2 ゴメンなさい、責任持ちます。


 美しい木目に囲まれた部屋。微かに木の匂いがする。
 優しい暖かさが部屋を包んでおり、どこからかコトコトと小さな
音がする。
 シュウが気がついたときに感じたのはそれらだった。
 だが、身を起こそうとしたときに、ちょっとした痛みが走り、う
めいた。
「……ここは一体?」
 辺りを見回し、呟いたシュウの鼻に感覚が戻り、バターの香りが
鼻の奥をくすぐった。
「ログハウス二号」
 そう返事を返したのは、フォンシャンだった。
「どうして、私は起き上がれないんですか……?」
 全身に回る痛みに、少し不機嫌そうにシュウが言った。
 フォンシャンは、困ったような表情を見せ、しばらく目を泳がせ
ていたが、答えた。
「んとねぇ、シュウちゃん落ちちゃったんだよ。その……崖から足
を滑らせてね。それで、軽い全身打撲と、左足の骨折を少々……」
 フォンシャンの語尾が段々と小さくなり、にごる。
「私が落ちたのは崖、だったのですか?」
 シュウの鋭いまなざしと問いかけに、フォンシャンは床を見つめ
たまましばらく黙った。
「ごめんね、本当はシュウちゃんが目を覚ましたときには、家に居
る予定だったんだけれど。怪我させちゃった。大丈夫、細かい傷は
もう完治させてあるから。傷跡が残ることもないよ。後は骨折と、
痛いところがあれば追々治してあげるし……」
 フォンシャンは言いながら身を小さく縮めてゆく。最後には小さ
な丸椅子の上に膝を抱え、膝の間から目だけをシュウに向ける格好
になっていた。シュウはその器用な体に小さく笑いをこぼす。
 フォンシャンは、思い起こしたかのように椅子から足を降ろして
立ちあがると、シュウに背を向けてどこかへ行った。戻ってきたと
きには、手に木製の深皿とスプーンを持っていた。器にはトロリと
したスープが注がれており、バターのよい香りがする。目が覚めた
時に感じたバターの香りはこれだったようだ。
「飲んで。タマネギとジャガイモが大量に支給されているから、いっ
ぱいあるんだ」
 シュウはうなずき、スプーンで飲み始める。
「美味しい?」
「ええ……一人暮らしの男性は料理ができるとは聞いていたのです
が、本当のようですね。甘味があって、とても美味しい」
 シュウがそう言った数分後に、皿の中はカラになった。
 スープが胃に十分しみわたった頃、シュウが口を開いた。
「私ならもう大丈夫です。早く皆の所へ戻らなくては」
 ベッドを出ようと布団をはねのけた途端、シュウは動きが固まっ
た。上にワイシャツを着ている以外、身に付けていなかった。無論、
下着は身に付けていたが。
 フォンシャンは慌てたように言った。
「あ、足を治す為に脱がせただけだからっ。それと、ゆっくり動い
た方がいいよ……痛い所があるといけないから」
 そう言うフォンシャンの忠告も聞かず、シュウは起き上がり、腹
を押さえてうずくまった。フォンシャンはシュウを助け起こし、
ベッドに座らせる。
「どこ、痛かった?」
「脇腹が少し……」
 シュウは自分の脇腹を触り、痛みにうめく。
「息、できる?」
 フォンシャンの問いかけに、シュウは額に汗を浮かべてうなずい
た。
「もしかすると、折れてるかもね……ただの打撲だといいんだけれ
ど」
 フォンシャンの手がスッと伸びてシュウの着ているワイシャツの
裾から中へと滑りこんだ。目を大きくして驚いた様子を見せるシュ
ウ。
「この辺?」
 そう言ってフォンシャンは軽くシュウの横腹を触る。答えを聞か
なくとも、シュウの表情を見ればすぐわかった。
「ここ、ね……って、あ……」
 フォンシャンは、自分がしていることに気づいたらしく、気まず
そうな表情を浮かべた。
「こ、これは治療だから、ボイスにも怒られないもーんだ」
 フォンシャンは自分で自分を言い聞かせると、シュウの腹部に触
れる。
「やりずらいから横になって」
 フォンシャンはシュウにそう指示を出す。シュウは言われた通り
にベッドに横になり、目を閉じた。
 しばらくして、フォンシャンはシュウの耳元で囁いた。
「痛いところ、他にはない?」
「はい……」
 そう答えて目を開けたシュウの前には、心配そうなフォンシャン
の顔があった。あまりの近さに、シュウの頬が少しだけ赤く染まった。
「シュウちゃん、どしたの……熱でもでてきた?」
 フォンシャンはシュウの額と自分の額をくっつける。フォンシャ
ンの長いまつげが、見ててとれる。額と額だけではなく、鼻や唇で
さえくっつきそうな距離だ。唇にいたっては、すでにくっついてい
た。
 フォンシャンの顔がシュウからゆっくりと離れる。シュウは閉じ
ていた目を開け、フォンシャンに問いかけた。
「あの、今のは一体?」
「え、あ、えーと、なんかお嬢様相手に今とんでもないことしちゃ
った気がする」
 フォンシャンはそう言いながらも、シュウの手を握って離さない。
 永らく経って、フォンシャンはシュウの手を離し、言う。
「今日はゆっくり寝なよ……」
「でも、あなたも疲れているのでは? 私の事を抱いてここまで辿
りついたのですから、このベッドはあなたに譲るべきかと思うので
すが」
 シュウは部屋の中を見まわして言った。
「ああ、大丈夫。それなら心配しなくてもね、そのベッド、ダブル
だから」
 フォンシャンはそう答えて、ちゃっかりシュウの隣りに横たわる。
 が、すぐに飛び起きた。
「そう言うわけにも行かないかぁ。いいよ、シュウちゃんが一人で
使って。俺は座っているから」
「でも……」
「あんまり俺のこと挑発しないでよ。自制できない性格なんだから
さ」
 フォンシャンの、言っていることと行動がまったく違っていた。
再びシュウの隣りに寝転び、何気にシュウに腕枕をかましている。
肩をこっそり抱き寄せ、自分の胸元にシュウの顔を持ってこさせる。
「あの」
 冷ややかな声で言うシュウに、フォンシャンは一瞬ビクッとした。
「あー、こっちの方が熱下がるかなーと思って。そのうち寒気がし
てくるといけないから、今のうちから」
 フォンシャンは布団を手繰り寄せ、体にかける。
「ゆっくりお休み……何にもしないから――たぶん」
 語尾を自信なさげに言うフォンシャン。シュウはしばらく不機嫌
そうな表情を浮かべていたが、全身に巡る心地よさにウトウトとし
始めた。魔術かなにかでシュウの体を癒しているのだろう。シュウ
はそのまま眠りについた。



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