1 プロローグ 6


 何時間か過ぎた頃、今まで壁に寄りかかったまま目をつぶってい
たフォンシャンが、片目を開けた。それからほんの少し遅れて、聖
鳥ジグルが首を持ち上げて辺りを落ち着かない様子で見渡す。
「シュウ、悪いけど、起きて」
 フォンシャンはシュウの肩を揺すって起こす。
「どうした?」
 眠そうに目をこすり、シュウは聞き返した。
「多分十分ぐらいで連中が到着する。ごめんね、俺がミスしちゃっ
たから。滅多に使わない卵話をするもんじゃないね」
 フォンシャンは荷物をまとめ、外をうかがう。
「ところで、シュウちゃんは飛行魔法使える?」
「多少は」
「国境までの距離はわかってるんだけど、空間跳んだところで国境
に張られている空間移転魔法防御が働いて弾き返されるだけだから」
 フォンシャンはそう言って、シュウの手をとって、引っ張り起こ
キ。
「そう言えば、シュウっていつもそんなもの静かなの?」
「……別に、ここは戦場ではないから。誰かが困っているわけでも
ないし」
「へぇ、シュウちゃんは他の人のことになると熱くなる性格……と、
めもめも〜」
 フォンシャンは言いながら、シュウの手を引いてログハウスを後
にした。
 ログハウスから数百メートル森の中を歩いたところで、フォンシ
ャンにシュウが話し掛けた。
「そう言えば、貴方の名前は?」
「フォンシャン」
 簡単に、そう答えた。シュウは微かにこぼれるあくびを抑え、更
にフォンシャンにたずねた。
「その、どこの家の出ですか?」
 どうやらシュウは、フォンシャンの姓が気になるらしい。やはり
貴族とあって、ある程度相手の身分を尋ねなければ失礼に当たると
思っているようだ。
「ん? 天から降って来たから、特にどこの家の出だとかはないよー
ん。それより、俺の方がシュウちゃんにしつもーん」
 フォンシャンはそう言いながら、握っていたシュウの手を自分の
横へと持っていく。フォンシャンに手を引かれ、シュウはフォンシ
ャンの体に寄り添うような形で前へと進み出た。
「ねね、何で反乱軍になろうと思ったの?」
 シュウの顔が、一瞬堅くなった。
「なぜって……どうしても納得が行かなかったからです」
 シュウは、何か言葉を捜すかのように空を仰いだ。フォンシャン
はその様子を横目でチラリと見て更に突っ込んだことをたずねた。
「納得って、どんなことに対して納得が行かなかったの?」
「父が、国を見て来い、って……そうしたら見えたんです、一部の
者たちだけがいい暮らしをして、その富を分かつどころか奪い、更
に持って来いと要求する――確かに私も身分としては不自由がない。
だからと言う訳ではないけれど、私も誰かの役に立ってみたかった。
父と同様に」
 シュウはそう言って、なぜかフォンシャンの手を握り返していた。
意外と大きな、包容力のある手に父親たるシュルツを思い出したの
かも知れない。
 二人はほんの少し黙って歩いた。
 数秒後、フォンシャンが照れたように言った。
「ありゃー俺としたことがめずらーしく真面目なこと聞いちゃっ
たぁ。んー明日も雨っぽい?!」
 フォンシャンはそう言いながら、自分の脳天気さをいささか嘆く。
 シュウはそれを見て、言った。
「フォンシャン、貴方は面白い方ですね。ところで、私からも一つ
質問が」
「なぁに、シュウちゃんっ」
 ニコニコとしながらフォンシャンは元気良く返事をした。
 シュウは握られている方の手を少し高く持ち上げて言った。
「なぜ、手をいつまでもつないでいるんですか?」
 微妙な間があった。
 その後、フォンシャンはめちゃくちゃ笑顔で――と言うか、半ば
スケベ根性丸出して答えた。
「だって、柔らかくて気持ちいーんだもんっ」
 そして、シュウの手を自分の頬へと持ってゆき、スリスリと頬擦
りをする。
「あの……」
 少し、と言うよりカナリ迷惑そうな表情を浮かべるシュウ。
「シュウちゃんさ、ヒトメボレって信じちゃうタチ? んまぁ、俺
