1 プロローグ 7


 シュウは、数分と経たぬうちに敵集団に追いついた。
 慣れた手つきで剣を鞘から引き抜くと、一番後ろを足を引きずり
歩く男が一人。どうやら先ほどの肉片はこの男のものだったようだ。
 左足のズボンの膝から下が破れており、ねっとりとした光沢を放
つ赤黒いもので覆われていた。
 肉が抉れているのだから、歩けるはずがないのだが、仲間の一人
でも痛覚を鈍らせる魔法でも知っているのだろう。
 しかし、その男が一人でいるところを見ると、仲間にすでに見放
されているのだろう。
「仲間意識の薄いゴロツキか」
 シュウは素早く男の前に走りこんだ。
 ヒゲに覆われた赤い顔が、脂ぎったような汗を流していた。
「ヒェッ」
 がっしりとした箱のような体型の男から出ているとは思えぬよう
な高い声。慌てて方向を転換しようとするが、肉の抉れた足で行う
には無理があっス。
 シュウは手にしていた剣で十字を切って言った。
「どうぞ、安らかに……」
 シュウの剣は、男の背後から心臓部をめがけて突き出された。
 男の胸部から血を弾いて剣が飛び出し、消えた。
 同時に男の体が後ろへとゆっくりと倒れた。
 黄ばんだ白目に、真っ黒く浮かんだ瞳に瞳孔が広がってゆく……
 シュウは右手の人差し指と中指を軽く立てて祈るかのように目を
つぶった。そして、何か魔術言語を話す。
 死体が、土くれのようになって、崩れた。
「シュウちゃん、帰土(キド)の魔法、知ってるんだ」
 少し遅れてやってきたフォンシャンは、シュウが使った魔法に対
してそう言った。
「普通の人は使わないんだよね、祭司とか僧侶とかの、ほんのわず
かな連中しか使わない魔法を良く知ってたね〜」
 少し暗い表情で、シュウが答えた。
「父上が、教えてくれた。私は自分の手を汚したことの言い訳にし
か思えないのだけれど。自分の手を汚した者をなかったことにする
魔法なんて……」
 帰土の魔法とは、生命力を失った人や物を土へと代える。森の深
いところに住む一族が広めたとされている。その一族には、“人は
土から恵みを得、また土へと帰る”と言う考え方があり、そこから
帰土魔法は発生したと言われている。
「そうかなぁ……コイツを見放していった連中よりもシュウちゃん
は優しいと思うよ。ほっといたらゾンビ化しちゃうもんね」
 フォンシャンが言うと、シュウは剣の血を軽く振り払うと鞘に収
めた。
「そう言われても、やはり……」
 シュウはそう言って押し黙る。そして再び歩き出した。
「気持ちは、わからなくもないけれどね。んと、そう言えばシュウ
ちゃんてば、音声魔術使うのね〜。低くくぐもった声がステキー、
今度枕もとで囁いてぇ〜」
 フォンシャンはそう言いながら、シュウの後ろを歩く。すると、
くるりとシュウが振り返った。思わず身構えるフォンシャン。
「跳んでくれませんか。少しずつで良いですから」
「はいはーい。って、殴られないでよかったー」
 フォンシャンは言われた通り空間転移の魔法陣を描く。そして、
シュウを中へとエスコートする。その後を聖鳥シグルが入っていく。
「んーシグルちゃんはどこまでついてくる気なのかしらーん?」
 フォンシャンは首をかしげながら身を魔方陣の中へと投じた。

「いちお、2キロばかし跳んでみたんだけど。今度は余裕もって跳
んでるから顔面打撲はなしだよん」
 フォンシャンはそう言って頭上を飛ぶ聖鳥シグルに向かって言っ
た。聖鳥シグルはそんなことは気にしていない、とばかりにフォン
シャンの頭の上に陣取った。そしてすぐに眠りについてしまったよう。
「あら、シグルちゃんてば冷たいのねー。あれ、シュウちゃん先行っ
ちゃってるし。最近女の子に優しくされてないー……お肌すすけち
ゃうわ」
 フォンシャンは愚痴を言いながらとにかくシュウを追いかける。
「んーそれに俺ってば追いかけるのは苦手……町の灯りも目に入っ
てることだし、別に迷うことはないだろうからいいけどさぁ……や
っぱり体力消耗するなぁ、転移を何度も、って言うのは」
 フォンシャンは遠くに見える光の集合体を見つめて言った。国境
近くの町の明かりのようだ。



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