2 ゴメンなさい、責任持ちます。13


 シュウが村に帰る頃、地響きは止んだ。
 フォンシャンは、まだ寝ていた。青い顔に少し赤みが戻ってきた
ように感じる。シュウはフォンシャンの頬から首筋にかけて手を滑
るように触れた。ふと、思い出したように顔を赤らめる。
 あの夜のフォンシャンの顔は、真面目ながらも表情が優しかった。
斜め下から見つめると、すっきりとしたあごのラインがやらしくと
もセクシーに思えた。青く透き通った瞳が少しいたずら気に微笑ん
だ。
 フォンシャンは、シュウが初めてであることを知っていて、優し
くしているようだった。長めのキスをすると、シュウの髪をかきあ
げ、額にもキスをする。
「大丈夫? 抵抗しないの?」
 シュウの反撃を恐れているのか、それとも本当に気遣っているの
か、そう問いたずねてきた。シュウは黙ったまま軽くうなずくと、
フォンシャンはシュウのワイシャツのボタンを外し始めた。そのゆっ
くりとした動作に、もどかしさと恥じらいが出てくる。
「フォンシャン……」
「じらすなって?」
 フォンシャンはそう言ってクスリと笑う。シュウは真っ赤になっ
て顔を反らせた。フォンシャンは、自分もシャツを脱いだ。
「俺の胸、触ってごらん」
 シュウは言われた通りフォンシャンの胸に触る。いささか早い胸
の鼓動が伝わってくる。
「ドキドキするのは女だけの特権じゃないよ」
 フォンシャンはそう言いながら体を重ねた。

 シュウは思わず目の前で寝ているフォンシャンの頬を引っ張った。
「無駄に紳士なんじゃない」
 フォンシャンはうめいてシュウの手を握る。
「なぁに、シュウちゃん」
「触れられると、目を覚ますのは早いのね」
「不機嫌そうだね。俺、なんか変な寝言言った? それとも寝ぼけ
て押し倒したとか?」
 フォンシャンは起きあがると、シャツを着た。時計を見ながら言
う。
「ふぁーあ、お腹空いた。って、今日で休暇最後か。男ってダメだ
ね、休暇となると寝ちまう――もうちょい休暇伸ばしてもらおうか
な。シュウと一緒にいたいし」
「それは嬉しいけれど……そんなに貴方を引きとめてはいけない気
がします。貴方にはまだ秘密がある」
 シュウは言いながらフォンシャンの腕をつかんで押さえつけた。
「しゅ、シュウ? 俺、女の人に襲われるの慣れてない……」
 フォンシャンはウソっぽく顔を明らめた。シュウは短く詠唱をし
て、カーテンをとめていた紐を引き寄せた。紐でフォンシャンの手
を縛る。
「……えと、シュウはそう言う趣味が?」
「ち、違う」
 シュウは首を左右に振りまくった。しばらく頭をふらつかせてい
たが、フォンシャンを睨みつけると言った。
「だって、逃げてしまいそうだから。貴方から力だけではなく、な
にか他の力が溢れてる。それが逆に貴方を蝕んでいる気が……」
 フォンシャンの体が、ビクリと震えた。シュウの手はフォンシャ
ンの首を撫でていた。そして黒革の首輪に触れる。
「これ、一体なんです? なにかが、ここから……」
「シュウ、よせ!」
 フォンシャンが怒鳴った。シュウは驚いたように身を引いた。
「なぜ」
 シュウは短くたずねてフォンシャンの胸倉を乱暴につかんだ。
「ちょっ、苦しいって――ほんとに言えないんだから勘弁して」
 フォンシャンはもぞもぞと手を動かし、紐を簡単にほどく。
「ほんと、お尻のお肉が気持ちいい」
「ほんと、どうしようもないスケベですね」
 シュウはそう言って自分の尻を触っているフォンシャンの手の甲
をつねりあげた。
「だから馬乗りはやめてって。それで、なにかあった? 少し疲れ
てるみたいだけど」
 フォンシャンは言いながらシュウの頬を触った。
「少しね。トランザが魔獣を放った。その対処に夜中動いた。別に
たいしたことじゃない」
 シュウはフォンシャンの手に自分の手を重ねた。
「そか。でも、疲れたでしょ。ベッド返すよ」
「いえ、大丈夫。それより、なんで脱がそうとしているんです」
 フォンシャンの手は、シュウの制服の上着を床に放っていた。フ
ォンシャンは「気にしない」と言いつつ、やはりシュウの服を脱が
す。
「ちょっ、こら……いつ攻めてくるか分からないん――」
 シュウはあっさりフォンシャンに組敷かれる。挙句にキスまでさ
れ、微妙に抵抗する気をなくす。
「大丈夫。シュウは危険な目にはあわないから。俺が守るってね」
「寝ていたくせに」
「でも、大丈夫だったでしょ」
 まるで何もかもを見透かしたようにフォンシャンは言った。
「癒してあげるから」
「男なのに、癒し魔法も得意なんて、珍しいですね。そう言えば」
 フォンシャンはシュウの口に指をあてて静かにするように合図を
送った。フォンシャンはその後シュウをそっと抱きしめた。