の場合、よくボイスに『またですか』なんて言われてるけど、今度
こそ本気だぞー!!」
 フォンシャンは、更にシュウの両手を握る、と言う行動にまで出
た。
 互いに真正面から相手を捕らえ、見つめ合う。
 と言うか、一方的にフォンシャンが熱っぽい目で見ているだけだ
が。
「あの、良く話がわからないんですけれど……」
 案の定、あっさりとそう言われ、手を軽く振り解かれた。
「あーまたまたふられてしまいましたー。後でボイスに何人目かき
いとこ」
 フォンシャンは、空いた両手を見つめながら寂しげに言った。
「でも俺はめげないもーん。明日に向かって、俺は走るっ!」
「明日まで後21時間ほどあるけれど、走るのですか?」
 シュウはそう言って、懐中時計を出して言った。確かにシュウの
時計は午前3時に程近い。
「ありゃららー。シュウちゃん時計持ってたのね。さすがに21時
間はキツイやー」
「普通、持っていると思うのだけれど。それで、ですね。剣とか持っ
ていないですか? どうも腰に下がっていないと気が引き締まらな
くて……」
 シュウはそう言って、腰に手をやる。その手の上から、フォンシ
ャンが手を沿わせる。
「うーん、確かに物足りないかもねぇー」
 そう言いながら、シュウの腰を撫でまくるフォンシャン。
「もうちょっと丸みが……」
 聖鳥ジグルが、フォンシャンの頭を突きまくった。
「いて、イテテー! すみません、セクハラでしたっ! そのうち
手にいいれてあげるやーね。つか、すぐにかな」
 フォンシャンは頭に乗っかる聖鳥シグルを手で軽く追い払うと、
左手を前方から後方へと流した。
 フォンシャンの手に導かれるようにして、風が前方から吹き抜け
て行く。
「やっぱり匂いがする。いやーん、男くさーい」
 フォンシャンは自分の鼻の前で手をパタパタと振って言った。
「ついでに……火薬の匂い」
 そう言うのと同時に、シュウの手を強く引いて横方向に転がった。
シュウとフォンシャンが先ほどまで居た場所に、たくさんの火矢が
通り過ぎた。魔法によるものと、本物の矢に火がついたものが入り
混じっている。
「まー危ないじゃないのさー」
 フォンシャンは素早く起き上がると、火が放たれた方へと右手を
薙いだ。
 手に沿って光をはらんだ風が生まれ出て、木の隙間を駆け抜けて
いった。
 数秒後、「ギャッ」と声や「グハッ」と言う情けない悲鳴が聞こ
えてきた。
「男って言うのは悲鳴がむさいッ」
 少し怒った様子で、フォンシャンは言い捨てると、シュウを起こ
した。
「たぶん国境はあっちだから」
「その根拠は?」
 シュウに即問いたずねられるフォンシャン。
「あのログハウスはね、国境に近い場所にあったんだよん。普通近
い方から兵は来るもんでしょ……って、やっぱシュウちゃん天然っ
ぽ」
 フォンシャンは自分が風を送った方向へと走り出した。すると、
常人でも感じ取ることができる、血生臭い匂いが漂ってきた。
「んー、ナイス一撃自分! って、あんまりほめられたことではな
いけれども」
 腕が一本、落ちていた。それと、何かの肉片。
「血を追って行けばたどり着くな……はい、シュウちゃん剣」
 フォンシャンはそう言って、二本落ちている剣のうち、血塗れて
いない方をシュウに渡した。
 シュウはそれを手にとり、左腰へと落ち着かせた――と同時に、
顔つきが変わった。
「一刻も早く仲間の元へ戻らねばならない、もっと早く国境を越え
ることはできないのかっ!」
 シュウに一喝され、フォンシャンはたじろぐ。
「あっれー。シュウちゃんてば武器握ると人格変わっちゃう人なの
ね……うーん、美人で天然ちゃん期待してた俺としてはちょっぴり
残念」
 フォンシャンはくすん、と鼻を鳴らし、先に行ってしまったシュ
ウの後を追った。



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