青年の後ろ姿を
見守ってしまうフォンシャン。
 青年は、酒場の男たちに絡まれている背の低い女の子のところに
歩いて行くと――女の子を抱き上げた。
「俺の連れに手ぇ出してんじゃねぇよ。テメエらのアレぶった切っ
てをケツの穴にでも突っ込んでやろうか、あぁっ?」
 見るからにソッチ系にそうすごまれて、酒場の男は口をぱくぱく
させながらその場に立ち尽くす。それに、青年の方がはるかに身長
が高く、鍛えあげられた肉体を見れば、そうなるのも当然だった。
 青年は女の子を片手に抱きしめたまま、酒場から出て行った。フ
ォンシャンは唖然としてその様子を見て、「なんか男としていろん
な意味で負けた気がする」と呟いた。そして奇妙な青年におごって
もらった酒を飲み干すと、席を立って店を出た。



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