2 ゴメンなさい、責任持ちます。12


 魔獣と反乱軍との戦いは、いささか混乱していた。相手が魔獣で、
人を殺す恐怖はないが何せ数が多かった。
それも火を吐くファイヤーキャっトが群れをなしている。一見トラ
のように見えるが赤い縞と、尻尾の蛇が魔獣であることを物語って
いた。尻尾の蛇頭からは炎だけではなく毒も吐く。
「先に尻尾を切り落とせ。毒に気を付けなさい」
 シュウはそう言って反乱軍に呼びかけた。
「シュウ!」
 青い髪の青年が、魔獣の合間からシュウを呼びつけた。
「ロイ殿!」
 シュウはファイヤーキャットの脇腹を切りつけ、足の爪を一本を
切り飛ばすとロイに近寄った。
「シュウ、無事だったか。襲われたのはここだけだったようだな。
ばれたのかねぇ、正規軍と俺たちが混雑してるところだし。ウィー
クーポイントをつくところだけはうまいような、トランザ伯爵さ
んはよ」
 ロイはシュウが切りつけたファイヤーキャットの尻尾を一撃で切
り落とした。尻尾は青黒い血を流してピクピクと地面をのたずり回
る。ロイは蛇の頭を足で踏みつけるとシュウの頭を撫でた。
「ありがとう、俺の為に来てくれたんだろ」
 ロイはそう言ってニコリと笑う。まだ幼さが残る笑顔がまぶしい。
「さてと、うちのリーダーさんも来たことだし。さっさと片付ける
かね、子猫ちゃんたち。背中守ってくれるやつがいないとどうもし
まんねーんだよな」
 シュウは微かに笑みを浮かべると、ロイと共にファイヤーキャッ
トの群れの中へと飛びこんで行った。少し焦った様子を見せる従者
に、シュウは言った。
「伝令兵に伝えろ、ここから攻めてくるぞ。エスカイザ様に最低限
でいいから兵を回すようにと――トランザ伯はものすごく陰険な奴
でな、兵が少ないところに厄介な物を送りこんでくるんだ」
  シュウはファイヤーキャットの爪や牙の攻撃から身を交わし、
アイスシールドを張りつつ中心部へと進んで行った。
「ファイヤーキャットは群れの中にいるオスを一匹殺れば一旦は引
くはず」
 シュウはロイにそう言った。ロイは、アイスシールドに足をはさ
まれたファイヤーキャットの目に剣を刺し、牙を剥き出しにする口
の中に剣を突っ込んだ。ゲフゲフと泡を吹いてファイヤーキャット
はこと切れた。
「オスの見分けってつくのかよ?」
 ロイは剣についた血をファイヤーキャットの毛皮でふき取ると、
そうたずねた。
「炎のたてがみを持っているのがオスだ。ついでに尻尾が二本ある
ようだが」
「炎のたてがみ?」
「顔回りの赤い毛色が長いんだ。それが炎に見えるからだ」
「りょーかい」
 ロイはそう言うと、口に指をあてて口笛を吹いた。
「音声拡張」
「分かった」
 ロイの簡単な言葉に、シュウは詠唱をして術を発動させた。
「赤いたてがみを持っている奴を集中的に攻撃しろっ」
 ロイが言った途端、木の上から反乱軍と思わしき青年らが顔をの
ぞかせた。
「ロイ! 左前方だ。けど……手前にメスどもが食事してやがる」
 木の上からそう声がした。ロイは片手を上げ、了解の意を示す。
「矢を放て。ただ、人間には当てるなよ」
「当たり前なこと言うな、ロイ」
 木の上から逆さになって手を振る青年。青年は矢を連続で三本射
る。
「しっかし、この地鳴り、一体なんなんだよ?? さっきからずー
っと響いてる」
「私も先ほどからそれが気になっているのだが――次に何をしかけ
てくるつもりだ、トランザは」
「おっやー、思いっきり呼び捨てじゃん、シュウ」
 ロイはシュウの頭を撫でまくる。
「しっかし驚いたよ、実際。あんたがラスタ伯のガキだったとはね。
道理で言葉使いがちょっと違うとは思ってたんだよな。ま、他にも
秘密持ってそうだけど。その細っこい体にね」
 ロイはシュウの胸元に目線をやる。
「知っているのでしょう、散々覗こうとしていたのですから」
「たはっ。かなわねぇなぁ。でも、俺は身を引くよ。実際伯爵家の
娘とあっちゃね」
 と言いつつ、シュウの頬に唇を付けるロイ。おちゃらけているの
は元々の性格かもしれない。
「こう言う非常事態で二人っきりでしかできないからなぁ、俺は。
聞いてるぜ、彼氏できたんだってなー。しかも大勢の兵の前で堂々
と抱きついちまうような妙に根性座った奴だってね」
 シュウが真っ赤になった。
「違う、あれは……勝手に」
「見たところ一般人ぽかったけど、それでも追っかけてくるなんて
凄いよな」
「か、彼は違う!」
 シュウは慌てたように言う。
「照れんなよ。かわいいなぁ、シュウは」
 ロイはクスクスと笑うと、ファイヤーキャットの頭を跳ね飛ばし
た。炎を吐きかけていたファイヤーキャットの頭が燃えながら地面
に転がった。切断された首から炎がこぼれる。その炎にシュウはア
イスシールドをかぶせ、氷と化したファイヤーキャットの体を剣で
打ち砕いた。肉片が散らばり、凍っていた血が解けだして地面に染
みこむ。
「と、見つけたぜぃ。さて、どう料理する?」
「そ、そうだな、全員でフリーズ魔法をかけてもらうか。ロイの剣
風圧で道を開けさせ、我々は飛翔、フリーズをさせてそこを一気に
叩く」
「了解」
 木の上から先に返事が返って来た。ロイは大きく剣を振りかざし、
振り降ろす。突風が巻き起こり、ファイヤーキャットが道を開ける。