 その日、朝から昼にかけて何も起こらなかった。村の大工とラス
タ兵が家を数件建て、一息ついているところだった。シュウは村の
合間を、村の青年と変わらぬ服装で従者と共に歩いていた。
「あの方はあのまま寝かせておいていいのですか?」
 従者がふと口にした。
「フォンシャンの事か。貴方は気にしなくても大丈夫。弱い人では
ないから。それよりエクサ、何か新しい情報は?」
「特にはありません。地鳴りもいつの間にか止んだようで、その後
の攻撃はありませんでした――それより、名前を呼んでいただかな
くても」
「呼ばないと、かえって不便だ。ここはもう顔見知りばかりの城の
中ではないのだから」
 シュウはそう言って笑顔を作る。何故か従者エクサは顔を赤くし
て目を伏せる。彼もまた、シュウが女性だと気づいている一人なの
かもしれない。
 シュウとエクサは村の市場を見て回った。ほんの少し前までトラ
ンザ領と公流があった証拠に、トランザ領で取れる赤い木の実が売
られていた。密輸とまではいかないが、この村を好きでこっそりと
来ているトランザの民がいるのかもしれない。シュウはその甘酸っ
ぱい木の実を一つ手に入れた。服で木の実を拭くと、そのままかじ
りつく。
「シュナイザー様……」
 いささか慌てた様子でエクサが言う。
「言ったでしょう、村の者と同化するぐらいの気持ちでいなければ、
と。ここにいる間は村人にあまり迷惑をかけてはいけないんです。
快く私たちに場所を提供してくださったことを感謝しなくては」
 シュウはそう言ってまた微笑む。と、その背後から何者かが抱き
ついた。エクサの目が細まり、その者を睨む。そんな大それた事を
する人物は一人しかいない。
「フォンシャン、様。あまりシュナイザー様にご迷惑をかけないで
ください」
 エクサはフォンシャンの首にナイフを突きつけて言っていた。フ
ォンシャンに“様”を付けているのは 明らかに建前だ。
「エクサ、いいよ。彼の挨拶だから。エクサも仲良くなったら、こ
れぐらい覚悟をしておいた方がいい」
 シュウはそう言ってフォンシャンを引き剥がした。フォンシャン
はムスッとした表情を浮かべてエクサを睨み、次いでシュウを見た。
「シュウ……その外だと冷たい感じがステキ」
 フォンシャンはふざけた事を言って体をくねらせた。エクサが気
持ち悪い物を見るような目つきでフォンシャンを見つめる。と、そ
こにもう一人厄介な人物が姿を現した。馬に乗った青い髪の青年、
ロイ。
 ロイはシュウを見つけると、馬を走らせ、すぐ近くで飛び降りた。
「よぉ、シュウ」
 ロイは挨拶代わりにシュウの頭を撫でまくる。それを見て、フォ
ンシャンは子供のようにすねた表情を見せた。ロイはフォンシャン
をあごで指してシュウに言う。
「あの人、俺に紹介してくれねーの?」
「ああ。彼はフォンシャンと言う。私をトランザ伯の城から救って
くれた方だ。フォンシャン、こっちはロイ。元反乱軍のリーダー」
「訂正、サブリーダーね。リーダーはシュウに譲った。俺よりいろ
んなことを知っていたからなー。賢くて冷静な奴を反乱軍は望んで
たんだ。で、あんたがフォンシャンかー。以外と見た目はいいよな」
 フォンシャンは不機嫌そうな表情のままロイが指しだした手を握
り返した。と、ロイはフォンシャンの肩を抱いたかと思うと、引き
ずってシュウから離れた。そして、小声でフォンシャンの耳元で呟
いた。
「あんた、シュウの彼氏だろっ? 噂は聞いてるぜ。で、シュウと
は最後までいったんだろーな」
 ロイの表情がスケベになった。フォンシャンも口元にスケベそう
な笑みを浮かべる。そして親指を力強く立てたかと思うと、言った。
「イエッサー。俺の未来の奥さんだもん」
「そーかそーか! って、シメル!」
 ロイはそう言って、フォンシャンの首を絞める。フォンシャンは
笑いながらロイの手をふりほどき、言った。
「ってかさ、もしかして誰もシュウに手を出さなかったわけ? 反
乱軍のくせに」
「おいおい、意味わかんねー理屈だけどよー、本人が男だって言い
張ってるのを逆に手を出してソッチの気があると思われるのも厳し
かったしよー」
 ボソボソと小声で言いあい、ニヤニヤ笑うのがシュウにはどうに
も気になると言うか、女性として耐え切れぬものがあったのか、つ
いに剣を引き抜いた。
「ロイ、フォンシャン。二人とも少しふざけ過ぎなようですね……」
「ちょっっ、シュウちゃん! 待って! そもそも話を持ちかけた
のはロイだしっ」
 フォンシャンは慌ててロイの背後に隠れる。
「ふ、ふざけんな! 俺たちのシュウを寝取ったくせに!」
 ロイ、暴言を吐く。それを聞いてシュウの顔が一度真っ赤になっ
た後、真っ青になった。
「切り捨てても、よいかな、エクサ」
「はっ、よいかと思われます」
 エクサは即答した。うつむいているところを見ると、少し笑って
いるのかも知れない。
 シュウは剣を二人に振り降ろした。ロイとフォンシャンは左右に
分かれて逃げる。
「待て! フォンシャン! ロイ!」
 どちらを追っていいか分からなくなったシュウは剣を握りしめ、
首を左右に巡らせて二人の後ろ姿を交互に見た。
背後でうつむいたまま肩を震わせているエクサに目線をやると、
「帰る!」と一言足早に歩き出した。



TOP/ NOVELTOP/ NEXT/ HOME/




本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース