1 焔・散る

 オレの名は炎我。歳は……覚えていない。褐色の肌にルビーアイ。
金の短髪。最初は長かったようだが、邪魔になって自分で切り落とし
た。
 それが、オレが最後に鏡に映った自分の姿だ。だから、少しあいま
いで、間違っているかも知れないが、気にしないでくれ。
 それとオレはもう一つオレの事を知ってるぞ。オレは女だ。多少な
りとも張り出した胸の丸みが、たぶんその証拠だ。
 ちなみに、今、オレにはほとんど記憶がない。だけど、それを不安
を感じたことはなかった。だが、不満はあった。それは日常生活に少
しばかり不都合があると言うこと。何せこれはどう扱ったらいんだっ
け? と思いだすのに時間がかかるからだ。もしかすると、これは物
忘れの部類に入るかも知れないが。
 あ、オレが最近定住しているところは水覇の国。寒すぎて、オレと
しては住みにくいんだが、オレの剣がここに居ろって言っている。
 ああ、オレの剣は炎刃と言う大剣。刃に炎が打ちこまれている。別
に言葉を話すわけではないが、オレの記憶媒体となっている。
 コイツ、炎刃は結構目立つ代物だから、噂の元となることが多い。
それを聞いて、オレは自分が何をしてきたのかを知る。忘れて寝転ぶ
と、「俺を忘れてんじゃねぇ!」と自己主張をしてくる。

 ゲシッ、と音がして、オレの横腹に蹴りが入った。
「ん……」
 オレはうめいて寝返りを打った。
「お嬢ちゃん。いい加減に店の床で寝るの、やめてくんねーかねぇ」
 頭の上から、聞きなれたおっさんの声が聞こえてくる。
「お、おお?」
 オレは頭を軽く振って起き上がった。少し飲みすぎているようで、
あまりすっきりしていない。
 炎刃のせいかと思ったが、横に置いてあるので、違うようだ。取り
あえず今は背中が痛い。
「昨日もタダ酒だっねぇ。酒代賭けて酒豪比べ。これで一週間連続だ
ぞ。よく死なないねぇ」
 オレはおっさんの言葉を無視して椅子に座った。
「仕事、ないのか?」
 おっさんは呆れたようにため息をついた。
「あるよ。二件。ったっく、うちはお嬢ちゃんの伝言板じゃないって
言うのに。んで、一件目。通りを挟んだお向かいさんの踊り子」
「……」
 オレは無視して大あくびをした。
「興味なさそうだね。はいよ、酔いざましのお茶だよ」
 オレはおっさんが入れてくれたお茶をすする。
「それで、もう一件は? どうせろくでもないと思うが」
「それがね、結構まともなのさ。ほれ、最近ずっと雲行きが怪しいだ
ろ、この国。その原因が分かったらしいんだよ。その原因をなんとか
する仕事」
「それが、いい。でも、雲行きが怪しいのはずっと前からではないの
か?」
 いつもどんよりとした雲に、霧で視界が悪い。
 オレの言葉に、おっさんは手を左右に振って言った。
「ちゃうちゃう。水覇の国はそう言うイメージーがあるけど、大河の
流れ綺麗で澄んでいるからだよ。まー半年前からその綺麗な大河が濁
り始めたけどね。とにかく、行ってみるべきだと思うよ、おじさんは」
 オレは少々考えた。別に相手が何であろうと剣を振るって、なおか
つお金が入ってくればいいのだから――迷うことはないな。
「やってみる」
 オレはそう答えて、お茶を飲み干した。
「そうかい、じゃあ餞別にあげるよ」
 おっさんはそう言ってオレの手に薬草の袋を置いた。
「いいのか? オレは相当迷惑かけたと思うが」
「いいさ。相当設けさせてもらったからねぇ。お嬢ちゃんがいるとさ、
野郎は向きになって酒飲んで。繁盛したのさ。だから礼もかねて。そ
うじゃなかったら、お嬢ちゃんなんか外にほっぽり出してたよ」
 オレは内心だったらソファーにでも寝かしてくれればよかったじゃ
ないか、と思った。
「そうか、世話になったな。じゃあ」
 オレは、寝巻き姿で店のおっさんに見送られながら、おっさんの店
を後にした。

     *     *

 オレは、一日前に出立したと言う討伐隊に半日で追いついた。自慢
じゃないが、走るのは早い。
 ふと気づくと、何やら目立つ奴が馬に乗って先頭をしきっていた。
そいつは水覇の国の王だかなんだかで、偉いんだと。オレはおしゃべ
りな傭兵からそんな風に聞いた。とりあえず、黙ってついていけば食
いっぱぐれはないだろうし、道に迷うことはない。そもそも、どんな
仕事なんだ、これ? 討伐隊、と言うぐらいだから、何かを倒しに行
くんだろうが、肝心な何を倒しに行くのかを聞きそびれていたな。
 オレが一人考え込んでいると、辺りはすでに夜になっていた。討伐
隊は、各々テントを張ったりしているが――オレにはそんな用意一つ
もない。
「夜か……他に女はいないのか。オレ、野宿か」
 オレは少し困っていた。今までは酒場で屋根がついていた。だから、
安心して眠っていたが。
 今日は野宿だ。しかも、寒い。マントの一枚ぐらいは持っているが、
それでしのげるかどうかが問題だった。
「少しぐらいの風邪じゃ死にはしないだろ」
 オレが呟くと、ふゎっ、と体が浮く感触があった。
「おりょ?」
「ここの連中は少々手荒い奴もおるでな。このような老体でよければ、
暖をとるといい」
 老人口調にしては、まだ若い声。それにがっしりとしたからだの感
触。それと、女っぽいいい匂い。
 オレは、いつの間にか馬上に引き上げられていた。
「誰? あんた」
「あは、知らないんだ」
 少し、声色にあった口調だった。が、オレはそのときすでに半分眠
りかかっていた。そして、またフワリと抱き上げられて、どこか柔ら
かいところに寝かされるのが分かった。そして、隣りには先程の奴と
思われる体が寄り添う。
 何かされるかな、と頭をよぎる。別に、されてもまったく問題はな
かった。だが、何も覚えていないところを見ると、何もされずに眠り
につくことを許されていたようだ。

 翌朝。目を覚まして、どこにいるのかが良く分からなかった。
 頭が覚めたところで理解できたのは、馬上であったと言うこと。日
がもう高い。ということは、わざわざ半分寝たまんまのオレを運んで
くれているわけだ。
「あー、ご苦労なことで」
「目覚めましたかな、お姫様殿」
「あ? おあ? 誰だっけ」
「はっはっは、秘密じゃ。知っても大した代物ではないのでな」
 オレは顔をしかめた。顔は、まだ若い。たぶん二十代前半。白っぽ
い銀の長髪。決して不健康そうではない白い肌。思わず自分の肌と見
比べて、ため息がつく。オレよりも綺麗だ。
「おまえ、変」
 オレは赤くなりそうな気持ちを払いのけるようにして、口走った。
 奴は笑うと、何も喋らなくなった。オレもそのまま馬に揺られて行
く事にした。オレは恩恵を受けるたちだ。




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