ロイとシュウが飛び退くのと同時に実際の矢とフリーズアローが降
り注いだ。元々暗躍することのほうが多かったと思われる反乱軍に
とって森の中は戦うのに最適な場所だったようだ。
 動きの鈍っているファイヤーキャットを踏み潰してシュウとロイ
は地面に降り立った。そのまま合間を縫ってオスのファイヤーキャ
ットに詰め寄った。ロイは剣を握りしめて胸元に切りかかる。切っ
先だけが毛を刈り取り、ファイヤーキャットは後足で立って大きく
前足を振りかかった。シュウはロイとファイヤーキャットの合間に
入り、首に剣を突き刺した。
 ファイヤーキャットのオスは、しばらく首から血を滴らせていた
が、ロイの更なる腹部への一撃で地面に倒れた。
 オスが倒されたとあって、メスのファイヤーキャットは続々と逃
てゆく。
「ラスタ兵に告ぐ! 一匹も逃がすな! 他の村や町に被害が及ぶ、
最低限に押さえるのだ!」
 シュウの言葉に、ラスタの兵が一斉に動き出した。
「俺たちはどうすっかねぇ」
 ロイは言いながら炎のタテガミと呼ばれる毛を撫でていた。すで
に剣の血は拭われており、鞘に収められている。
「今回はほとんどロイたちの活躍で退けたのだ、疲れた体で深追い
は危険でしょう。少しはラスタの兵にも戦いに慣れておいてもらわ
ねば。それに――地鳴りが気になる。まだ戦いは始まったばかりだ、
用心せねば」
 シュウはそう言って額の汗を拭った。
 乗ってきた馬に戻り、水を口に含む。その場に残っている兵士ら
は、ファイヤーキャットの死骸から毛皮を剥いでいた。
「以外といい戦利品になったな……コイツを売り払って死んだ奴の
家族にわけてやろうや」
 ロイは同じ反乱軍であった者たちにそう言った。
「取りあえずテントにでも」
 ロイは無事に残っているテントの一つにシュウを招きこんだ。
 テントの中は少し散らかってはいたが、どこから攻めるか、もし
くは攻めてくるか、と想定された戦闘パターンが地図に書きこまれ
ていた。
 ロイはぬるそうなコーヒーを注ぐと、シュウと従者に渡した。従
者は一瞬自分で入れたそうな顔をしていたが、シュウの手前もあり
黙って立っていた。
「こんなに早く潜伏場所がばれるとはな。ま、あっちが領境を管理
しているんだ、高いところからいくらでも視察することはできるん
だろうが。他の駐屯場所にも情報は流してるのか?」
「ああ。卵話を持っている伝令兵は必ず魔術士だ。卵話で居場所を
つかまれる事はないと思うが」
 シュウはぬるいコーヒーにいささか顔をしかめる。ロイもまた、
口に含んだもののまずそうな顔をする。
「クソまずいな、このコーヒー。それはともかく、この地鳴りだ。
まさか自分で作った国境を自分で壊してる、ってことはないよなぁ」
「まさか。ただ、嫌がらせと言うのはありえるかも知れない」
 シュウはコーヒーカップを少し遠ざけながら言った。
「トランザ伯は精神的な嫌がらせを得意とする人だと聞いたことが
ある。彼が軍を率いる立場にあるのならば、ありとあらゆる手を使
ってくるだろう。今、エフローデと言う金庫が無限に金を出してく
れている」
「耳栓でも支給してもらっかねぇ」
 ロイは冗談めいたことを言って椅子の上にのけぞる。
「検討しておきますよ」
 シュウはそう言って笑った。
「そう言えば、どうして捕まったんだ?」
 ロイはふと疑問を口にした。シュウがトランザ伯に捕まった時の
ことを聞いているのだろう。
「ロイ、だと思ったんだ。幻術を使われたようで、退散する際にば
らばらになったでしょう」
「あー俺だと思ってついてっちゃったんだ」
「そうですね、そのときはメガネがなかったから」
「今は?」
 シュウはロイに顔を近づけられ、思わず顔を引いた。
「見えてます。高位魔術師が治してくださったようで。これでもう
戦闘に問題はありません」
「高位魔術師か……」
 ロイはシュウを見つめ、言った。
「ラスタの者ならば、ぜひとも我が軍に加わって欲しいもんだよね。
それ以外でも、なんとしてでも……」
「それはできません!」
 シュウが机を叩いて勢いよく立ちあがったため、コーヒーが入っ
ていたコップが地面に落ちた。コーヒーは茶色い染みを作って地面
に吸いこまれてゆく。従者が慌てたようにコップを拾い上げ、どこ
かへ持って行った。
 ロイは目を丸くし、驚いた様子で数秒動きを止めると、口を開い
た。
「どしたの、シュウ。俺、そんな難しいこと言った?」
「あ、いえ……その者、少し問題があって。協力は望めません」
 シュウは言い切った。ロイは「あ、そう」と軽く受け流しただけ
でそれ以上追求することはなかった。
「取りあえず、シュウは自分の兵がいるところに戻りなよ。彼氏ん
ところにねー」
 ロイはニヤニヤと笑うと、真っ赤になってしまったシュウを手で
追い払う仕草をする。
「わかった。ここにはフリューザ公の軍も少し応援に来るだろう。
あまり喧嘩をしかけるなよ」
 シュウはそれだけを言い残し、従者と共にテントを出た。
「シュウに面倒かけるような真似は誰もしないよ」
 ロイはそう言ってコーヒーを口に含んだ。
「……まじぃ」



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